エルフの皆さんが本気を出し始めた模様です
ウィリデとフォンス。
この二つの国は整備されて洗練された城と街がある印象だった。
しかし、カルマンの城は石造りの簡素な外観をしていて、城下町の区画はアバウトなように見えた。
あまり細かな戦術なしで突っこんでくるのはこういった背景も関係しているのかもしれない。
おそらく、大雑把な性格の人が多いお国柄なんだろう。
俺は遠巻きにカルマンの中心部を眺めながらそんなことを考えていた。
今はシモンとクルトが作戦を考えているところで、待機中の時間だった。
ここまで、ディアナの活躍で無傷の突破を成し得たせいか、全体的に今までよりも気が緩んでいるように見えた。
エルネスはそこまでではないものの、ヘレナのつれてきた森の魔術師たちはそれが顕著に見受けられる気がした。
「カルマンって、スイーツショップあるのかな?」
「戦いが終わったら観光しよう」
「せっかくこんなところまで来たし、色んなところで遊んで帰ろう」
女三人よればやかましいと言ったりするらしいが、エルフ女子たちが集まると何だか騒がしくなることが多い。
もっとも、エルフの男性陣はエルネスのように親しげな雰囲気はなく、話しかけづらい。彼らは今も静かに成り行きを見守っている。
「……この戦いが終われば、平和が戻るのか」
日本という戦争を実感することのない環境で育ったため、実際に始まりと終わりがどのように締めくくられるのか想像できなかった。
おそらく、フォンスがカルマンを統治するのかもしれない。
あるいは戦国時代のイメージなら、敵国――つまりカルマンの重鎮や王族みたいなポジションの人物は一族郎党皆殺しにされる。
――あまり深く考えなかったが、そういった展開も起こりうるのか。
正直なところ、このことをクルトに尋ねるべきか迷う。
もしも答えがイエスなら、戦うことが怖くなりそうだった。
俺はマイナスなイメージを振り払うように立ち上がり、馬に乗った。
乗り続けるうちに馬だけでなく装着した鞍にもなじんてきた。
この馬に乗ってどこまででも駆けていけるような気がした。
「……いや、現実逃避をしても仕方がないか」
一人でとりとめないことを考えていると、シモンから号令がかかった。
「オラシオの話だと城壁周辺を守る装備はないみたいなので、馬車で目一杯近づいてそこから一気に内部に侵入します」
「おおっ! ついに決戦か!」
「フォンスの方々には申し訳ないんですけど、今回の作戦の中心はエルフの皆さんです。特にヘレナがつれてきた森の皆さんは腕が立つそうなので、一気に制圧してください」
「ええっ、そこはフォンスの人が身体を張るところじゃないの?」
話の途中で、女子エルフから不満の声が上がった。
「もちろん、弓や剣で攻撃を受けないように、フォンスの兵士が守ります」
「もう、それは当たり前よね」
「あと、クルトから伝言で、活躍した順に豪邸が手に入る権利が得られるそうです。そんなわけで、一つ頼みます」
シモンの話が終わると、女子エルフたちが騒がしくなった。
「ねえねえ、活躍した順だって」
「やる気出すのはいいけど、あなたマナ不足とかいってたわよね?」
「えっ、そんなこと言った? お互い長い耳だけど、そっちは聞こえが悪いんじゃない? よかったら治癒魔術で治してあげるけど?」
「ひどいわね。仲間同士でそんなこと言う?」
「仲間? 豪邸がかかっている以上、みんなライバルよ」
これがクルトの狙いなのか分からないが、何だかヒートアップしている。
俺は関わらないように、馬をゆっくりと進ませた。
それから、全員でカルマンの中心に近づいていった。
ここに来るまでに拠点を潰しつづけたせいなのか、城壁に至るまでに警戒網に引っかかることはなかった。
何事もないまま、城壁と身長の何倍もある高さの大きな門の前についた。
「――はい、一番フィーネいきます!!」
おそらく、オラシオに相談に行こうとしていたのだろう。
先頭を行くシモンが戻ってきたところで、女子エルフの一人が出てきた。
「……あれ、何をするつもりだ」
彼女から強いマナの反応を感じた。
強力な魔術を発動しようとしているのだとすぐに理解できた。
「とりゃーーー」
フィーネが正面に突き出した両手から、巨大な火の玉が飛び出した。
それを目にした瞬間に、とても真似はできないと感じた。
火の玉がぶつかると、大きな爆発音と共に門が粉砕された。
「に、人間業じゃねぇ……」
誰かが怯えるようにいった。
「ふぅ、これで少しはポイント稼げたかな」
フィーネは肩まで伸びたエルフ特有の美しい金髪をなで上げて、誇らしげな顔をしていた。
エルフは気品あふれる外見をしているので、ドヤ顔などという俗っぽい表現は似つかわしくないような気がした。
ディアナ以外にこんな魔術師がいたのは驚きだが、まだまだ同じようなエルフが控えている。
戦力として十二分な存在ではあっても、豪邸欲しさにカルマンの街を破壊し尽くさないか心配になってきた。
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