第70話
地下71階に下りてから、アリアに指輪、マリナにミサンガを装備させた。
久しぶりにアリアのニヤニヤ顔を見た気がする。
そういやピンキーリングは壊れちまったからな。
アリアは迷う様子もなく、左手の親指に指輪をはめた。
「親指だと邪「大丈夫です。」」
…珍しくアリアが言葉を被せてきたな。
まぁ大丈夫っていうんなら別にいいんだが…。
マリナは右足に付けたようだ。
この世界でミサンガとか、戦闘してたら簡単に切れちまいそうだな。切れる前に加護がついて付与師になってくれるといいんだが。
地下71階からは魔物に会えば戦って、下り階段を見つけたらすぐ下りるを繰り返している。
地下72階からはアリアの『ステアラ』をかけていないと2人で倒すのはしんどくなってきた。
現在は地下75階なんだが、ステータスアップさせてても一体の魔物にかかる時間が長くなってきた。
相手の攻撃はまだ避けれるが、こっちの攻撃がたいしたダメージを与えられていないみたいだから、なかなか倒せない。
2対1でこれだから、囲まれたらギブアップしそうだ。
『ギブアップ=死』だから、ギブアップなんてできないんだがな。
これだといつまで経っても先頭グループには追いつけないだろう。
既に先頭グループが通った道を通っているだけなのに追いつけねぇとか、同じ人間なのに実力差がありすぎだろ。
正直ヘコむ…。
「アイン。現在の他のパーティーの進行具合を教えてくれ。」
「はい。現在先頭グループは7組のSランクパーティーで地下80階のフロアボスと戦っています。その後ろがSランクパーティー1組とAランクパーティー3組でなっている混合グループが地下78階の魔物と戦闘中です。私たちが地下75階で、後ろに…Sランクパーティーが1組、ちょうど地下75階に下りてきたようです。」
第三王女がブレスレットで誰かと連絡を取りながら教えてくれた。
さっきあんなことがあったのに対応が変わらないが、第三王女的には許容範囲内だったのか?
だとしたらかなり予想外ではあるが、良かったと取るべきだろう。
「参加パーティーってけっきょく何組だったんだ?」
北門にはけっこうな人数がいた気がする。
「リキ様のパーティーを含めてちょうど20組でした。」
マジか。
7組もパーティーが脱落してるのかよ。
死んだのか逃げたのかは知らないが、俺らもそろそろ限界っぽい。
だけどまだSランクのやつらの戦闘を見れてないから帰りたくねぇな。
「一気に80階まで行きたいんだが、頼めるか?」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
たぶん地下80階にいる騎士を1人呼んで、合流次第送ってもらうのだろう。
ここは上り階段からちょっと離れてしまったから、騎士が来るのは5分から10分後くらいかな。
「ちょっと待機だ。魔物が来る可能性があるから気は抜くなよ。」
「リキ様!何か来ます。危険です。」
「は?」
セリナが短剣を両手に持ち、腰を低くして後方からくるだろう何かを見ている。
そっちは上り階段の方だが、騎士が来るには早すぎる。
俺には何も見えないから、危険といわれてもな。
このフロアの魔物は既に1体倒しているが、そこまで危険なやつではなかったし、何が来るっていうんだ?
しばらく見ていたが何も来ないからセリナを見ると、構えを解いて申し訳なさそうな顔をしていた。
「どうしたんだ?」
「消えちゃった。」
「は?どういうことだ?」
「わからにゃ〜い。」
テヘペロって効果音がつきそうな顔をしやがった。
セリナは整った顔をしてるから舌を出してウインクした顔が似合ってるのがさらにムカつく。
もちろんブスがやってもムカつくんだろうがな。
ガントレットを握るとカチャッと音がなった。
「ごめんにゃさい!調子に乗りました!でも本当にわからにゃいんです!殴らにゃいで!」
イーラ以外をガントレットで殴ったら死んじゃうだろうから、このまま殴るつもりはねぇよ。
「消えたって、壁の向こう側の気配までわかるセリナがわからなくなるってことは本当に消滅したってことか?」
俺らの後ろには確かSランクパーティーがいるっていってたよな?
これだけ離れてても危険を感じるような魔物をそいつらが一瞬で消滅させたってことか?
「壁一枚隔てた部屋くらいにゃらにゃんとにゃくわかるけど、それ以上は私だってわからにゃいよ?壁がにゃければある程度遠くまでわかるけどね!」
今度はドヤ顔かよ…。
カチャッ。
「にゃんでよ!イーラの自慢は褒めたのににゃんで私は殴ろうとするの!?」
そうだっけっか?
「覚えてねぇが、ペットがやると可愛いけど妹がやるとウザい的なやつか?」
でも歩がやったら可愛いだろうけどな。
「イーラはペットじゃないもん!」
「ペットじゃなきゃなんなんだよ?」
「愛人?」
俺はそもそも結婚してねぇし、歩の顔でそういうことをいうのはやめろ。
「ニャハッ。じゃあ私が本命?」
屈託なく笑うようになったのはいいことだが、調子に乗るのはよくねぇな。
「2人の気持ちはわかった。このクエストが終わったら俺が直々に本気で戦闘訓練してやるから楽しみにしとけ。もちろん本気だからガントレット着用だ。」
イーラは嬉しそうに笑い、セリナは顔から血の気が引いたように青ざめた。
「約束だよ!」
なんでイーラは喜んでんだよ!?舐められてんのか?
まぁいいこのガントレットなら多少の痛みは与えられたからな。反省するまで殴ればいいだけだ。
「…。」
セリナは口をパクパクさせて、何もいえなくなってる。
まぁセリナなら避けられるだろ。なんせ避けなきゃ死ぬから死ぬ気で避けるだろうからな。
セリナが青ざめた顔のまま口を押さえた。
え?嘘だろ?吐く気か!?
いや、なんとか我慢したようだ。
「死にゃにゃいようにお願いします…。」
そういやセリナは泣くまで…泣いていようが関係なく俺に殴られたことがあったな。
あれは虐めてたとかじゃなくて戦闘訓練だからセリナも納得してると思ってたんだが、トラウマになってんのか?
「俺が仲間を殺すと思ってんのか?」
「…。」
こいつ目を逸らしやがった。
「…リキ様は仲間には優しい方です。」
アリアはわかってるじゃねぇか。
「知ってるよ〜。だけど悪いことしたらすごく怒るし、殴るときにあまり加減してくれないから…ねぇ?」
「…。」
「おい!アリアまで何いいくるめられてんだ!?」
「…ごめんなさい。セリナさんは悪いと分かっているのなら最初からやらなければいいと思います。」
「だってリキ様にかまってほしいんだも〜ん。」
何いってんだこいつは。
「まぁいい。そんなに俺が信用ならないなら、身代わりのブレスレットは予備が2つあるから、ハナから殺す気でいってやるよ。」
「ごめんにゃさい!!!!!」
セリナが綺麗なジャンピング土下座をしてきた。
「んに゛ゃっ。」
その頭を踏んづけたら、潰された猫のような声を上げた。
土下座されるとなんか頭を踏みたくなるよな。だから特に意味はないのに踏んでしまったのは仕方ない。
「わかりゃあいいんだよ。元気なのはいいが、調子には乗るな。俺が放つ空気はちゃんと読め。」
「はい…。」
「何か不満なのか?」
「そんにゃことにゃいです。」
「本当は?」
「にゃんでイーラは許されるのかって思った。」
ハッとした顔でセリナは口を押さえた。
バカだとは思ってたが、ここまでとはな。
まぁ不満はいわなきゃ解消してやれねぇからいいんだけどよ。
「イーラは反省するまで殴るよ。それに俺は怒ってるわけじゃないから、許すも何もない。これはただのオシオキだ。かまってほしいんだろ?なら喜んで受けろ。」
「…はい。」
一通りの話が終わったところで、騎士が到着した。
「じゃあ地下80階まで頼む。」
「かしこまりました。」
第三王女が騎士に指示を出し、リスタートを発動させた。
「お先にどうぞ。」
「あんがと。」
俺のパーティーから先に通って地下80階に来たが、けっこう魔物がいるな。
「先頭組はちゃんと魔物の討伐はしてんのか?」
後から出てきた第三王女に確認を取ると、首を横に振った。
「先頭のグループは魔物とは極力戦わずに攻略優先で進んでいるようです。この後のグループが通り道の魔物を倒しているので、私たちが来た道はそこまで魔物がいなかったらしいです。」
そういや依頼はこのダンジョンの攻略だから魔物を討伐する必要はないのか。
俺らは急に強い魔物に会って死ぬのが嫌だから戦ってただけだしな。
「とりあえず先頭組と合流する。今回は無理に魔物は倒さない。だからカレンとマリナも気をつけろよ。」
「「はい。」」
「先頭がイーラ、真ん中にカレンとマリナ、右がセリナ、左が俺で少し後ろにアリアの陣形を維持して走るぞ。アリアは出来るだけのステータスアップを頼む。」
「「「「「はい。」」」」」
返事をしたあと、イーラが走り出した。
人型だからカレンやマリナでもついていける速度だ。
イーラはこの陣形の意味がわかっているようで、通路上にいる魔物を右か左に振り分ける。
右に来た魔物はセリナがさらに壁に追いやり、左に来た魔物は俺がさらに壁に追いやる。
そして魔物が次の行動を起こす前にアリアまで抜ける。
仮に攻撃がアリアに向かっても一撃を避けるくらいはアリアなら出来るだろう。
アリアより後ろのやつらは知らん。
魔物を倒さず走ったおかげで、すぐに下り階段に着いた。
下り階段には結界のようなものが張ってあり、目の前の扉は閉じられている。
まだ先頭組はフロアボスと戦っているようだ。
「待ってるのも暇だから、俺とイーラで一体だけ倒してくる。念のためアリアはついてきてくれ。セリナはマリナとカレンを見ててくれ。」
「「「「「はい。」」」」」
ここに来る途中で最後に見かけた魔物のところに向かった。
今回は第三王女はついてこないようだ。
「ねぇねぇリキ様。魔法を使ってみてもいい?」
そういやイーラはエルフを捕食したから魔法も使えるのか。
「かまわないが、MPの消費に気をつけろよ。あと、俺たちを巻き込むようなのはやめろよ。」
「は〜い。」
イーラが右手を広げて前に出すと、イーラの周りに6つの光が現れた。
6つの光が魔物の方に向かい、魔物の周りで止まった。
イーラが右手を握ると6つの光から光線が出て、魔物を貫いた。
それで死んだであろう魔物が足で立っていられなくなって倒れたが、光線はなくなってないから魔物の体がバラバラになった。
狙ったのかは知らないが首から上は無傷で転がっている。
…は?
5階も上の時点で俺とイーラの2人がかりでしんどかったのに、アッサリと倒しやがったぞこいつ。
「魔法って凄いね!」
イーラは初めての魔法に喜んでいるようだ。
ってかこいつ完全に無詠唱だったな。
エルフじゃなくても思念発動できるのか?それとも捕食は特別?
まぁ考えたって無意味か。
魔法が使えるやつが増えたんだから良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます