平民騎士見習いカルの苦難
黄金ばっど
始まりの章 発端
太陽の騎士
「ねーちゃんこれ読んでよ~」
「なんだカル、また絵本か?何時まで経ってもカルはお子ちゃまだな?」
「うるさいなアーヴィン!イーサンみたいにつよくなるために読んでもらうんだよ!」
「絵本よんでもらっただけでつよくなれる訳ないだろ」
「なんだとぉ~!」
「こらこら二人ともそんな事でいちいち喧嘩しないの」
「ねーちゃん早く~」
僕がせがむとアーティ姉ちゃんはゆっくりと絵本を開いた。
僕等の所にこの絵本が届いたのは結構前の話しで、何時だったかアーティ姉ちゃんが貰ってきたんだ。
今では僕の大好きな絵本、太陽の騎士イーサン。
この本を読むときアーティ姉ちゃんはいつも優しい声で読んでくれるんだ。
そんなアーティ姉ちゃんが僕は大好きだった。
「もう、仕方ないわね~。むかしむかしあるところに―――――」
『むかしむかし、あるところにイーサンと言うこどもがいました。
イーサンは生まれつきとても力がつよく、大人と力くらべをしてもかってしまうほどでした。
やがて大きくそだったイーサン。
力がつよいイーサンはわがまましほうだいで、村じゅうさがしてもだれも止められなくなってしまいます。
あるとき、うわさを聞いたおうさまが、きしをひきつれ村にやってきました。
「あくどうイーサン、おまえをたいじする」
おうさまはそう言うときしをイーサンとたたかわせこらしめました。
まだこどもだったイーサンはきしにまけてしまいます。
このときイーサンがまけて村じゅうおおよろこびでした。
それを見たイーサンはじぶんがわるいことをしていたことにきづきました。
「おうさま、ごめんなさい」
イーサンはおうさまにあやまりました。
「ゆるそう。だがこれまでイーサンがおかした罪はなくならない。これからはわたしのもとで国のためにはたらくことでつぐなうのだ」
「ははー」
「これよりイーサンをきし見習いとする」
そうしてイーサンはきし見習いとなりました。
力がつよかったイーサンは国のためにマモノをいっぱいたいじしました。
オーガもワイバーンもイーサンの力にはかないません。
あるとき国いちばんの美人アルル姫がわるいドラゴンにつれさられてしまいます。
しんぱいした王さまは国じゅうにおふれをだしました。
「姫をたすけてくれたゆうしゃには、どんなのぞみでもかなえる」
たくさんのもさがあつまりました。
まずさいしょに国いちばんのまほう使いがいどみました。
だいまほうをつかいましたがわるいドラゴンにはまるでききません。
ガォーとひとふき、わるいドラゴンは炎のいきでまほうつかいをやっつけてしまいます。
つぎに国いちばんのせんしがいどみました。
まほうの剣をもったせんしはわるいドラゴンにきりかかります。
わるいドラゴンのかたいウロコもまほうの剣にはかないませんでした。
きられたわるいドラゴンはとてもいかり空へとまいあがってしまいます。
剣がとどかないせんしはおりてこいとさけびます。
ガォーとひとふき、わるいドラゴンは炎のいきでせんしをやっつけてしまいます。
これをみたイーサン、つぎはじぶんがたたかうといいだしました。
王さまは言いました。
「きしイーサンよ。あのわるいドラゴンには剣がとどかない、まほうもきかない。どうやってたおすのだ?」
「わたしにはひさくがあります。王さま、どうかまほうの剣をおかしください」
「うむ、わかった」
王さまから国いちばんのまほうの剣をかりたイーサンはわるいドラゴンの住む森にいくと、まずグリフォンに会いにいきました。
「わるいドラゴンがきてみんなめいわくしている。グリフォンよ、私といっしょにきてほしい」
「わるいドラゴンには森のみんなもめいわくしている。てつだおう」
そう言うとグリフォンはイーサンをせなかにのせてとびたちました。
イーサンとグリフォンはわるいドラゴンにふたりでたたかいをいどみます。
「われはきしイーサン。わるいドラゴンよアルル姫をかえしてもらう」
せいせいどうどうとなのりをあげたイーサン。
「ばかなやつめ。われの炎でけしずみにしてくれる」
ガォーとひとふき、わるいドラゴンは炎のいきをイーサンめがけてふきかけます。
しかしイーサンはグリフォンといっしょ。
ひゅーとそらたかくまいあがると炎のいきをかわします。
「どこへ逃げた!にんげんめ!!」
そらへととんだイーサン。
イーサンをさがしわるいドラゴンはそらをみあげました。
そらにイーサンのすがたがありません。
それにグリフォンのすがたもありません。
「こっちだわるいドラゴン!!!」
うしろからイーサンの声がします。
「ばかなやつめ!だまっていればきづかれなかったものを!!」
わるいドラゴンはこえのほうにふりかえります。
するとそこには大きなたいようがありました。
「うわ!まぶしい!!」
たいようのひかりにわるいドラゴンはおもわず目をつむってしまいます。
そのとき、たいようの中からまほうの剣をもったイーサンがわるいドラゴンにむかっていきました。
「かくご!!」
そうイーサンが言うと、まほうの剣はとてもおおきくなりました。
力のつよいイーサンは、おおきくなったまほうの剣をひとふり。
わるいドラゴンをイーサンはみごとやっつけました。
たすけたアルル姫とグリフォンのせなかにのってイーサンはお城にもどりました。
イーサンとアルル姫はけっこんしてしあわせになりました。
めでたしめでたし』
「おしまいよ~」
アーティ姉ちゃんがぽんっと本を閉じる。
「かっこいいーーーー!」
やっぱり太陽の騎士イーサンは凄い!
わるいドラゴンもやっつけちゃうんだからな。
「…………アルル姫いいなぁ。アタシも幸せになりたいなぁ~」
ベッキーが空中を見上げて何か呟いている。
アルル姫の気分になっているんだろうか?
でもベッキーお姫様じゃないから騎士は助けにこないかもね。
「ふん。ドラゴンが弱すぎるんだよ」
毎度毎度文句を言うのはアーヴィンだ。
「そんな事ない!イーサンがつよいんだ!」
ぬぬぬぬ!
僕がアーヴィンを睨付けるとアーヴィンも僕を睨付けてきた。
「なんだやるのか?お子ちゃまカルちゃん?」
「アーーーヴィーーー!!」
一触即発、まさにその時だった。
ごちん!!!
「こら!いちいち喧嘩しないの!!アーヴィンもお兄ちゃんなんだからつっかからないの!」
「………っち」
「アーティ姉ちゃん痛いーーー」
「カルもすぐ文句言わないの!あんた来週からムーディーにいくんでしょ!?こんな事で怒ってたら騎士様になんてなれないよ!」
ううぅ。
そうだ、僕は騎士になるんだ。
騎士に成るために来月からムーディーナ騎士学校に入るんだ。
ムーディーナに行くには馬車で2週間掛かる。
手続きもあるし来週の頭には街を出ないといけない。
そんな寂しさからか、僕は、僕達はいつもよりほんの少し焦っていた。
素直になれなくて――――
「僕素振りしてくるから――――」
「ちょっと、カル、ちゃんとアーヴィンと―――」
仲直りしなさい――――でしょ?
分ってる。
分っているんだけど、物心付いた頃から僕等は皆一緒だった。
皆が僕を応援してくれているのも知っている。
騎士学校のお金だって安くない。
アーティ姉ちゃんは酒場で働いたり、薬草を摘みに行ったりしてお金を稼いでくれている。
僕より二つ年上のアーヴィンは、冒険者登録して僕等全員の食費を稼いでくれている。
一つ下のベッキーはまだちょっと夢見がちだけど魔術の才能があるらしく貴族の子弟に可愛がってもらっているらしい。
その証拠に偶に見たことも無いような果物や何だか分らないやたら美味しい肉をもらって帰って来たりしている。
僕だけだ。
何も役に立っていない。
なんだか頭のなかがこんがらがっている。
気が付いたら何時もの裏山まで来ていた。
自分で作った木剣を握り僕はいつも通りの素振りを始める。
上段から叩き降ろすように。
「ふんっ!」
下段から掬い上げるように。
「やぁっ!」
只ひたすら木剣を振るう。
そうすれば難しい事を考えなくなっていくから。
素振りをすれば、頭の中のモヤがすっと晴れるようなそんな気持ちになっていく。
だから唯々無心で木剣を振るう。
「僕は!」
振るう。
「絶対!」
木剣を。
「騎士になる!!」
結局僕に出来る事はそれだけだ。
そんな決意を新たにした僕は、この時気付いていなかったんだ。
それは焦っていたからなのか。
僕が未熟だからなのか。
普通なら見逃さないような変化に気付いていなかった。
裏山の雑木林。
そこは野生の生き物の宝庫。
普段なら野鳥が舞い、猪が走り、木の上の果物を猿が狙っていたり。
その筈の雑木林が静かすぎる事に、僕は気付いていなかった。
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