わたしと本の日々
藤光
1カオス 混沌への招待状
最近、「100分de名著」にハマっています。「100分de名著」というのはNHKEテレの教養番組のタイトルなのですが、私がハマっているのは、テレビ番組ではなくて、番組のテキストとして書店で売られている冊子の方です。
――なにか安く読める本はないかなあ。
それと出会ったのは、こんなことを考えながら、ぶらりと書店に立ち寄った時のことでした。
最近は、千円オーバーの文庫本も珍しくありません(ハ◯カワと創◯とか…)。なかなかおもしろいと思える本が少ない中、千円出して文庫本を買うというのは、いくら読書が趣味とはいえ、なんか違うような気がずっとしていたのです。そのときも具体的に目当ての本があるわけではありませんでした。
――公募に向けて、なにか書き出さないといけないよな。
私もWeb作家の端くれとして、新人賞受賞、さらに書籍化を夢見ないわけではありません。文芸雑誌のコーナーで公募情報でも探してみようかと、文芸誌の背表紙を目で追っていると、視界に入ってきたのがNHK教養番組のテキストでした。その書店では、文芸雑誌とNHKテキストが隣り合わせに陳列してあったのです。
――教養番組のテキストなんて、だれが買っていくんだろう?
子供の頃、散々勉強しなさいと言われてきたトラウマからか、勉強というものに深い懐疑と怨念を抱いている私(笑)は、NHKテキストのことを常に白い目で見てきました。
ただ、小学一年生の息子がEテレ大好きっ子で、時間があればずっと見てる(民放と違って、子供向けの番組が非常に充実している上、確かにおもしろい)様子を隣で見ているうちに、
――最近の「Eテレ」は、昔の「教育テレビ」とは、まるで別物だな。
と考えはじめていたことも確かで、そのときも棚に挿してあるテキストを見るともなく、眺めていたのです。
「お」
あるテキストの背表紙に目が止まり、棚から抜き取ったその冊子が『100分で名著 小松左京スペシャル』でした。私が思わず声を上げてしまったのは、とても意外に思えたからです。
いくら『日本沈没』が大ベストセラーでも、いくら小松左京がビッグネームでも、SFは所詮サブカルチャーです。天下のNHKが教養番組でSF作家の作品を「名著」として取り上げるのは英断(または暴走)ではないか――と、SF読みの私はうれしくなって声を上げてしまったのでした。
――やるな。Eテレ。
ところで、小松左京という人はどんな作品を書いていたのだろう。和製SFをあまり読んでこなかった私は、小松左京を読んだことがありませんでした。その日、私は『100分で名著 小松左京スペシャル』を買って帰ったのです。
家で読んでみると、このテキストがおもしろい。読みやすい。宮崎哲弥の解説がいい。テキストで取り上げられている小説を読んでないので偉そうなことは言ってはいけないのですが、小説としては賞味期限は過ぎているのではないかと思うんですよね。それを興味深い内容に解説している宮崎と番組を構成したNHKスタッフがいい仕事をしています。
そんな出会いがあって「100分で名著」テキストを読みはじめました。
小松左京に続いて、アルベール・カミュ『ペスト』、メディア論『私たちにとってメディアとは何か』、『特別授業 ソクラテスの弁明』、そしていまは、オルテガ『大衆の反逆』を読んでいます。どのテキストもいままで私がもってなかった視点や考え方が載っていて、興味深いものばかりです。読んでいてとても楽しい。
なかでもカミュ『ペスト』のテキストはよかった。テキストを読みながら涙が出てきてしまった。いつか小説『ペスト』を手にとってみようと思います。
そんなこんなで、しばらくは読む本に迷わなくてすみそうです。本を読むって楽しい。
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