第490話 対峙する黒と白の集団




――――――アイアオネの町から西に5kmほど。


「さて……そろそろ頃合でしょうかね?」

 灰色のローブを脱ぎ、堂々とバケモノたる姿を晒す。




 2m足らずの身長は、“ 彼ら ” の中ではコンパクトな体躯だと言えるだろう。

 しかし、彼自身はそれで十分。不必要に肥大化した身体など、醜く機能性に欠ける。むしろ小柄で力が凝集している方が合理的だとさえ思っている。


「フフフ……さぁて、あの町の連中はどうしているでしょうか? いい感じに怖れ、怯えていてくれると楽しいのですが」

 そう言うと、バケモノは歩き出す。そして片腕をあげ、来いとジェスチャーを取った。すると直後に、そこら中の砂の中からボコボコと魔物が這い出してくる。


 その数はゆうに100体。全員がバケモノ同様に白灰色一色で、大小様々ながら、共通して目鼻がない。

 それがまるで猿やゴリラのような動き方で進み出し、バケモノの後に続いた。




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「! 来ましたね、あれがそのくだんのバケモノのようですよ、マンハタ殿」

 アイアオネの門の前、ハヌラトムが遠眼鏡越しにその姿を視認した。


「ああ、こっちでも見えてるぜ。……なるほどな、またぞろぞろと連れ立って来やがったもんだぜ」

 アイアオネの外壁上にいたマンハタも、自慢の視力で地平線に現れた白亜の異形集団を肉眼で捉える。


 怖れはないが、緊張がぐっと高まって来た。


「いいか、お前ら。無理に突っかかっていくんじゃねーぞ、アレはそこらの魔物とはモノが違うって肝にめいじとけ!」

「「「ウォォオオウウ!!!!!」」」

 マンハタとハヌラトムと一緒にアイアオネ西門付近を固めているのは、アッサージがまとめていた、アイアオネの裏社会のゴロツキ達だ。


 アッサージはかなり人望があったらしく、その弔い合戦と意気込んで参加したゴロツキ達は、500人を数えた。

 凄まじい気合いが、彼らの声から伝わってくる。



「頼もしいですな……とはいえ、敵が敵だけに、油断も迂闊も禁物。我々も集中して相手せねばなりますまい」

 ハヌラトムは普段は被っていない兜を装着した。

 全体的にカドのある装甲のしっかりとした鎧同様、角ばったデザインの、頭全てはもちろん、頬まで保護するタイプのヘルメットだ。


 この暑い地域においてはとても不快そうなよそおいだが、腰と背中あわせて大小4本の直剣を装備し、そのうち腰から1本抜いて構えたなら、いかにも頼もしい戦士たる姿となる。



「こっちも負けちゃいられねぇな。ここでシャルーア様のご期待に応えねぇと、男がすたるってもんだっ」

 マンハタもシミターを両腰から引き抜き、二刀流の構えを取った。

 それを一度お手玉をするように回し、右手に授かったシャルーアの力を両刀に伝播でんぱさせて、しかと握り直す。


「(見た目に変化はねぇから分かり辛ぇ……が、掴んでると良く分かる。剣になんかこう、シャルーア様の気配を感じるっつーか……)」

 不思議と安心する。

 高まりすぎた緊張感が、ほどよくなだらかになっていくようですらある。


 マンハタは軽く微笑みながら、肺の奥から一息はきだし、よしと気合いを入れ直すと、外壁の上から飛び降りて砂の上へと着地する。


 近づいてくる白灰色の魔物達―――それに向かって1歩1歩、驚くほど平静な気分のまま、自分からも近づいて行った。




「ほおう、これはこれは。まさかそちらから迎えに出ていらっしゃるとは」

 その勇気をたたえましょうと言わんばかりに、バケモノが手を叩く。

 明らかに上から目線な態度だ。しかし、マンハタは苛立ちはしなかった。


「どーせぶつかるんだ、早いも遅いもねーだろ?」

「確かに。ですがこちらとしては、怖れ震えていただく時間を1秒でも長く楽しんでもらいたかったんですが……要らぬ気遣いでしたか、フフフ」

「趣味悪ぃな、気持ち悪っ。余裕ぶって後で後悔することになっても知らねーぜ?」

「ハハハ、これはお気遣いどうも。ですが、私の目的の半分は先日達成し、もう半分の一部が、この通り目の前までわざわざ来ていただけましたからねぇ。つい緩んでしまうのも仕方ないことでしょう」

「何だと?」

 言葉に初めて引っかかるマンハタ。

 バケモノは、ニイと大きく口元を吊り上げて笑った。


「私の目的はあの町に住む鍛冶師……そして、あなた方の連れの女が持っている、錆びた剣の破壊です。まぁ命ごと砕いてしまえば楽に済みますから? こうしてあなた方があの町に到着するのを待っていたのですよ。2か所を襲うより、一か所に集中したところを攻撃する方が、理にかなっていますからねぇ、ククク」

 しかしバケモノは嘘をついた。




 バケモノの目的は2つではなく、3つ・・


 それは、かつてアイアオネ鉱山に仕掛けておいたモノ――――――ミルス達が発見して持ち帰り、正体不明ゆえギルドで厳重に保管されていた “ 呼吸をする宝石 ” の回収だった。

 (※「第111話 巣窟の地下鉱山」あたり参照)


 だがこの石のことは今は直接関係はない。なのでわざわざ目の前の雑魚に語る必要はない。ましてやこれから死ぬ者たちにはなおさらだ。




「……さぁて、ではまずはお二人、あの世へと先に送って差し上げましょう!」

 500人のゴロツキ達など眼中になし。

 バケモノはマンハタとハヌラトムを狙って動きだした!



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