206カオス 母と娘の問題
前々回、「ブックオフで号泣した話」としてわたしが朝っぱらからブックオフで『ガラスの仮面』を立ち読みし、滂沱の涙(!)を流したことを書きましたが、翌日、無事に購入しまして、存分に泣き直したことを報告しておきます。お騒がせしました。
……で、読むといまのマンガにはあり得ない描写に衝撃を受けまして(子どもの頃、読んだときはまったく考えてもみませんでした)、ちょっとここに書いておこうと考えたのでお付き合いください。
『ガラスの仮面』は、漫画家美内すずえさんが1974年(47年前⁉️)から連載している演劇をテーマにしたマンガです。
びっくりしたのは、主人公マヤとお母さんの関係です。まず、第一巻でのふたりについて説明しておくと――
◯ 北島マヤ
地味で目立たない中学生。
学校の成績はよくなく、容姿も可愛いとは言えない。
ただし、余人に代え難い演劇の才能と情熱をもつ。
◯ 北島春
マヤの母親。
横浜の中華料理店に住み込み店員として働いている。
夫を亡くし、女手ひとつ一人娘のマヤを育てている。
このお母さん――春さんが、かなりつらくマヤに当たるんですよね。マヤはお芝居に目がなくて、出前にでかけた先で映画やテレビのお芝居を見てしまうと、出前に来たことも忘れて没頭してしまうのですが、春さんはこんなマヤを、
「ろくでなし!」
「役立たず!」
「母さんに恥をかかせた」
と一方的に罵ります。驚きです。いまのマンガにこういう母親の描写ってないよね……という勢いで叱り飛ばします。
また、学校の劇にマヤが役者として出演すると決まった時には、まんざらでない顔をしておきながら、その役が「国一番のおバカさん」で芝居の道化役と聞かされると、
「どうせそんなことだろうと思った」
「おバカさん役がわたしの娘です。まったくいいみせもんだよ」
「わたしの娘がまともなことできるはずないじゃないか」
と、はじめてのお芝居を控えたマヤを励ますことはおろか、マヤの役へのネガティブなイメージを助長するかのようなセリフを吐いて落胆します。
――母親が娘にかける言葉として、もっと別なものがあるだろう。
とだれもがツッコミたくなる春さんの塩対応ですが、娘のマヤは健気です。
「あたしなにもできなくて とりえもなくて」
「母さんをがっかりさせてばかり」
「きっとうまくやる 母さんに恥なんかかかせない」
とおバカな道化役を精一杯務める決意を話しますが、春さんの対応は
「わかったよ! うるさいね!」
といい、布団をひっかぶって寝てしまうというものでした。……冷たい。
おまけに、マヤから必ずお芝居を見にきてほしい頼まれていたにも関わらず、「娘が笑い物になるのは見ていられない」とマヤの初舞台をすっぽかしてしまいます。
ひどくないですか?
マヤに対して頑張りなさいとか、応援してるからねとか普通そういうものじゃないのかと思いますよね。
春さん、毒親ですよね〜。
春さんは、自己愛が強い性格でありながら自己肯定感がとても低い。夫を亡くした母子家庭。自身はしがない中華料理店の店員。貧乏でみっともなく、なんの取り柄もないと思い込んでます。
そして、その自己評価をそのまま娘のマヤに押しつけています。セリフの傍点の箇所でわかりますね。マヤのお芝居を見にいかなかったのも、マヤが笑われるのが見ていられないのではなくて、マヤ=春さんが笑われるのが耐えられなかったためだと分かるのです。
母親が娘を自己と同一視して束縛する「母娘問題」が描かれてました。『ガラスの仮面』深いな〜。この学校劇をきっかけにマヤは演劇に目覚め、親離れを果たしていくという流れになります。
あと、この箇所って、きっと美内すずえさん=マヤです。
作者の美内すずえさんが、母親や世間の無理解(昭和50年くらいなら、マンガは悪書、読むとバカになると言われて排斥されていた)を振り切って漫画家として生計を立てていくと決心する過程と二重写しになります。
そんなこんな合わせて考えると、『ガラスの仮面』第一巻、めちゃくちゃおもしろいです。子どもの頃はこんな読み方はできなかった(できるわけがない)ので、読み直してよかっなあと思いました。
え、なにがおもしろいか分からない?
こんなこと考えなくてもおもしろいですから『ガラスの仮面』。読んでみて。
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