戦いの始まり その2
「さてと、そろそろ行きますか」
「……ああっ」
クルトとシモンは並んで歩き出した。
まだ敵の姿は見えず、前方には誰もいない道が続いている。
彼は引き返して生き延びようという気持ちは少なかった。
不安もないわけではないが、己の使命に出会えた喜びが大きかった。
野盗退治や町々の見回り以上に、大きな意味でフォンス――生まれた国を守る役目にたどり着いたという感慨で満ちていた。永遠に追い越せることなどないと考えていた父親の背中が見えたような気持ちにさえなっている。
彼の脳裏に、これまでの鍛錬や経験が流れていった。
この瞬間のためならば、どれだけ辛く厳しかったとしても無駄ではなかった。
胸を張ってそういえるという気持ちになっていた。
「敵さんのお出ましです」
「……ついに来るのか」
クルトはいつでも剣を抜けるように構えていた。
道の先の大きな岩の向こうから、一人また一人と人影が歩いてくる。
「あれはカルマンの兵だな」
「まあ、そうだろうなと読めてました」
シモンは軽い調子でいった後、敵に向かって歩を進めた。
クルトもそれに続いて足を運んだ。
前方のカルマン兵たちは、クルトたちの姿に虚を突かれた様子だっただが、すぐに剣を抜いて向かってきた。
「ウォォォ! ぶった切ってやるぞ!」
血の気の多そうな兵士が雄叫びを上げながら迫っている。
「おっと、やる気全開ですね」
シモンは斬りかかってきた相手に向けて、恐ろしいほどの速さで剣を捌いた。
周囲に血が飛び散り、兵士は絶命したように倒れこんだ。
「やるな」
「いやいや、まだこれからですよ」
二人に対して、敵の数は十数人ほどだった。
まずは少し先を行くシモンに切りかかり、残りの者はクルトに襲いかかった。
最初は脅威を感じていたクルトだったが、敵がさほど重装備でないことや剣の腕がそこまで達者ではないことから、自然と余裕が生まれていた。
多勢に無勢な状況ではあったものの、クルトたちは敵の撃退に成功した。
クルトの心は高揚感に満たされていた。
「よしっ、やったな」
「……ごめんなさい。一つ悪い知らせが」
シモンが珍しく浮かない顔をしていた。
クルトはそれを不思議に思いながら理由をたずねた。
「一人逃げられちゃったんですけど、あれは多分応援を呼びにいったやつですね」
「ほんとうか、それはまずいな」
クルトは部隊戦の経験がゼロに近い。
そのため、シモンの言葉がどれだけの危険を言い表しているのか実感が湧きにくかった。
ただ、シモンの様子を察するに歓迎できる状況ではないと理解していた。
「今更逃げても遅い感じです」
「そうか、どのみち逃げるつもりはなかったからかまわない」
クルトは、自らの口をついて出た言葉が強がりかどうか分からなかった。
それでも、この場を退くという選択は浮かばなかった。
「……死んでも恨まないでくださいよ」
「ふんっ、縁起でもないことを言うな」
やがて、同じ方向から新たな敵がやってきた。
今度は先ほどとは異なり、まとまった人数だった。
「散発的に攻めてこないので、なるべく一対一の状況を作って戦ってください」
シモンはそれだけ言い残すと、前に踏み出して敵部隊に斬りかかった。
彼の後方にいるクルトは、その光景に鳥肌が立ちそうだった。
剣の神というものが存在するのならば、あのような動きをするだろうと感じた。
そして、クルトに向かってくる部隊もあった。
クルトたちが二人だと報告されたのか、半分に分かれて攻めてくる。
彼は先ほどの部隊が斥候を担っていたと気づいた。
今度は主力のようで重装備に身を包み、腕も立つように見受けられた。
クルトは束になって襲いくる敵を剣でいなしつつ、隙を見て攻撃を仕掛けた。
休む間が与えられず、守りだけでも高い集中力が要求される状態だった。
シモンが敵を倒していくほど、それを補充するように応援部隊がやってくる。
彼はどうにか敵の数を減らして立ち回っているが、クルトは徐々に防御で手一杯になっていた。
「……クソッ、ここまで数が多いとは」
一対一であれば、彼を上回る技量の敵はいなかった。
しかし、二人や三人と連続で攻撃を仕掛けられたら、たまったものではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます