214カオス うっせぇわ パート2

 このあいだエッセイでウチの子が『うっせぇわ』を歌いすぎて困るという話を書かせてもらったのですが、この『うっせぇわ』、聴けばきくほどおもしろい歌なので、勝手に解釈してしまいます。わたしの思い込みで解釈するので、興味ない人は以下スルーしてしまってください。


『うっせぇわ』の歌詞はこうです――


☆☆☆

正しさとは 愚かさとは それが何か見せつけてやる


ちっちゃな頃から優等生 気づいたら大人になっていた

ナイフの様な思考回路 持ち合わせる訳もなく

でも遊び足りない 何か足りない

困っちまうこれは誰かのせい あてもなくただ混乱するエイデイ

それもそっか

最新の流行は当然の把握 経済の動向も通勤時チェック

純情な精神で入社しワーク 社会人じゃ当然のルールです


はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ

あなたが思うより健康です

一切合切凡庸な あなたじゃ分からないかもね

嗚呼よく似合う その可もなく不可もないメロディー

うっせぇうっせぇうっせぇわ

頭の出来が違うので問題はナシ


歌:Ado 作詞:syudou 作曲:syudou

☆☆☆


 まだ二十代の若い会社員が、社用飲み会の二次会であるカラオケに付き合わされ、上司の歌う『ギザギザハートの子守歌』を聴かされているときの、内心を詩に落とした――ってなイメージでしょうか。


 ネットニュースで知ったのですが、『うっせぇわ』の歌詞は、チェッカーズが歌った『ギザギザハートの子守歌』へのオマージュだっていうんです。これも歌詞を引いてみます――


☆☆☆

ちっちゃな頃から悪ガキで 15で不良と呼ばれたよ

ナイフみたいにとがっては 触るものみな傷つけた


ああ わかってくれとは言わないが そんなに俺が悪いのか

ララバイ ララバイ おやすみよ ギザギザハートの子守唄


歌:チェッカーズ 作詞:康珍化 作曲:芹澤廣明

☆☆☆


 チェッカーズが『ギザギザハートの子守歌』でデビューし、『涙のリクエスト』の大ヒットを飛ばしたのは1984年だそうです。わたしは中学生でした。どストライク世代です。たしかに、隣の席の女の子が「チェッカーズ大好き。フミヤ大好き」と言ってました。思い出しました(笑)


『うつせぇわ』は、あきらかに『ギザギザハートの子守歌』をその内に取り込んで作詞されてますよね。いまの10代、20代の若者から、わたしたちアラフィフ世代に向かって投げつけられた爆弾なんでしょうか。


「可もなく不可もないメロディー」「あなたじゃ分からないかもね」


リアル50代としては、かなりショックなんですけど……。




 ただ、チェッカーズの『ギザギザハートの子守歌』と37年の時間を隔てた、Aboさんが歌う『うっせぇわ』は同じように若者の叫びですが、だいぶん趣が違います。そこがまた、おもしろい。この37年で若者がどう変わったのかと。


『ギザギザハートの子守歌』は、親世代に向けて「わかってくれとはいわないが」といいながら、本当は分かってもらいたい歌ですよね。こんな俺だけど、社会に認めてもらいたいと思っている。


 それに対して、『うっせぇわ』は、同じく親世代に向けて「うっせぇわ」といっています。「耳が痛い」という慣用句がありますが、うるさいなーとうっとおしく感じる言葉は、正論であることが多いんですよ。作詞のsyudouさんは承知の上でこの歌詞を書いてるはず。「頭の出来が違うので問題はナシ」といいつつ、問題はじぶんたちにあると――そういう歌。『ギザギザハートの子守歌』と同じ構造をもった歌詞。


 でも、そのあとは違うと思います。チェッカーズは「俺たちを認めてくれよ」と親世代にすり寄るように歌いましたが、Aboは「一切合切凡庸な あなたじゃ分からない」と親世代や社会とじぶんたちを切り離そうとするんですよ。そこのメンタリティが全然違う。


 露出しようとしない、舞台へあがろうとしない。


 チェッカーズが九州から上京し、テレビに露出して歌を披露していたのと、Aboが謎の女子高生ボーカリストとして素顔が分からないまま歌っている、というところにそれは象徴的。


 大人にもの申す歌なのは同じなんだけど、前者は大人と交わって主張を認めてもらおうとするのに対して、後者はそもそも主張が認められるわけがないからと大人とじぶんたちの間に線を引こうとしている。どっちがいいのか、どっちが正しいのか、わたしには分かりませんよ。


 ただ、わたしはチェッカーズの方が健康的な気がしますけどね。

 えっ、あなたが思うより健康です? うへ、わたしの負けですかね。

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