第523話 傷だらけの救援隊



「……マジかいな。こんなん無茶に過ぎよるやろ」

 アイアオネ町長トボラージャは、その紙面を見てこれでもかと表情を歪ませた。


 内容は “ 救援要請 ” ――――――それも緊急過ぎる・・・もの。



  ・

  ・

  ・


「それで急な出発と……しかし、いくら町長直々の依頼とはいえ、簡単に請け負っても良かったのですか?」

 ハヌラトムは、今回の仕事の依頼をシャルーアが受諾した事を少しばかり不思議に感じていた。

 リュッグがシャルーアに教えを施しているところは彼も幾度と見た事がある。その教えは全体として基本、“ 命を大事に ” な方針であった。

 傭兵仕事を選ぶ上でもその教えが生きているはずで、そんなリュッグの教え子であるシャルーアが、緊急とはいえ即座に依頼を請けた事が意外だった。


「はい。トボラージャ様よりお話をいただきました時、お仕事の場所が、前々より少し気になっていた方角と一致しておりましたので、ちょうど良い機会かと思いました」

「気になっていた……ですかい? その方角がスタンピードの魔物の一部が北上してきてるっていうところでしたら、その魔物の中にシャルーア様が気になされるほどの何かがあるんですかね」

 マンハタがそう言うと、ルイファーンやザムもなるほどと得心しかける。


 彼らでさえ実際、魔物達が大量に群れているという話だけでも、ソレがいる方向には何か嫌な気配を感じるような気さえしてくる。只人ただびとではないシャルーアであれば、より鋭敏えいびんに何かを察知していてもおかしくはない。



 しかし当のシャルーア本人はというと、マンハタの言葉に対して首を横に振った。


「いいえ、魔物の大群さん達も確かに気がかりなことですが、わたくしが気になっていることは別にありまして……いえ、正直に申し上げますと、気のせいかもしれない事なのですが……」

 少し自信なさげで明確に言葉にはできず曖昧に濁す。

 気になるソレがいったい何なのかは彼女にもつかめ切れてはいない―――が、確認はしなければならない、といった態度。


「なるほどですわ。もしシャルーア様の感じていらっしゃるナニかが魔物の群れとは別なのでしたら、確かに調べはつけておかないといけませんわね」

 今のところ人々が脅威として恐れているのは魔物のスタンピードだ。しかしソレとは別で何等なんらかの問題があるとしたら、放置しておくべきではない。

 何よりソレを感じているのがほかならぬ神の末裔たるシャルーアだ。曖昧でよくわからないとはいえ、スルーしていいものではない―――ルイファーンはそう理解し、一つ大きくうなずいた。


「まあ、町長の話じゃあオレらは魔物連中に真っ向から当たるわけじゃないし、そこまで危険な仕事ってわけでもなさそうだからよ、シャルーアちゃんの安請け合いはむしろ良い判断だったかもな~」

 ザムは依頼内容を思い返しつつリスクとリターンを計算し、今回の仕事はローリスク&ハイリーターンだと予想。

 傭兵の世界では緊急性の高い依頼ほど報酬が高くなる可能性がある。ただし同時に、厳しい内容であることも少なくないのも確かだ。

 しかし今回は、北上する魔物の群れに対してその側面に位置取ってけん制するというのがシャルーア達、アイアオネ勢・・・・・・に期待された仕事だという。



――――――ジューバ町長からアイアオネ町長へと届けられた救援要請は、北上して迫る魔物の群れへの、早急な戦力捻出をうものだった。

 それはアイアオネに限らず、周辺の町や村すべてに対して届けられているらしい。


 とはいえ先発の、ジューバが出した討伐隊が敗退した相手に対し、各地より集結する戦力が個々バラバラに戦っていては混戦状態になって収集がつかない。

 なのでジューバ南部の戦地へと各町や村より集まってきた際、その位置関係を考慮してある程度の役割分担が、救援要請の書面には記されていた。


 アイアオネ勢は魔物の群れから見て東側―――なので敵の東側面に位置取って牽制して欲しいということだ。



「そうはいっても油断は禁物ですぞ、ザム殿。魔物の群れがいついかなる動きの変容を見せるともわかりませぬからな。我々とて総勢200名・・・・・・いるとはいえ、こちらに向かって集中的に攻勢に出て来られようものなら、さすがに危険ですからな」

 ハヌラトムの言い分ももっともだ。


 しかもアイアオネ勢はシャルーア達 + アッサージの手下のゴロツキ達で構成されているのだが、先のクルコシアスら白亜の化け物による町襲撃より経過した日数はまだ浅く、その時の疲労やダメージが癒えきっていない者も多く含まれている。

 (※第十七章あたりを参照)


 なので大群を相手にするには不安が残る。できれば本格的な戦闘への参戦は避けたいのが本音の、傷だらけの救援部隊だった。




「もちろん皆さまに無理をしてもらうつもりはありません。何より道中におきましても―――」


『ォーーーオォオオン!!』『ガウウウ!!』『ワウッワウッ、ワオォオン!!!』


 シャルーアの言葉の途中、その先を言うまでもないとばかりにジューバへの道脇の小さな砂丘の影から、多数飛び出してきたのは野犬タイプのヨゥイだった。


「―――こういう事がありますものねっ! みなさーん! 敵襲ですわー!!」

 ルイファーンが後ろに向けて声を張り上げる。

 元気な者はすぐにシャルーア達に合流して戦闘に入ったが、やはり怪我や疲れが残る者は戦意こそ見せてはいても身体の反応が鈍いらしく、戦闘態勢に入るのに遅れが生じてしまっていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る