151カオス 虫が苦手な方はご遠慮ください

 世の中にはムシを食する人がいるらしい。まったくピンとこないが、世界の人口がこのままで増え続ければ、牛や豚、羊といった家畜のお肉では人類が必要とするタンパク質はまかなえなくなる時代が来るらしい。「昆虫食」は来るべき飢餓の時代の人類を救うタンパク源となる可能性を秘めている――らしい。




 うちの息子は昆虫好きで、特に今年は小学校でも話の合うムシ友達ができたらしく「昆虫、昆虫」とやかましい。ちなみに息子はわたしが「ムシ」というと腹を立てる。虫のことは「昆虫」と呼ぶべきだというのである。なるほど、元々そう教えたのはわたしだが、ここまでのめり込まれると少々窮屈である。


 ――虫は虫なのだから、ムシでいいではないか。


 今日、関西はこの秋一番の冷え込み……というか、気温の上がらない1日となりずっと寒かった。雨も降っていて、出掛けたくなかったのだが、息子が「昆虫館にいきたい。昆虫館」と力説するものだから、「じゃあ行く?」と昆虫館へ出かけることに。


 伊丹市の昆虫館は、わが家からちょっと遠いけれど息子のお気に入りの場所だ。チョウの放たれた温室が目玉の昆虫館だが、息子のお目当てはゲンゴロウの水槽であったり、観察できるスズメバチの巣であったりする。


 カブトムシやクワガタと言わないあたり、彼の昆虫好きも、小学二年生になって堂に入ってきたように感じられ、親としては頼もしいような残念なような複雑な気持ちだ。


 今年何度目かの昆虫館訪問で、わたしはすっかり飽き飽きしてしまっていだのだが、息子はルンルン気分で昆虫館へ入っていく。うん、いつもと変わりない。相変わらずの昆虫館だ。しかし――


「お父さん、お父さん‼️」


 テンションMAXの息子に引っ張って行かれたのは、施設のショップだった。


「タガメ、タガメ!」


 目下のところ、息子がもっとも貴重と考えている昆虫のひとつが「田んぼの王者」タガメという水生昆虫である。体長7センチにもなる巨大な水生カメムシは、ひと目見てギョッとするくらいの迫力がある。


 昆虫館のショップに、「昆虫食」と銘打たれたミニコーナー。そしてそこに王者タガメの姿が……まじでこれ食べるの?


 いや、食用ではなかった。

 飲用だったのである(笑)


 ショップには


『タガメサイダー』 500円


 という商品が。


 最初はジョークなのだろうと思っていたが、みればみるほどマジである。ラベルにタガメの姿と「香る昆虫 タガメサイダー」の文字。タガメエキス0.3パーセントとある。


 なになに、『昆虫は甲殻類(エビやカニ)などと近い生物です。アレルギーをお持ちの方はお飲みにならないことをおすすめします』か。マジだな。


 これをスルーするのかと思っていたら、なにを血迷ったのかおもしろがったのか、奥さんが息子に買ってあげているではないか! あなた、責任もって飲むんだろうな。


 タガメのラベルが貼られたシュールな200ml入りの小瓶を手に、満足げな息子とにこにこしている妻。まじか、と半信半疑なわたし。三人は夕食後、「飲む? タガメサイダー」と盛り上がりました。







 飲みましたよ。フツーにうまかった。

 この分なら、食糧危機に際して昆虫食も悪くないかもしれない(笑)

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