Corporate Crime ~繁栄の残渣~
金暮 銀
第一章 始まりは地下の暗がりで
第1話 始まりは地下の暗がりで(一)
真っ暗な地下鉄の闇を猛スピードで動く影があった。影は獣ではなく、人。だが、速度にして、時速八十キロは出ていた。
影の足元で赤い火花が散った。火花は影が履いていた銀色のローラー・ブレードから出ていた。影は火花を散らすと同時に、減速を開始した。
影が惰性で動きなら、バランスをとったまま、金属製の扉の前に静止した。扉の取っ手に銀色のエレキ・ギターが叩きつけられた。
派手な音を立てて取っ手の部分ごと鍵が壊れ扉が開いた。部屋の中の明かりが、漏れ出し、影の正体を照らした。
影の正体は黒髪のショートカットの女性。女性の年齢は、二十代後半。体には余分な肉がなく、野生のライオンのように引き締まっていた。
女性の名は
服装は風蓮五紀では一般的にいう、ガルマ風と呼ばれるファンションだった。
ガルマ風ファッションは良いとしても、その他の小物は明らかに一般的ではなかった。
顔には平べったい暗視ゴーグル。手には真っ赤な「風紀」の文字が入った薄手の銀色の手甲。足に銀色のローラー・ブレード。
腕には風紀の腕章があった。
『風蓮五紀金融及びベルタ物質取締り委員会』。
通称・風紀は、国を支配する大企業持ち株会社、風蓮五紀が己の成長の源泉たるベルタ産業と経済の血液とも言える金融を管理するため作った組織だった。
腕章は風紀の捜査員の証だった。
部屋の明かりを受けて、一瞬、目の前が真っ白になった。けれども、ゴーグルに組み込まれた光量補正機能が働き、すぐに色の付いた世界が映し出された。
十条の目の前に、高さは三メートルしかないが、広さはサッカーコートの半分くらいあった。部屋はコンクリートで固められ、整理された資材置き場のようだった。
天井には、手の平ほどある、赤い半シリコン生命体である電子蝶が数十匹ほど止まり、明かりを供給していた。
赤い光りに照らされた部屋の奥には、人が入れるほどの木箱が数個。部屋の隅には工事現場の足場で使う、加熱で強度や形状が変わるパイプが纏めておいてあった。
部屋の木箱の周辺には、背の低い人だかりがあった。
(地下銀行の送金現場。通報がガセではなかったな)
通報が正しかったと確信した。とはいえ、違和感もあった。
(確かに金融は風紀の縄張りだが、風紀が出るには小規模すぎる。やはり、風紀を狙った罠か)
罠の可能性も考え、増援も待機させていた。
相手の逃げ道も通報を受けてから、短時間に調べ上げてあった。
逃げ道として、木箱の下にある配管用通路を使用すると思われた。そこで、出口に仲間を待機させるという万全の体勢を取っていた。
電子蝶の明かりが強くなり、部屋を隅々まで照らした。
部屋の中にいたのは、一見すると男女半々で髪の色や肌の色が違う様々な格好をした十人の子供だった。
相手が子供ではないとすぐに十条は見抜いた。
(小人族の不法就労者か。確かに、不法就労者なら手数料が格安で、足が着かない地下銀行を利用するのも納得だ。でも、本当にそれだけなのか?)
小人族は母国ダウアリルを失って以来、世界各地に散らばっていた。小人族は普段人間の大人と同じ格好をする。けれども、都市に潜伏する場合、子供の格好に偽装して都市に紛れた。
中には人間の大人の欲を満たすために、あえて子供になりきって、風俗で働く者も少なくなかった。
小人族の中に一際目立つ緑髪の少年がいた。緑髪の少年は、部屋の奥にある大きな木箱に腰掛けていた。
緑髪の少年は黒色のシリコン迷彩のフード付きジャンパーとズボンを着ていた。
着ている人間の意志で色を変えられる、シリコン迷彩ジャンパーは最近の流行で量販店でも売っていた。
(緑髪が着ているのは、おそらく防弾仕様の軍用品。靴は単なるスニーカーのようだが、音を吸収するストーキング・シューズだな。音もなく、周囲に溶け込む都市と一体となるための服装。なるほど、地下銀行の支店長にはピッタリな格好だ)
他の小人族は十条の突然の出現に驚いた。だが、すぐに眼を吊り上げて十条を見る者や、近く木箱に隠れ警戒する者に別れた。
(緑髪以外、戦意はない。罠ではないのか。だとすると、犯罪者の縄張り争いによる、密告か)
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