三人の協力作戦 ―始まりの青VSデグラス―

 推測の域を出ないが、黒い鳥の影響で魔術が効かないように思えた。

 断定できる材料がないので、まずは引き離して確かめたいところだ。

 

 連続して魔術を放つか、出力を高めて確認する方法も浮かんだものの、質と量のどちらを上げても周りを巻きこむ可能性が高い。


 息を呑むような緊迫した状況。

 仲間を危険に晒すような真似は避けたいと思った。


 ゼノも戦闘可能な位置にいるものの、すでにナイフを失っていた。

 それに共に戦ったことがないので、連携しようにも不安が残る。


「メリル、どうにかあの鳥を剥がそう」

「はい……何か狙いがあるのですね」


 メリルはこちらの頼みを聞き入れてくれた。

 彼女はいつでも攻撃できるように剣の柄に手を添えている。


「人間ごときが刃向かうとは。この場で逆らった者たちは、わたくしの手で処刑して差し上げましょう」


 デグラスの言葉からは揺るぎない殺意を感じた。 

 魔術が専門では接近戦になったらすぐに殺されるだろう。 


 残念なことに俺の筋力では護身用の剣を扱いきれない。

 それに加えて、デグラスの剣戟を捌き続けることも現実的とは思えなかった。


「まずは、わたしが攻撃に出ます」


 メリルはそう言って、鞘から剣を抜いて踏みこんだ。

 そこへデグラスの攻撃が向かってくる。


 デグラスは想像以上に強敵だった。

 重量差、体格差があるせいで、彼女は攻撃を防ぐのに精一杯だった。

  

 アルヒ村のオークよりも剣捌きに切れ味があり、一瞬たりとも隙を与えんとする鬼気迫るものを感じた。これではカラスを剥がす前に彼女がやられてしまう。


 急く気持ちで戦況を見つめていると、ゼノが素手の状態でデグラスに向かった。


「――今だ、私がつけた傷に攻撃を仕掛けろ」


 彼は敵の後ろに回りこんで、強引に羽交い締めにした。

 制止することは叶わなかったが、振りほどこうとするデグラスの動きに乱れが生じる。同時にメリルへの攻撃が止んでいた。

 

「くっ……離せ、人間めが――」

 

 余裕のなくなったデグラスが苦々しい様子で吐き捨てた。

 

 魔術で攻撃したいところだが、今の状況ではゼノを巻きこんでしまう。

 どうすべきか考えていると、メリルがデグラスの懐に向けて剣を大きく引いた。


「――この隙を逃しません」


 彼女は力いっぱい踏みこんで、ゼノが作った傷に剣を突き刺した。


「ぐ、ぐはっ……」


 攻撃が命中して、デグラスに大きなダメージを与えることができた。

 傷口から血のような赤い液体が吹き出して、地面が血溜まりになっている。


「な、なんていうこと……人間ごときにやられるとは……」


 デグラスは忌々しげに呻き声を上げた。


 メリルの攻撃は急所を貫いたようで、少しするとデグラスは消滅した。

   

「カカカッ、デグラス死亡、デグラスシボウ――」

 

 デグラスという寄る辺を失った後、黒い鳥が円を描くように低空飛行している。

 無意味に思える動きからは意図が読めず、不気味さに一抹の不安を覚えた。

 

「デグラスはただのモンスターにすぎないが、あの鳥は得体が知れない」


 その場に立ち尽くしていると、ゼノが誰にともなく呟いた。

 デグラスを討ち取ったメリルは剣を持ったまま気が抜けたように固まっている。

 

 その動向に注意を払っていると、黒い鳥がどこかに向かって飛んでいった。


「メリル、あの鳥を追おう」

「……は、はい!」


 二人で黒い鳥の向かった先へ駆け出した。

 

「意外に早いな」

「あの鳥は何をしようとしているのでしょう?」

「……どうだろう、よく分からない」


 むしろ、俺が教えてほしいぐらいだった。


 二人で走りながら追い続けると、町外れの広場のようなところに出た。

 地面には白い敷石が敷かれていて、辺り一面真っ白な光景になっている。


「あれ、どこに……」

「カナタさん、あそこに!」


 メリルの指さす方には、地面に着陸した黒い鳥の姿があった。


「……気をつけて。あの鳥からは怪しい気配がする」

「は、はい」


 マナの感覚が鋭くなった影響で黒い鳥から不穏なエネルギーを感知することができた。少なくとも、ただの鳥類ではないのだと判断した。


「――カカカッ、デグラスシボウ……」


 黒い鳥は壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を繰り返していた。

 しかし、それも束の間のことで、全身から淡い緑色の光がほのかに浮かんだ。


 注意深く観察していると、直立不動の状態で異形の存在が現れた。

 思わずその姿に戦慄を覚えた。

 

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