モンスターの再来と異変の原因 その2
「ちっ、来やがったか」
永遠に続きそうに思える静寂の後、トマスが吐き捨てるようにいった。
「ここまで明るくすると他の魔術は同時に出せません。二人ともどうにか対処してください」
「……はい、どうにかやってみます」
暗闇ではコウモリに分がある以上、エルネスの魔術は消すわけにはいかない。
トマスは武器を持っているし、俺は魔術が使える。何とかしなければ。
「――あっ、あれか」
二人に遅れながら俺もコウモリらしき生き物を目視した。
洞窟で見た中では中程度の大きさだった。
「できるだけ引きつけてください。動き回る状態では攻撃は当たりません」
こちらに近づかせるのは避けたいが、エルネスがそういうなら仕方がない。
俺は魔術をスタンバイ状態にして、いつきてもいいように集中を高めた。
オオコウモリは様子を窺っているのか、なかなか下りてこなかった。
しびれを切らして魔術を撃ちたくなるが、自重して待ちに徹した。
それからさらに数が増え始めて、群れを待っていたのだと気づいた。
最低でも五匹以上はいるように見える。夜闇に紛れて目で追いにくい。
すると、そのうちの一匹が勢いをつけて降下してきた。
トマスはそれに反応して、真っ直ぐに刃を突き出した。
剣が接触する方が先で、そのオオコウモリは縦一文字に斬られた。
「よし、一匹目。まだまだ来るぞ」
トマスは気合いを入れ直すように声を上げた。
上空ではまだまだオオコウモリたちがうごめいている。
俺とエルネス、トマスは互いに距離をおいて待ち構えていた。
すると今度は俺の方にオオコウモリが迫ってきた。
今度も中程度の大きさだった。
同じ群れで均等なサイズのものが多いのかもしれない。
俺はすぐさま右手をかかげて、連続で火球を放った。
全てが命中して、オオコウモリは地面に叩きつけられるように落下した。
そこで間髪を入れず、次のコウモリが迫ってきた。
続いて同じように魔術を発動して、握りこぶし大の火の玉を放つ。
最初と同様に直撃して空中から地面へと落下していった。
今回は魔術で狙いをつける精度が高くなっている気がする。
それからしばらく上空のコウモリは飛んだままだったが、仲間が撃ち落とされたことに気づいたようにどこかへ飛び去っていった。
エルネスの魔術でずいぶん明るいのもあって、警戒するのも当然だろう。
「カナタ、よくやった。あいつらは鼻が敏感らしいから、仲間が焼ける臭いは効果抜群だ。これでもう襲ってこないだろう」
トマスは手にした剣を鞘に収めた。
俺は安堵して緊張が取れるような心地になっていた。
「遭遇するのが初めてじゃないから、何とかなりました」
「カナタさんの成長を感じました。完璧でした」
二人と話しながら喜びで頬が緩みそうになるのを感じた。
緊張が解けたというのもあるが、誰かに認められるのは嬉しいものだ。
「大丈夫だと思うが、念には念を入れとくか」
トマスはそういって、落下したままほとんど動かなくなっていたオオコウモリを焚き火の上においた。
徐々に木が燃えるのとは違う種類の煙が立ち上る。
「さっきも話したが、こうやって燃える臭いを漂わせるのがいいんだよ」
「僕も知らなかったことなので、行商人の知恵ですね」
エルネスは感心したようにいった。
もちろん、俺も知らなかったことだ。
「はぁー、おれは寝かせてもらうから、また見張りを頼む」
トマスは大きなあくびをして、馬車の荷台に戻っていった。
「カナタさん、目が覚めてしまったので、僕も見張りをします」
「次はエルネスの番でしたけど、もう少し寝ていてもいいですよ」
「いえ、リサぐらい勘が鋭くないと、なかなかさっきみたいなことには気づけなかったと思います。二人でちょうどいいのかもしれません」
エルネスに促されて、焚き火の近くに移動した。
まだオオコウモリが燃えているところだったので、少し離れたところに座った。
「最近、生き物の様子がおかしいです」
エルネスが何かを切り出すように話し始めた。
「もともと、こんなんじゃなかったんですか?」
「……確信が持てなかったものの、オオコウモリの件が顕著でした。洞窟にいた最大のものは大きすぎました。たくさん見てきたわけではないですが、際立って違和感を覚えました」
エルネスの話し方が普段と違うような気がして、少し不安な気持ちになった。
俺に何を伝えようとしているのか。それが読めなかった。
「以前からそうではないかと思っていましたが、カナタさんたちが転移装置という強力な力が働くものを使ったことによって、大地のマナに変化が生じたのではという結論に至りました」
「……大きなエネルギーが生じる可能性があるので、そういった側面はあるかもしれません。俺も全てを知っているわけではないので、その点については申し訳ないです」
彼とこういった話をしたことがないので、噛み合わない感じがした。
「カナタさんを責めたいわけではないです。ただ、このことに納得のいく説明がつけば、国王が使用を中止するように促す可能性もあります」
「なるほど、そういうことですか」
「僕はいつまでもいてほしいですが、戻れなくなる可能性を知りながら話さないのは冷たいと思いました。大地のマナのことは大規模な被害が出てはいないので、今の段階では問題視されないでしょう」
「……ありがとうございます」
エルネスの親切はありがたかったが、同じ世界の遠い場所からではなく、別次元にある地球という場所から来ているとは打ち明けられなかった。
本当に転移装置が悪影響を及ぼしているのなら、策を考える必要がある。
ウィリデに戻ってから村川に伝えたほうがいいだろう。
カルマンの件に続いて、重要な出来事だった。
生き物に変化が起きているのなら無視してはいけないと思った。
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