207カオス スクールカースト
スクールカーストという物騒な言葉があります。ご存知ですか。
【スクールカースト】
現代の日本の学校空間において、生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。(Wikipediaより抜粋)
これは単に人気の序列に留まらず、学校生活のさまざまな意思決定の場面で威力を発揮し、校内秩序を規定している――といったらオーバーなのでしょうか。いや、決してオーバーではないような。
幸いわたしは、厳しいカーストを意識したことはなかった(意外と上位カーストにいた? 或いは、単にボーっとしたヤツだった?)のですが、学校にくるのが辛いと感じた人もいたに違いありません。
『UFOはまだこない』(石川宏千花 講談社)は、冒頭こうはじまります。
――小学校時代のオレと公平は無敵だった。
スクールカースト最上位に位置する中学一年生の男の子が、親友が宇宙人と交信をはじめてしまったこと、友達が大好きな野球をやめてしまった理由、先生による生徒のいじめ、失恋、小さな女の子に異常な執着を示す根暗な高校生、あがれの先輩の病院・入院……などの出来事に遭遇するうちに、彼の「無敵観」が変容していく(大人になっていく)というお話でした。
石川さんの本は『青春ノ帝国』を去年読みましたが、読後感がとても良かったので、もうひとつ読んでみようと図書館で借りたのです。人と人のあいだの決してポジティブばかりでない心情の交換というか……そういう描写がすばらしく上手いですね。
中学生向けの読み物なので、部数は出ないし文庫化もされないのかなあ。おもしろいのに。
わたしが特におやと思ったのが、物語内の出来事に対する石川さんのスタンスです。本質的な解決を志向しないんですよ。
たとえば、生徒を陰湿なやり方でいじめている小学校教師について、被害者の男の子に「しょうがないよ。そういう人なんだよ、あの人」と言わせてるし、ロリコン高校生に対しても、なぜそうした行為をするのかといったことろまで掘り下げるようなことはせず、主人公の知恵と機転によって制裁を加えますが、根本的にどうかしようとはしない。不正に対する視線が冷めているのです。
――仕方がないじゃない
達観(それとも諦観?)しています。
石川宏千花さんは、69年生まれ。わたしとほぼ同世代なのですが、この感じとても共感します。「仕方がない」というのは、われわれアラフィフ世代の思考に刻印された呪いなんじゃないかと思う(笑)
ちょうど就職するかしないかという頃にバブル経済が崩壊。イケイケの世の中が終わります。それから10年くらい、長くゆっくりとした下り坂が続き、そのあとは出口のない閉塞感が20年続いています。世の中が停滞し、硬直化していって、思考が保守化していきました。
保守っていうのは、右翼ってことじゃなくて「変化は望まない。いままでどおりがいい」ってことです。多少都合の悪いことがあっても、目をつぶっていままで通りがいい。そうすれば、いまより状況が悪くなることは避けられる――これが保守的な思考というものです。ここ20年くらいわたしたちはずっとそうしてきたように。
『UFOはまだこない』は、こうした「仕方がない」が蔓延する現代に生きる中学生が、子どもから大人になっていく一側面を捉えた小説だと考えながら読み終えました。軽妙な文体でするする読めます。
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