209カオス そんなものほしくないから 

 ドラえもんのひみつ道具のなかに「Yロウ」というものがあるのを知ってますか。アルファベットの「Y」字形のロウソクなのですが、これを渡された人は、渡してくれた人に、その望むことをしてあげられずにいられなくなるというひみつ道具です。渡す側も受け取る側もとても後ろ暗い思いをするこの道具――「Yロウ」は賄賂をもじったひみつ道具なんですね。


 はじめて読んだのは小学生の頃でしたが、そのときはまだ賄賂という言葉を知らなくて。『Yロウ作戦』のエピソードを理解することができませんでした。


 エピソードでは、のび太がジャイアンにYロウを手渡して、じぶんを野球チームのレギュラーにしてほしいと頼みます。Yロウを受け取ったジャイアンは、「いいのか? こんないいものもらって!」と感激し、チームメイトには内緒でチームのなかではいちばん野球のへたくそなのび太をチームのレギュラーに決めてしまう……という流れの話なのですが、小学生のわたしは変な形をしたロウソクをもらったジャイアンがなににそんなに感激したのか、へたくそなのび太をレギュラーにするここと釣り合う値打ちのあるものなのか、ぜんぜん納得できませんでした(笑)


 ――こんなロウソクもらっても、うれしくもなんともないわ!


 子どもなので賄賂の意味することろが分からなかったんですねー。


 東北新社に勤務する菅首相の長男が、総務省の上級幹部を接待漬けにしていたというニュースをずっとやってますが、それを見ていて「Yロウ」が頭に浮かんできたんで、とりあえずエッセイに書いて忘れないようにしておこうと思ったわけです。この件で東北新社の接待に賄賂性があるかどうか(限りなく「ある」ように思えますが)、総務省の官僚が賄賂性を認識しながら接待を受けていれば収賄罪となりますが、「賄賂だと思って飲み食いしました」なんていうバカはいない(みんな有名な大学を出てる 笑)ので犯罪としての立件は難しいでしょう。


 ドラえもんの『Yロウ作戦』のエピソードでは、Yロウのおかげでレギュラーを外されたスネ夫やほかのチームメイトは、ジャイアンに不審を抱きます。そこへジャイアンがのび太にあてて書いたYロウの領収証が発見され(ドラえもんの政治ネタ!)、スネ夫たちの不審は、確信へ変わってゆき、みんなはジャイアンのうちへ、そしてのび太のうちへ押しかけるという展開になります。


 だんぜんドラえもんのエピソードが気になるとは思いますが、この先を知りたい人はマンガを読んでいただくこととして、現実の東北新社の件でスネ夫たちの立場に立たされているのが、わたしたち一般庶民ですよ。ジャイアンがYロウと引き換えに、のび太へレギュラーの権利を渡したとスネ夫たちが信じたように、高級官僚が接待と引き換えに、放送利権を東北新社に渡そうとしているようにわたしたちには信じられるんですよね。


 高学歴の官僚と大企業が、公共の財産であるところの放送を、わたしたちに無断で、不正にやりとりしているように見える。もっというと、低学歴で、貧乏人のわたしたちが、官僚や企業人(これが政権と深いかかわりがある人物というところがまた腹立たしい)からバカにされているように感じる。


 ――バカにされている。


 スネ夫たちがジャイアンやのび太に腹をたてたのは、まさにこれ。

 賄賂に限らないですよ。人をバカにするようなことをしちゃだめだ。菅首相の息子さんは身をもってそのことをわたしたちに示そうとしてくれたんでしょう。……ちがう? そういうことにしときましょうよ。

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