第25話
疲労の限界がきたのか、近くにいた最後の魔物を倒した途端、プツンと糸が切れたかのように倒れた。
ダンジョンに到着し次第、怒りのままに魔物退治をしていたから、ここまでの記憶が曖昧だ。
大の字になって天井を見つめる。
ダンジョンの天井は何かがキラキラと光っていて綺麗だ。
隣では俺が最後に倒した魔物をイーラが食べている。
無我夢中で魔物を倒しては下の階へと繰り返していたから、今が何階なのかよくわからない。
アリアのいっていた通り、1つの階に大量に魔物が蔓延っていたから、一体一体は強くなくてもかなり倒し甲斐があった。
だからそこまで階は下りてないだろ。
『ヒーリング』
怪我はしてないと思うが、アリアが俺にヒーリングをかけてくれた。
緑の光に包まれるとなんだか疲労も抜けていく気がする。
「今って何階だ?」
「…地下6階です。」
思ったより進んでたな…
1階にも魔物がいた気がするから、7フロアも魔物退治をしたのか?
自分のステータスを確認すると、調教師も魔法使いもカンストしてた。
だいぶもったいないことをしてしまった。
そういやイーラも何回か進化許可申請がきてたしな。
とくに確認もせずに許可したが。
とりあえず、だいぶ遅いがカンストした2つを魔導師と調合師に変えようとしたら、新しいジョブが2つも手に入っていた。
解説を発動。
魔物使い…魔物を使役する者に適したジョブ。上限は80レベル。
戦闘狂…戦うことが好きな者に適したジョブ。上限はない。
戦闘狂ってジョブなのか?
でも俺にも上限のないジョブが手に入った。
SPも手に入ったから、シクススジョブとセブンスジョブを取得して、魔物使いと戦闘狂も入れておく。
今回はセリナの特訓がメインだから、スキル確認とかは後回しにしよう。
最初の予定の地下5階は過ぎちゃったし、地下10階を目指すか。
だいぶ体を休められたから、立ち上がる。
「俺のストレス発散のせいで時間をくっちまったが、これからセリナの特訓を始める。第3段階だ。」
「はい!」
たぶん冒険者とかのジョブを手に入れているだろうから、それだけ先に取らせるか。
「まずはSPでジョブ取得を取得しろ。」
「はい。」
「そしたらジョブ取得を発動させろ。…何がある?」
「冒険者と…復讐者です。」
復讐者なんてジョブもあるのか。
戦闘狂も復讐者も仕事じゃねぇけどな。
「じゃあセカンドジョブとサードジョブを取れ。」
「はい。」
これから戦闘をさせるから、レベルが上がってる獣人族はそのままファーストジョブにし、残りをセカンドジョブとサードジョブにした。
「そしたらこれらをベルトに付けておけ。足でも腰でも好きな方に付けろ。」
ガントレットを取りに行ったときにセリナ用のベルトを2つ買っておいた。
左の太もも用と腰用だ。
セリナは俺が渡した血避けと消音の短剣を腰に付け、投擲の短剣を腿に付けた。
セリナが持ってる短剣は俺の短剣よりも全部が小ぶりだから、セリナの体格でも5本付けても邪魔にはならなそうだ。
全部で5本の短剣を持っている姿は異様だがな。
あとは靴をまた交換する。
セリナは速度重視で育てるつもりだからな。
「これから俺はダズルアトラクトは使わないから、セリナにも魔物が向かう。だけど攻撃はくらうな。避けろ。」
「はい。」
「セリナが攻撃していいのは魔物の背後に回れたときだけだ。正面から魔物に触れるのは禁止する。避けるためでもだ。避けるときは魔物に触れずに避けろ。そして背後に回って攻撃。慣れるまでは攻撃できなくてかまわないが、この2つは必ず守れ。守ってないのを見つけたらこのガントレットのまま殴る。わかったか?」
「!?…はい!」
もちろん加減はするが、いい脅しにはなったようだ。
「アリアはセリナを見ててやってくれ。金貨5枚をすぐに死なせたくないから、アリアのフォロー頼りになるかもしれない。ただ、特訓中はステータスアップの魔法は禁止だ。」
「…はい!」
これで準備は大丈夫だろう。
食事を終えたイーラも俺の頭に戻ってきやがった。
なんか少し大きくなってる気がするな。
全員が大丈夫そうなのを確認して、地下7階に下りた。
地下7階は虫のフロアみたいだ。
ウジャウジャとデカい虫たちが蠢いている。
気持ち悪い…。
アリアとセリナを確認すると、アリアは気にしていないのかいつも通りだ。
セリナは顔が青い。
でも、これなら触りたくないから必死に避けるだろうし、逆にいいのかもしれないな。
俺はここからは短剣を使う練習をしよう。
ミノタウルスみたいにガントレットが通用しない敵に会ったときのためだ。
血避けの短剣を腰から外して構える。
ってか虫の体液も血避けの効果範囲だよな?
淡い期待を持って、戦闘を開始した。
結果的には短剣でも戦えているのだが、なんか違う気がする。
せっかく刃物を使っているのに切っているというより殴っている気がしてならない。
実際、魔物の体が不恰好に抉れているのだから、使い方がおかしいのだろう。
たぶん軽量の加護で衝撃があまりないのと、武器が鋼で丈夫なのをいいことに力任せでやっているということなのかもな。
セリナをチラ見すると、避けては後ろに回り、浅くだが切っている。
切ってから少し間をおいて、虫の体液が噴き出す。
なんかかっこいいな。
俺と違って一撃で殺せてはいないが、あれが正しい短剣の使い方な気がする。
少なくとも俺よりは正解に近いだろう。
ちょっと真似してみるか。
少しデカい魔物が突進してきたから、避けるときに短剣の刃をかるく魔物に当てる。
このあとどうすんだ?
考えていたら魔物が通り抜けるさいに勝手に切れた。
なるほど押し込むんじゃなくてスライドさせるのか。
なんとなくわかったかもしれない。
その後も魔物相手に試していく。
試すのには事欠かない量の魔物がいるからな。
10体倒したあたりで、スライドするさいに短剣がブレないようにするといいことがわかった。
20体あたりで力まない方がいいことがわかった。
もう数えるのをやめてからしばらくしたら、短剣の使い方がなんとなくわかった。
もちろん完璧とはいい難いレベルだが、セリナにバカにされない程度にはなってるだろう。
そしたら次は普通の剣を使ってみるか。
短剣を腰に戻し、ダメージ貫通の剣をアイテムボックスから取り出す。
短剣を使ってたからけっこう大きく感じるな。
これで小さい魔物を倒すのは苦労しそうだ。
ちょっと先にいる大きめのやつを狙おう。
通り道にいた小さい魔物たちは剣で叩き潰した。
これは練習じゃないからいいんだ。
大きな魔物はカマキリみたいだ。
両手が鎌じゃなくて刀みたいになってるのと色が赤い以外はまんまカマキリだ。
カマキリが先手を取ってきた。
思いの外早いな。
刀の手で切ろうとしてきたのを剣で受け流す。
そのまま懐に入って、『切る』ことを意識しながら斬りつけたら、もう片方の刀の手で受け止められた。
俺が練習しながら戦っているとはいえ、対応してくるとはなかなかやる魔物だ。
今までの雑魚とはレベルが違うのだろう。ちょっとテンションが上がってきたな。
互いに出方を伺う。
俺は少しずつ間合いを詰めていく。相手の方がデカいし腕も長いからな。
他の魔物が来ないかにも気を配りながら、カマキリの刀を意識する。
そしたら、予想外に口から何かを吐き出してきた。
咄嗟に避けたところにカマキリの刀の手の突きがきたのを避けながら剣を振り上げて腕を切り落とす。
体液が吹き出し、視界を塞がれる瞬間に直感が危険を察知して、無理やりに姿勢を低くすると、頭スレスレを残ってる刀の手が通り過ぎた。
冷や汗をかきながら、体を捻って剣で残りの腕も切る。いや、千切ったといった方が正しそうな当たり方だった。
両腕がなくなったカマキリは羽を広げて威嚇してきた。
こいつは口から何かを吐き出すけど、この威嚇を見るにもうほとんど手はないのだろう。
いたぶる趣味はないから、一撃で仕留めてやるよ。
そんなことを思っていたら、いつの間にか壁を伝って近づいていたイーラがカマキリの頭に飛びついた。
飛んでる最中にイーラが膨張し、スッポリとカマキリの小さな頭がイーラの中に収まった。
カマキリは暴れだすが、一瞬で終わり、巨体がパタリと倒れた。
消化速度が増してるな。
というかそんなグロいものを見せるなよ。
残りの体も切り落とした刀の手も全部食して満足したイーラは俺の頭に飛び乗ろうとした。
もちろん避けた。
地下7階に下りてからイーラは倒した魔物処理をしていたから、ずっと俺の頭には乗っていなかった。
普段から空気だからいてもいなくてもたいして気にはならんけどな。
俺の元に戻ってきたってことはこのフロアで俺たちが倒した魔物も食べつくしたのだろう。
他の魔物はまぁ許容できたが、虫はダメだろう…。
口がどこかはわかんねぇけど、虫を食ったやつを触りたくはねえな。
あからさまな拒絶をしたせいか、イーラが落ち込んでいる。
でもイーラの速度に合わせて歩いたらかなり遅くなりそうだしな…。
「しゃーねぇな。」
大量に用意した水を入れた瓶をアイテムボックスから1本取り出して、イーラにかけた。
「頭に乗るのはこれで綺麗になってからにしてくれ。」
イーラに水をかけているのになぜか地面が濡れない…吸収してるのか?
全量かけ終わったところでイーラが俺から少し離れた。
不貞腐れたか?
何をするのかと思ったら、吸収した水を全身から霧状にして吹き出した。
吸収した水の量ほどではないから、まだ体内に蓄えているんだろうけど、どこに入ってるんだ?
表面を綺麗にしたイーラが戻ってきて、俺の体を登ってきた。
飛びついて避けられたのがよっぽどショックだったのか、今度は飛びつかずに足から徐々に登って、頭の上に乗っかった。
なんだか満足そうだ。
まぁ機嫌が直ったならいいか。
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