時には敵が憐れに思えてくるのさ
フィーネの一撃で城壁内へ続く門はぶち抜かれた。
向こう側には通行人の姿が見えたが武装はしておらず、民間人に見えた。
「ストップ! 必要ない戦闘はマイナス評価だと言ってましたよ」
シモンがフィーネを制するようにいった。
「そんなの分かってるわ。私は突破口を開けたんだから評価してよね」
彼女はそう口にして仲間たちの元へ戻っていった。
「バカでかい音を立てたのだから、そのうち兵士どもが駆けつけてくるだろう。一般人を攻撃せんでも、どのみち戦闘になるぞ」
オラシオが周りに響く大きな声でいった。
それが聞こえたからなのか、別のエルフが意気揚々と前の方に踏み出した。
「さあ、腕が鳴る~。ディアナに任せてたら手柄を総取りされちゃうんで、この辺で見せ場をつくっておかないとね」
短めの髪型で、ややボーイッシュな雰囲気の女性だった。
女子エルフ軍団は全体的に外見年齢が若めで、十代半ばから二十歳ぐらいの層が中心だ。人数は七、八人ぐらい。
さて、オラシオが伝えてくれた通り、敵兵がわんさかやってきた。
俺は周囲の仲間と同様に臨戦態勢に入った。
「――それでは、森の魔術師エリス、いっきま~す!」
前線に立った彼女はエリスという名前らしい。
彼女が名乗りを上げてから、強いマナの反応を感じた。
向かいくる敵を討つため、何らかの魔術を使うことは明白だった。
「えいやっ!」
エリスは二つの手と手を離した状態で正面に突き出し、その手の先から無数の火球を放った。
言葉にすれば簡単なことだが、その威力はすさまじいものだった。
まるで、マシンガンを掃射するようにものすごい勢いで魔術を発動している。
俺が同じだけのことをすれば、すぐにマナが枯れてしまうだろう。
あまりの破壊力に、俺を含めた他の仲間達は前に進むことができないでいた。
「ぐわあっ! 敵国の魔女め、許しがたい……」
「卑怯者が! 正々堂々と武器で攻めてこい」
カルマン兵たちは口々に恨み言を叫びながら崩れ落ち、どさりどさりと倒れていった。魔術の壁を前に進むこと叶わぬまま。
こうしていると、敵ながら憐れに思えてくる。
弓兵が遠距離攻撃を試みるが、エリスは魔術の防壁で簡単に防いでしまう。
そのうえ、カルマンの戦闘スタイルは盾がないので、バカ正直に突っこむ兵士ほど格好の的になっている状況だ。
「豪邸のために点数を稼げてはいると思うけど、無慈悲な攻撃だな……」
俺は戦闘に加われぬまま、そんなことを呟いた。
エリスが魔術を掃射していたのは数分ほどだと思うが、実際にはその何倍も長く感じられる時間だった。
彼女の攻撃に区切りがつくと、街はところどころ損壊して、辺りには倒れたカルマン兵が無数に広がっていた。
「とりあえず、こんなところでしょ。城を攻め落としてもいいけど、みんなを出し抜くのは本望じゃないから、このへんで下がっておくね」
大量のマナを消費しているはずなのに、エリスは平然とした様子で後ろに戻った。
「何だか心中複雑です。多分これ、カルマンを警護する兵士のほとんどをやっつけちゃった気がします。おれの立場がありません」
ふらりとシモンがやってきて、そんなことをいった。
「誰もあんな助っ人が来るなんて予想できませんよ」
「まあ、そうですね。分かっちゃいるんですけど……」
彼は寂しげな様子で街の中に入っていった。
「こいつはたまげたな。あのお嬢ちゃん、見た目のわりにとんでもない実力を持ってるのか。敵に回したくないタイプだ」
オラシオが隣に来てそう漏らした。
「今のところ、クルトの作戦通りだと思っておきましょう」
フォローにすらなっていないものの、彼にそう伝えておいた。
俺は出番や見せ場を求めるつもりはないが、このままいくとエルフ軍団だけでカルマンを制圧してしまいそうな勢いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます