122カオス 出し惜しみのない◯◯

 一所懸命に小説を書いている人――おられるんでしょうね。


 自分がそう、毎日書いている。

 ――お疲れさまです、がんばってください。


 がんばらないといけないんだけど、なかなか思うようにならなくて……。

 ――同志!


 ま、いろいろと執筆に対するスタンスはありますが――乾坤一擲! これ一本にワナビのすべてを賭けるぜ――といえるくらい一本の小説に打ち込むことってあります?

 わたしはないんですけど……。


 若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』を読んで思ったのが、まず「けんこんいってき」のこと。


『おらおら〜』は、74歳の主人公、桃子さんが自分の生涯を振り返りながら「自分とは」とか「愛とは」ということを、桃子さん自身の内なる声と対話しながら探っていくという、ヘビィなテーマ内容の小説です。ま、東北弁を駆使した文体と、おそらくは作者である若竹さんのキャラクターが陽性なので、まったくネガティブな印象を受けない(というより、むしろコミカル)という稀有な小説でもありますが。


 この小説、若竹さんの出し切った感が半端ないです。


 ――これがわたしの全てです。わたしこれで勝負します‼︎


 読んでて、若竹さんの気迫が痛いほど伝わってきて圧倒されます。読み返すとちょっと辛いくらい。中途半端なワナビである姿


 努力の出し惜しみしちゃダメなんだな〜と感銘を受けました。若竹千佐子さんは、はじめて発表したこの『おらおらでひとりいぐも』で芥川賞を受賞しましたが、芥川結果としての芥川賞はどうでもいいんです。若竹さんが「出し切った」ことに、わたしは賛辞を送りたい。すごい小説ですねと。

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