帰還したカナタたち その2
「おれはちゃんと早くここまで送り届けたぞ。街までは乗せていくから、それで仕事は成立のはずだ」
「これから気の長いことになりそうですね。僕たちにできるのは戦いの準備をすること、それには身体を休めることでしょう」
「ここしばらくはハードな日が続いてましたよね」
話し合いの結果、まずは街へ移動することになった。
俺は荷台に、トマスは御者台へと乗った。
馬を休ませる前と同じく、エルネスが松明を持って先導する。
俺たち以上に疲れているはずだが、馬車は変わらぬ動きで走り出した。
暗闇の広がる街道を松明の炎が通り抜けていく。
リサは荷台に座ったままだが、少し疲れた表情をして口数が減っていた。
大森林からそこまで離れていないので、後方から周囲を警戒することにした。
暗すぎて視界はいまいちでも、無警戒でいるよりは危険を避けられると思った。
しばらくして馬車が進んでいくと、徐々に街の明かりが近づいてきた。
何日かぶりに見るウィリデの街だった。
やがて、城壁の前まで進み、トマスは衛兵の許可を受けて中に入った。
街灯が点いているおかげで十分な明るさがあった。
「――さてと、ここらでいいか」
トマスは街の中心部で馬車を止めた。
前に市場を見に行ったところの近くだ。
夜は出歩く人が少ないので、人通りはまばらだった。
馬車を下りるとフォンスよりも少し涼しい気がした。
「トマス、ありがとう」
「今回はそれなりに危ない橋だった。無事でよかったな」
「早く戻ることができて助かりました。感謝します」
別れのあいさつを済ませると、トマスの馬車は走り去っていった。
俺とリサ、エルネスはそれを見送った。
「それでは解散にしましょうか。フォンスとの交渉は僕たちの手に負えるものではないので、今後は王族の方々にお任せするしかありませんね」
「フォンスが動いてくれるといいんですけど」
俺とエルネスはまた会おうと話して別れた。
今後も彼から魔術を習うつもりだ。
「何だか大変なことになったわね」
「そうだね、これからどうなることやら」
「今からメルディスに戻るのは危険だから、街の宿に泊まって朝を待つわ」
あまり意識していなかったものの、これでしばらく会う機会もないだろう。
彼女の美しさに見惚れることもあったが、今は旅の仲間という認識だった。
「護衛ありがとう。無事にウィリデへ戻ってくることができた」
「改まってどうしたのよ。私は街に来ることもあるから、会えないってわけじゃないのよ」
リサは少し戸惑うような素振りをみせた。
そして、また会える可能性があると知って嬉しかった。
「そうか、街と森を行き来してるって言ってたね」
「うん、そういうこと」
俺たちの間に微妙な空気が流れた。
彼女は帰りたくないと思っているのかとか、色んなことを考えたが、まだそこまで深い関係ではないという冷静な自分がいた。
「ヨセフにはお世話になったから、よろしく伝えておいてよ」
「ええ、そうするわ。それじゃあまた」
リサはその場を後にした。
俺はそれを見送ってから宿舎へ戻ることにした。
日中のウィリデの街並みも美しいが、夜は街灯に照らされた西洋風建築が幻想的な雰囲気を作り上げており、これはこれで好きな風景の一つだった。
ウィリデからフォンスへの旅が終わってしまった。
気の抜けるような思いもあるが、今後のことを考えると魔術を強化して自衛できることは最優先事項だろう。
どれぐらい強くなれるのか分からないが、戦いの時が来たならばエルネスや他の仲間の力になれるようになりたいという気持ちがある。
ただ、日本という平和な国で生まれ育ったので、戦うことが怖くないわけがない。
自分自身の凡庸さ、弱さ、脆さ、これらも理解しているつもりだ。
それでも、この地で出会った仲間を大切に思う気持ちに偽りはない。
先のことは分からないが、この気持ちだけは大切にしたいと思った。
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