炎に包まれた希望
木々の間を足早に進みながら、先を行く戦士たちの後に続いた。
メリルと共に森から出ると周囲の様子が騒がしくなっていた。
「気をつけろ! モンスターの待ち伏せだ!」
いつの間にか何人かの戦士が交戦状態に入っている。
誰を手助けるべきか迷うところだが、俺が決めかねている間にオーウェンが怒涛の勢いでモンスターをなぎ倒していった。
「――この程度の手勢に足止めされている場合ではないぞ!」
彼は味方に檄を飛ばしながら、ロングソードを力強く振り回している。
士気の上がった戦士たちは助勢するまでもなくモンスターを倒しきった。
「さあ、ダスクへ急ぐぞ!」
再びオーウェンが先頭に立って指揮を取り始めた。
一戦交えたばかりのはずなのに、仲間たちの足取りは軽かった。
「ダスクで援軍が見つかればいいけど、可能性はどれぐらいあるんだろう」
「わたしも手持ちの情報が少ないので、確信がありません」
俺とメリルはエスラやダスクに詳しくないため、二人では話が広がらなかった。
「まあ、公平に見て半々ってところだな」
二人で話しているところへ、リュートがやってきた。
「なるほど、そんなものなのか……。何か根拠は?」
「あいつらは臆病者のはずだから、オレたちが戦力になると分かれば協力するんじゃないか。もちろん、逆の場合はあしらわれるはずだぜ」
わりと重要なはずだが、リュートは事もなげに言った。
「それはそれでどうなんだろう」
「組織の連中はそれぞれで生まれた国が違うからな。利己的になるのは仕方がないことだろうよ。全体の戦況も芳しくないのも関係ある」
じゃあまた後で、と手を振ってリュートが離れていった。
「目的地へ到達するまではしばらく歩くのか」
「厳しい状況が続きますが、カナタさんは疲れていませんか?」
「メリルこそ大丈夫? エスラに着く前も移動続きだったし」
「わたしのことはお構いなく。こう見えて丈夫なんですよ」
メリルは元気な様子でこちらに微笑みかけた。
たしかに彼女が疲労困憊している様子を見たことがない。
細身で少し頼りなさげに見えることもあるが、身体は丈夫なんだろう。
森を抜けた直後に襲撃を受けたものの、それ以降は散発的にモンスターが襲いかかってきたぐらいで大きな戦闘はなかった。
オーウェンを先頭にした一団は順調にダスクに向けて移動を続けていた。
列の並びに変化はなく、俺はメリルと横並びになって後方を歩いていた。
「……なあ、おかしくないか? 戦力があるかもしれないダスクをモンスターが見逃すわけないと思うんだ。戦術的に見てこの辺りの守りを固めているのが自然なはずだ」
「小心者だな。エスラ中心に敵の勢力が固まってるだけだろ」
「そうか、そうだよな。モンスターがそこまで賢いわけないか……」
前を歩く戦士の会話が聞こえてきた。
たしかにエスラでの激戦を考慮するならば、ここまでの道のりが順調すぎるように思える。
メリルにそれをたずねるべきか迷ったものの、彼女も答えを知らないはずなので、俺は開きかけた口を閉じた。
「さあ、もうすぐダスクだ!」
先頭のオーウェンが味方を励ますように声を上げた。
そこからさらに進んだところで、先を行く仲間たちがふいに立ち止まった。
少しの間だけ列は維持されていたが、俺と同じように異変に気づいたようで前方に人が集まっていく。
俺は思わずメリルの顔を見た。
すると、彼女も戸惑いの色が浮かぶ表情でこちらを見ていた。
「――行こう」
「はい!」
俺たちは他の戦士たちと同じように前方へ向かった。
「――おおっ、何てことだ」
最初に聞こえたのは仲間の嘆く声だった。
そして、視界の先に火の手の上がる城塞が目に入った。
丘の上にあるこちら側からは、その様子がつぶさに見て取れた。
「城壁の内側は市民の住む家もあるだろうに。何というむごいことを」
オーウェンが怒りと憎しみをにじませるような声で言った。
「助けに行きたいところだが――」
「いけません、外側を多数のモンスターが取り囲んでいます」
「ああっ、分かっている。心配するな……」
戦力を当てにしていたダスクが炎に包まれているため、誰しも混乱しているように見えた。
俺自身、突然の出来事で状況がよく分からなくなっている。
「――もしや、始まりの青のオーウェン殿ではありませんか?」
少し離れたところから凛とした女性の声が届いた。
その場にいるほとんどの者が反射的に視線を向けた。
俺も同じように声の主を見ようとした。
そこには高貴な身なりの女性と二人の兵士が立っていた。
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