ドロップアイテムって美味しいの?

 街の中を通過して、モンスターのいるところへ向かうことになった。

 カレンに先導されて歩き始める。


 すれ違う人はすべてエルフなので、現実離れしたような光景だった。

 ちなみに彼らの髪の毛は金色ではなく、カレンと同じ白銀色をしている。


 おそらく、ウィリデ周辺にいるエルフとは違う種族なのだろう。

 エルネスやエレノア先生たちは金髪だから。


 狩猟を行うことが多く、危険動物から見を守らなければいけない大森林のエルフたちは、軽さと運動性に重きをおいたような服装をしていた。

 しかし、ここのエルフたちが身につけているのは、質素なワンピースやゆったりした作りのものが中心だった。


 それから、道行く女性に美人が多いことに気がつくと、カレンが提案した報酬のことが脳裏をよぎった。


 やはり、美人の処女をお礼にもらえるなんて、後ろめたい気がする。

 現代日本でそうなれば、各種団体からクレーム殺到だろう。


 そもそも、この一帯に説明を受けたような資源があるのか疑問が生じた。


「カレン、この街はそこまで資源が豊富に見えませんけど」

「ご安心ください。周辺に同じような規模の集落があるので、各所に分けて保管してあります。万が一、ドラゴンが襲ってきた時への対策です」

「ああっ、なるほど」


 たしかに、分散しているなら理解できる。

 資源に乏しそうなので、代わりに若い娘を出すとかいう発想はどうかと感じたが、そうではないようだ。


 周囲から民家や建物が見えなくなってから、道の脇に草木が生える農道のような場所に出た。


 そこから少し進むと、畑が広がっていた。

 どんな作物かは分からないが、等間隔に畝が作られて野菜が育っている。


 ところどころで、農家らしきエルフが畑仕事をしていた。


「ここからもう少し進むと、魔獣の出る場所に着きます」


 カレンが同じペースで歩きながらそう告げた。


 仲間の様子を見ると、シモンはさして変化がなく、クラウスも落ち着いていた。

 かくいう俺自身は多少の緊張はあるものの、縮み上がるようなことはない。


 カルマンへ行った時に実戦を何度か経験したことが大きい気がする。


 以前なら、準備していないと魔術が発動できるか不安があった。

 しかし、今は魔術を自在に操れるだけの自負がある。


 どれぐらい強力なのかは分からないが、慢心しなければどうにかなるだろう。


 道沿いに歩き続けると道の途中に細い柱が視界に入った。

 横並びで地面に突き刺さるように立っている。


 等間隔に並ぶそれらの柱からはわずかながらマナを感じる。

 一メートルにも満たない長さの不思議なものだった。


「これには特殊な魔術が組まれていて、ここから外側に魔獣が出られないようになっています」


 カレンが立ち止まって説明してくれた。


「人間は出入り自由なので安心して下さい」

「ふーん、なかなか面白い。どんな仕組みなんだろうね」


 クラウスが興味津々な様子で、柱を触り始めた。

 カレンは注意したりせずに見守っている。


「さあさあ、行きましょう。どんな怪物が現れるか楽しみってもんです」


 シモンが強敵との接触を期待しているようで目を輝かせている。

 俺はそこまで楽しみでもないが黙っておいた。


「それでは皆さん、準備はよろしいですか?」

「はい、どうぞ」


 俺とクラウスは無言でうなずき、シモンが返事をした。


 カレンの後について柱の内側に入る。

 何かを体感することはなく、簡単に通過することができた。


 今のところ、周囲にモンスターらしき気配はない。

 前に進むほど木々の数が増えているため、不意討ちに気をつけなければ。


 先制攻撃を防ぐために、いつでも魔術で盾を発動できるようにしている。


 場数を踏んだというほどではないが、これまでの戦いで先手を取られることの危険性を実感することが多かった。


 フィクションの中なら回復すればいいだけの話だ。

 しかし、実際の戦いで先に致命傷を食らえば、それは即ち死を意味する。


 一帯に危険なモンスターが潜むのなら、特に気をつける必要がある。

 少しずつ神経が強ばるのを感じながら、カレンについていった。


「そういえば、皆さんに実力を見せていませんね」


 彼女はぽつりといった。


「オールラウンダーでしたっけ? 魔術も武術も両方いけるってことですか?」

「はい、そんなところです」


 声を潜めながらそんな話をしていると、道の脇でがさがさと草が揺れた。


「――では、早速」


 カレンは腰に差していた大ぶりのナイフを掴んで戦闘態勢に入った。

 魔術の準備もしているようで、彼女からマナの動きを感じる。


「はっ」


 カレンは茂みに向かって飛びこんだ。

 その直後、獣が叫ぶような声が聞こえた。


 万が一、他のモンスターが寄ってきた場合に備え、俺は臨戦態勢に入った。 

 

 彼女の方を見ると、巨大なトラのようなモンスターが抵抗していた。

 カレンのナイフで切られたようで、どこかから出血している。


 周囲を警戒しながら見守っていると、彼女は氷魔術を発動したようで、そのモンスターは動きを押さえられた。


 カレンは狙いを定めるようにして、トラの首を一閃した。

 夥しい量の血液が飛び散った後、モンスターは絶命したように見えた。


 仕方のないこととはいえ、あまり気持ちのいいものではないな。

 そんなことを思いながら眺めていると、死骸が霧散するように消滅した。


「えっ、何が起こったんですか?」


 俺は戸惑いを隠せなかった。

 ゲームじゃあるまいし、どこに消えたというのか。


「境界の内側で絶命させるとこうなるんです。あと……」


 カレンはモンスターがいた場所に腰を下ろすと、何かを拾い上げた。


「このようにドロップアイテムも落とします。さっきのはサーベルタイガーなので、このように牙を落とすことが多いです」


 彼女はその牙を手慣れた様子でしまいこんだ。

 

 シモンとクラウスの方を確かめてみると、同じように不思議な出来事だと感じているように見えた。

 

「こういったアイテムも貴重な資源です。他所の街との交易で価値を発揮するので、この街が豊かになることにもつながっています」


 便利なシステムだと思うが、どのみちモンスターを倒せる人材は必要だろう。

 冷静に考えると、そこまで万能のシステムでもないと気づいた。


「……まあ、カレンの実力も分かったし、先へ進みましょうか」


 俺は気を取り直すようにいった。

 他にどんなモンスターがいるのかも気にかかる。

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