オオコウモリ討伐の報酬
リサとヨセフと出会った次の日、俺は朝一番に魔術組合を訪れることにした。
エルネスに大森林へ向かう際の準備を手伝ってもらうために。
異世界での生活リズムが身についたのかは分からないが、起床時間が目覚めの鐘よりも前になることが増えている。今朝は自然に目が覚めた。
水瓶で顔を洗って身だしなみを整えて、カジュアルな服装に着替えた。
それからミチルが出してくれた朝食をすませて、宿舎を出発した。
いつも通りの爽やかで清々しい朝だった。体調もずいぶん良くなっている。
ウィリデの街は人口がそう多くないようで、通りを歩いていても行き交う人の数はそこまで多くない。家の前を掃除する人、これから仕事へ向かうと思われる人、門番の交代に向かう衛兵。色んな人たちがいる。
いかにも西洋の朝の街並みという感じだが、長閑な光景に親しみを感じた。
魔術組合に着くと、エルネスとミーナがいた。
二人は椅子に腰かけて会話の最中だった。
「おはようございます、カナタさん」
「おはよう、カナタ」
エルネスはにこりと微笑んでこちらを見た後、少し心配そうな顔つきになった。
クラウスのところで治療を受けてから、彼とはまだ話していなかった。
「申し訳ありません。オオコウモリの件で後処理に追われていたので、なかなか見舞いに行けませんでした。体調は問題ありませんか?」
「はい、もう大丈夫だと思います。ただ、魔術が使えるのか不安なので、エルネスに教えてもらえないかと思って」
どれだけできるか分からないが、魔術への意欲は高まっていた。
「そうですか、分かりました。何事もなくて安心しました。あと、アエス鉱山のオオコウモリを退治したことで報奨金が出ています」
エルネスはそういって席を立った。
ミーナの方に目をやると帳簿のような書類を手にして、何か書き留めている。
エルネスは口が紐で縛られた布袋を手にしていた。
ここで同じような物を見たことがある気がする。
「もともとの依頼主は牧場の農夫でしたが、銅山を管理している……といっても今は使われていませんが、王国が維持管理に貢献したということで、今回はこちらからもボーナスが出ました」
彼はそう説明してズシリと重そうな布袋を持ち上げた。
俗っぽい感想だが、迫力のある光景だった。
「……というわけで、合計で200ドロン。それを二分して100ドロンです」
「おおっ、それではありがたく」
俺はうやうやしく両手で受け取った。
見た目通り重量感がある。
紐を解いて中を覗くと、1ドロンよりも一回り大きい硬貨があった。
目算してすぐに10枚ちょうどだと分かった。
「10ドロンが10枚です」
「なるほど、これが10ドロン」
袋の中から1枚を指先でつまみ上げる。
俺にはその輝きが眩しく映った。
「100ドロン硬貨なら1枚で済みますが、街の買い物では使い勝手が悪いので、こちらでそのようなかたちにさせてもらいました」
ミーナもエルネスも満面の笑顔だった。
古今東西問わず、お金の力ってすごいのね。
「ちなみに今回のことで銅山は廃山にするかもしれないそうです。ウィリデはカルマンと直接国交はないですし、フォンスを通らなければいけない以上、昔のように鉱夫が来ることはないでしょうから」
「ウィリデの人でそういう技術を持った人はいないんですか?」
それは素朴な疑問だった。
金属の製造技術は重要度が高いだろう。
「カルマンは荒くれ者が多い国ですが、こと鉱石を取り出したり加工したりする技術になると飛び抜けています。ウィリデに真似をできる者はおらず、アエス銅山の銅脈を掘り当てたのもカルマンの技術者です」
エルネスとの会話に夢中になっていると、ミーナがお茶を淹れてくれた。
取っ手のついた簡素な柄のマグカップがテーブに置かれた。
「ありがとう」
「ふふふっ」
ミーナはどこか機嫌が良さそうだった。
ミチルよりも少し大人びているが、彼女も愛らしいところがある。
「ところで、エレノアから大森林のことは聞いています。それにあそこへ行こうとするなら、魔術を強化しておきたいという気持ちも分かります」
「オオコウモリの時に痛感したのは、使える魔術の限界が壁になっていて、その場でマナ焼けが起きることなんですよ。ああなってしまったら、魔術が全く発動できなくなるんです。魔術が使えないと俺は無防備ですから」
言葉にすることで洞窟での苦い記憶がよぎった。
二度と経験したくない場面だった。
「あまり勧められるやり方ではないですが、カナタさんは限界を超えるところまで魔術を使ったので、強制的にマナの上限が上がっていると思います。身体はかなり辛かったでしょうが、回復してしまえば今まで以上の魔術が使えるようになっているはずです」
それが本当なら状況的に歓迎できることなのではないだろうか。
ただ、実際に試したわけではないので、それが当てはまるのか読めなかった。
「それなら、せめて大森林に行く前に確認しておきたいです。遠出した先で深刻なマナ焼けを起こしたら、目も当てられませんから」
「分かりました。出発までにできる限りのことはお手伝いしましょう」
エルネスは真剣な顔つきで頷いた。
その表情に頼もしさを感じる。
エルネスはミーナに留守を任せて、前に修練を行った場所へ行くことを提案した。
俺はそれに同意して、彼とともに移動を始めた。
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