ウタカタ銀世界

天霧朱雀

ウタカタ銀世界

第0話 カミサマなんて幻覚だった。


 白の世界というわけではない。雪の色は遺骸のそれだった。太陽のかすかな光を鈍色に照り返す。白銀になれなかった大地に残す轍は反戦と激戦区。助かる事の無かった家族たちと、類する同胞がごろごろと転がっていた。それをも嘘みたいに覆い隠す鈍色。静かに終わっていくエリアだけど、私にとってはここが故郷だった。

 生まれ落ちた意味など無い。

意味があるなら教えて欲しい。――なんせ人類もほとんど残っていないのだから。

カミサマは簡単に消えてしまった。縋っていた信者は自然に還り、宗教が廃れてしまった。おかげでどんなカミサマに見放されたのか、いったいどれだけのカミサマがいたのか、この世界がどうしてこうなってしまったのか、私も家族も同胞も知らない。人類が減るころには教科書という文化が途切れてしまった時代だった。


 幸せとは言い難いがそこそこ満足な生活だった気がする。

 けれどそれも今日で終わり。カシラの背中を見て暮らして生きていくことになったけど、いまだかつて両親が目の前でカシラよって殺された事実を受け入れられていない。

「お前でも立派な駒として働いてもらうからな」

 悪戯に頭をなでるが、人殺しの手で私の真っ赤な赤毛を撫でるのは、自分の頭から返り血を被ってしまった気分に陥る。

「かしこまりました」

 気休めに返事をして、そこらへんに転がる鉄パイプを手にする。襲い掛かろうと試みたけれど、弱肉強食とはよくいったもので、カシラの下でしかもう生きていけない。カシラに殺されるのがオチだった。

 どうしたって私は一人では生きていけない。地球という惑星が終焉を迎えようとしているさなか、生きることを足掻く意味なんてあるのだろうか。土の上に一枚の鴉の羽が突き刺さっている。私はそれを手にして、考えることをやめたんだ。

 いくら考えたって、死にたくないならどうすべきか、決まっているようなものなんだから。

 私のアイディIDを読み込んだカシラは、私の事をカシラの組んだプログラムコードのようにエリアBの組織の一員として組み込んだんだ。


続く

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