クルトの復活
俺たちが移動を続けてたどり着いたのはコダンという町だった。
カルマンが攻めてくる情報を伝えると混乱を招くということで、シモンたちが状況に応じて町民に話すという説明を受けていた。
シモンたちが町に現れた怪物を退治した恩義があるということで、宿屋の主人がクルトを休ませるのに宿を使わせてくれた。
それからエルネスがマナを調整しつつ、十分な休養を取らせたことで復活した。
半ば部外者の俺でさえカルマンの動向は気がかりだったものの、シモンがクルトの回復を重視したため、コダンに滞在していた。
「君たちが助けてくれたのか、命の恩人だ。感謝してもしきれない」
回復したクルトは俺たちに礼を述べた。
精悍な顔立ちをしているが、激戦の影響で顔に疲れが見える。
「ウィリデのエルネスです。こちらはカナタさん。僕たちは国命でカルマンの状況を偵察に行くつもりだったのですが、国境での戦いに鉢合わせて助力しました」
「本当にありがたかった。あのまま進軍を許せば被害が出ていた可能性が高い」
クルトは少し気難しそうに見えるので、話しかけていいか迷っていた。
騎士というと中世の堅苦しいイメージがついてまわる。
「黒い髪の君はどこの国出身なんだ」
「あっ、俺ですか? 日本(にっぽん)という国です」
「ニッポン? 聞いたことがないな。シモンと髪の色が似ているから、同じ地方の出身かと思ったんだが」
クルトは俺とシモンを見比べた。
俺から見ると同じ黒髪でも、シモンはアジア系には見えない。
「関係ない話をしてすまない。本題に入るが、僕はシモンとレギナにある水の宮殿に行こうと思っている。今回の騒乱でカルマンとの内通者がいるようなので、明らかにしなければならない」
「なるほど、内通者ですか。状況が複雑なようですね」
「最初はそうだったが、今はそうでもない。ある程度目星がついているので、あとは確認して口を割ってもらうだけだ」
さすがにあれだけの戦いをするだけあって、クルトは若さの割に貫禄を感じさせる佇まいがあった。カリスマ性に近いものもいくらか感じる。
「俺とエルネスは偵察が済んだので、ウィリデへ帰りますけど、何かこっちで確認しておいた方がいいことはありますか?」
「君たちもその目で見たと思うが、敵が攻めてくるのは確定的だ。あとは時間の問題だということをそちらの大臣なり国王なりに伝えてもらえば十分だ」
「話はその辺で、クルトはもう少し休んだ方がいいですよ」
近くで静観していたシモンが口を開いた。
彼の言う通り、クルトは体調が万全には見えなかった。
「それでは、僕たちはしばらくしたらウィリデに帰ります」
「承知した。それからウィリデのお二人、援軍は送られる予定だろうか?」
「その予定です。魔術部隊が召集されて、近日中に森を抜けてやってきます」
「そうか、それは良かった」
クルトは安心したように表情を和らげた。
俺とエルネスは部屋を出た。
「馬の状態も問題ないですし、レギナを通過してウィリデに戻りますか」
「ええ、そうしましょう。内通者の件は手助けできることが何もありません」
詳しい事情は分からないが、端的に言って内乱のようなものだろう。
部外者の俺たちが首を突っこんだところで話がこじれるだけだ。
コダンは長閑な町ですごしやすいところだった。
それでも、生活に慣れたウィリデの町の方がくつろぎやすい。
俺とエルネスは少し腰を下ろして休んでいたが、落ち着いたところで馬のところへ向かって移動の準備を始めた。
移動に使用している馬は、魔術部隊から貸し出されたものだった。
このミッションが終われば返す必要があり、丁重に扱わなければいけない。
あらかじめ聞かされていた確認事項をチェックして、馬の状態に問題がないことを確認し終えた。
近くにいるシモンが乗っていた馬は身体を下ろして休んでいるが、俺たちの馬はじゃれ合ったり、呑気に草を食(は)んだりしていた。
「もう行くんですか?」
「おやっ、シモンか」
出発の準備をしているとシモンがやってきた。
「今回は本当に助かったんで、何とお礼を言っていいのやら」
「いえいえ、僕たちも無事に使命を終えることができましたし、当たり前のことをしたまでです」
エルネスは丁寧な態度で応じた。
「エルフの魔術師殿に不躾な話なんですが、あなたが女性でなくてよかったです」
「……女性? 女性だったら何か不都合でも?」
「いや、その、エルフの女性を前にすると、緊張してしまって……」
シモンは凄腕の戦士とは思えないほど、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
俺とエルネスは互いに顔を見合わせた。
たしかに、エルフの女性はエレノア先生やリサなど美女が多い。
彼の言わんとすることも分からなくはないが、わざわざ言いにくることなのかと思った。
「それでも、克服したいんです。なので、いつか美人のエルフを紹介してください。おれは自分に弱点があるのが耐えられないんです」
シモンは至って真面目な表情をしていた。
エルネスは呆れ気味な様子だったが、前向きな返事をした。大人の対応だ。
「それでは、援軍にくることがあれば会うかもしれませんね」
「約束の件、よろしく頼みますよ」
「……え、ええっ」
俺たちは馬に乗ってコダンを出た。
引き気味のエルネスが見られた貴重な瞬間だった。
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