第65話
マリナいわく、さっきのエルフの奴隷の主は『奴隷使い』っていう2つ名があるAランクの冒険者だそうだ。
ちなみに最初に会った化物級の男も『
他にも2つ名がある冒険者がたくさんいるようだが、興味がないから覚えてない。
マリナはダンジョンに着くまでの数十分、ずっとそんな話を隣でするからウザいのなんの。
でも、かなり熱心に喋ってるから、止めるのも面倒で放置した。
そもそも俺が「2つ名があるってことはけっこう有名なやつなのか?」なんて質問をしたせいでスイッチが入っちまったみたいだから、勝手に喋るのは邪魔しないことにした。
俺は聞いてないが、マリナとは反対側の俺の隣にいるアリアが聞いてるから、必要なときは教えてくれるだろう。
エルフの主は2つ名があるくらい有名なのだが、一昨年までは知られてなかったらしい。
その後1年でBランクまで上がり、5ヶ月前にAランクになったらしい。
噂ではもうすぐSランクになるだろうっていわれているらしい。
それだけ急激に成長したことで有名になったそうだ。
エルフの主は戦闘奴隷をこき使う戦い方をするらしく、それを見た誰かが『奴隷使い』って呼んだのが広がって、他のやつも呼ぶようになり、その2つ名になったらしい。
そういやあいつの奴隷はエルフ以外ほとんど装備をしてなかったな。といってもエルフはなんか良さげな杖を持ってたのと服がボロ布じゃなかったってだけだけどな。
主だけは顔以外をプレートアーマーで覆い、背中には大剣、腰には装飾過多な短剣を差していた。
だいぶ金使ってんだろうなって感じだった。
たぶん戦闘奴隷に戦わせて、主は安全にレベル上げやらクエストやらをしてるんだろうな。
だから弱いのだろう。
まぁあいつが先に『奴隷使い』って2つ名になったから、俺が呼ばれる心配がないのは唯一の感謝だな。
俺は有名になるつもりはないから関係ない話か。
今さら気づいたが、この世界は時計はないくせに月日は存在するんだな。
でもカレンダー的なのは見たことないが…今度アリアに聞いてみるか。
ダンジョンに到着すると、パーティーからリスタートを使えるやつを1人ずつ選出して、攻略されてるとこまで騎士のリスタートについていく流れみたいだ。
「第三王女。ダンジョンが攻略されてるのは何階なんだ?」
「遠慮せずにローウィンスとお呼びください。」
「…第三王女。ダンジョンが攻略されてるのは何階なんだ?」
「ローウィンスが嫌でしたら、ローでもアインでもかまいませんよ。」
話が進まねえ。
ってかローはわかるがアインってのはどう略したんだ?
でもアインならアダ名ってことで、呼んでも面倒ごとにはならねぇか。
「わかったよ。アイン。このダンジョンは何階まで攻略されてんだ?」
またしても護衛の騎士の1人が拳を握りしめた。でも、お前と呼んだときよりは殺気はないがな。
「地下64階と報告がありました。なので、超大型な可能性があります。」
わからないからアリアを見た。
「超大型?」
「…ダンジョンの大まかな種類分けです。地下50階に満たないのが中型。地下70階までが大型。それを超えるのが超大型です。」
「なるほどな。あんがと。」
アリアの頭を撫でながら、第三王女に視線を戻した。
「全員が地下64階からスタートしないといけないのか?」
「本来はそうですが、リキ様なら何階からでもかまいませんよ。ですが、貢献度としては数えられなくなりますがご了承ください。」
そりゃそうだよな。でも、いきなり地下64階に行ったら強すぎて死んじゃいましたじゃ洒落にならねぇからな。
金にならなくてもこのダンジョンがどんなものかを知っとくべきだろう。
「それじゃあ20階から5階ずつ下りて行きたいんだがいいか?」
「かしこまりました。今、他の冒険者たちを連れて行った騎士が全階層をリスタートで行き来できますので、終わり次第その者を連れて参りましょう。」
「助かる。」
騎士が仕事を終えるのを待つ間になんとなしに周りを見ると、さっきのエルフが俺を見ていた。
目があうと、エルフがこっちに歩いてきた。
アリアが俺のチェインメイルの裾を握っているからなのか、このエルフが既に奴隷とわかっているからか、今はそこまで殺意が湧いてこない。
視界に入るだけでイライラはするけどな。
「なんかようか?」
エルフは目の前で立ち止まった。
「私はあなた様に何かをしてしまったのでしょうか?」
「お前がしたんじゃないが、キャンテコック・クルミナーデというエルフが俺を裏切り、その裏切りをエルフが手伝った。だからエルフは許さない。恨むならキャンテコックを恨め。まぁお前が奴隷である限り、俺はお前に手を出せないがな。良かったな。」
エルフが話の途中で微かに驚いた顔を見せたが、すぐに戻った。
「どうしたらエルフを許していただけますか?」
「キャンテコックを俺に差し出せばキャンテコック以外はもう関わらないでやってもかまわないが、あいつはダメだ。俺は裏切りを許さない。」
「そうですか…。」
下を向いて何かを考えているようだ。
見方によっちゃ悲しんでいるようにも見えるが、表情に変化がなさすぎる。
「ってかお前の主が戻ってきたら面倒だ。早く消えろ。」
「申し訳ありませんでした。失礼します。」
一礼をした後、元の場所に戻って行った。
エルフが離れたのを確認してからアリアは俺のチェインメイルから手を離した。
どんだけ心配されてんだよ俺は。
でも、おかげで普通に話せたから余計なことはいわなくていいか。
一度、全パーティーの1人ずつに地下64階まで行かせた後、騎士が全パーティーのリーダーを集めてチーム設定を行った。
仕事を終えた騎士たちに第三王女が話をして、全階層にリスタートできる騎士が1人ついてくることになった。
「これからダンジョンに入るから、装備はちゃんとしておけよ。」
「「「「「はい。」」」」」
「今回はマリナがどの程度戦えるかが不安だから地下20階からスタートする。だから、マリナは無理そうならちゃんといえよ?無理して身代わりの加護を消費なんてしたら、ぶん殴るからな。わかったか?」
「…はい。」
Sランクと聞いて緊張してるのか?
舐めてかかって死なれるよりはいいか。
今回はクリアナが全員分の身代わりの加護のブレスレットをくれたから、少し気が楽ではある。
俺のはまだ消費されてなかったから、クリアナからもらったやつはアイテムボックスに入れてある。
アオイに着けようかと思ったが、上手く着けられなさそうだったからやめた。そもそも効果がちゃんと発揮されるかも怪しいしな。
ちなみにイーラにも渡してない。変身した際に大きさが合わなくなってぶっ壊されたらたまったもんじゃないからな。
あのときのイーラは拗ねていたが、加護を移し終わった鉄くず間近のガントレットと折れたトンファーをやったら機嫌を直した。
ようはなんか欲しかっただけなんだろう。
先に俺1人が騎士に連れられて行くのかと思ったが、騎士は第三王女たちとパーティーを組んだようで、リスタートで空間を開いて、第三王女たちが通る前に俺らを通すという形をとった。
さっきもそうすりゃ良かったんじゃねぇかと思ったが、もしかしたら人数制限とかがあるのかもな。わからんけど。
「さて、まずは魔物を見つけないとここの魔物の強さを知ることができない。だからセリナとイーラで魔物を探して連れてこい。」
「「は〜い。」」
2人は仲良く走って奥へと進んでいった。
「私たちは行かないのですか?」
「俺の都合で必要以上のフロアを回ることになるんだ。そのせいでお前らが疲れて先に進めなくなるなんてなったら面倒だからな。」
今度は騎士の1人が睨んできやがった。
その程度で疲れるような鍛え方はしてないとでもいいたいのかね。
でも、お前らはそうでも第三王女は鍛えちゃいないだろ。
第三王女をチラ見してからその騎士に視線を戻すと、そのことに気づいたのか唇を噛み締めた。
「心配していただきありがとうございます。ですが、必要なポーションなどは持ってきていますので、そんな気を遣われなくて大丈夫ですよ。」
この金持ちが!
体力回復すらも金で解決とはさすが王族だな。
「既に2人を行かせちまったから、今回はここで待って、次からは普通に探索する。」
「かしこまりました。」
しばらくして2人が戻ってきた。
イーラが担いでいた猪のようなものを俺たちの前にそっと置いた。
「このフロアの魔物は簡単に死んじゃうから生きたまま連れてくるの大変だった〜。」
「イーラが美味しそうとかいって食べるからじゃん!それで次を探すのが大変だっただけじゃん!」
「なんでいうの!」
「イーラが嘘つくからだよ!」
「わかったから喧嘩すんな。イーラも嘘なんかつくんじゃねぇよ。馬鹿はしゃーねぇが、嘘つきは好きじゃねぇ。」
イーラが慌てて俺にしがみついてきた。鬱陶しいな。
「ごめんなさい!だからイーラを嫌わないで!」
「じゃあ嘘はつくんじゃねぇ。間違ったことをしたら素直に謝罪だ。わかったか?」
「はい。…ごめんなさい。」
イーラはなんだかんだいってもまだ0歳だからな。仕方ない。
「わかればいい。そんでこいつは生きてるのか?」
「会った瞬間に逃げられたから、麻痺にして持ってきたんだよ。」
魔物が逃げるって、そんなことあんのかよ。
「マリナは前に出ろ。あと、アリア。」
『フェルトリカバリー』
『ルモンドアヌウドゥ』
猪が逃げられないようにマリナと一緒に閉じ込めたか。
魔物にもアリアの魔法は効果があるようで、麻痺が治って起き上がった。
「マリナは1人でそいつを倒せ。」
「はい。」
俺が見た感じではマリナの方が断然強いが、実際に戦えるかはまた別だからな。
今回は時間がなさすぎてレベル上げしかしてないし。でも冒険者歴は長いから大丈夫だろう。
『ウインドカッター』
風の刃を作り出したが、猪はそれが見えないようで、突っ込んでバラバラになった。
一撃だったから力量がわからないが、まぁ魔法は通じるレベルではあるみたいだな。
というか魔法を使った本人が一番驚いているようだ。
まぁレベル以上にステータスが上がってるから、自分の魔法が予想以上の威力だったんだろう。
これなら先頭切って戦わせるとかでなければ多少強い相手でも問題ないだろう。
「大丈夫そうだから地下25階に行くぞ。」
「「「「「はい。」」」」」
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