第480話 その頃の保護者の中年達
――――――シャルーア達がワル・ジューアを後にしたその頃、リュッグはエル・ゲジャレーヴァにいた。
「本当に助かった。長々と引き留めてしまって済まなかったな」
グラヴァースが改めて礼を述べる。
「いや、どうせシャルーア達も帰って来るまで時間がかかるだろうから、こっちも急いで王都に戻る必要もないんでな、構わないさ。……それよりも、復興が順調そうで安心したよ」
外壁の補修はほぼ完了済み。エル・ゲジャレーヴァの町中も、目立った瓦礫は除去され、早いところでは建物の再建などが始まっている区画もあった。
「被害は少なくはなかったが、周辺の村でいくつか壊滅したところが出たのが、不幸中の幸いとも言うべきだったよ。不謹慎かもしれないが」
エル・ゲジャレーヴァの周辺には、比較的近い距離に衛星的な役目を担っている大小さまざまな村や町が点在している。
しかしヒュクロの乱の最初期時に、そのいくつかは滅ぼされてしまった。
故郷の再建が困難な状態にあり、生き残った住人達がエル・ゲジャレーヴァに合流する事となったので、エル・ゲジャレーヴァ復興の手が増え、再建は加速。
地方の小さな町程度には商業も機能しはじめた。
「統廃合が上手く作用したんだな。まぁ結果良ければすべてよしか」
そう言って、まだ補修中の門を見上げる。
働き手は十分で、リュッグが王都から連れてきた人員も上手く各所に割り当てられ、その力を発揮している。
エル・ゲジャレーヴァはもう大丈夫だろう。元の都市に完全な復興を果たすまでは時間の問題だ。
「メサイヤ殿も何かと助かったよ。ココが完全に安定したなら、改めて礼をする」
「いや、構わん。下手に
何だかんだ言ってもメサイヤ一家はゴロツキ集団だ。もし多大な品なり金なり送られでもしたら、下っ端達の中から欲に目がくらむ者も出て来るだろう。
もちろんその時はメサイヤがきっちり制裁するが、そもそもそうならないのが一番だ。
「そんな事よりも……
これまでの復興途上、メサイヤ一家はヒュクロを焚きつけた怪しい者がエル・ゲジャレーヴァに戻ってこないかチェックしてきた。
しかしその気配はなく、復興の手も十分に間に合い、グラヴァース周辺も安定した。もう大丈夫だろうということで、リュッグと共にエル・ゲジャレーヴァを発つ事となった。
「ああ、何から何まで本当に助かったよ、ありがとう」
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そうしてリュッグとメサイヤ一家はエル・ゲジャレーヴァを後にした。
「―――しかしいいのか、ナー。ムー達の近くにいていなくても?」
「うん、へーき。一応、シゴき終えた側近たちもいるしねー。それにエル・ゲジャレーヴァまわりの町や村も被害受けちゃって、物流の導線が心もとないから、出来ればファーベイナかムカウーファあたりとやり取りしたいからってことで、間の道筋も見て来てほしいって、ヘタレ
特に、銃の弾薬補給が厳しいのは困るといった雰囲気を滲ませるナー。
まだ産後間もないとはいえ、姉のムーから大きく離れて行動するというのは彼女にしては珍しい。
「セダルが壊滅してしまってはいるが、ファーベイナの方は問題あるまい。リュッグ殿によれば、王都の兵士が南からの街道沿いの往来確保に動いているようだしな」
「ああ、王都でもひと悶着あったが、そのおかげで裏で悪行働いていた大臣連中が掃除された分、これまでよりも政治対応が早まる事は期待していいと思う。ファルメジア王も念願の子宝に恵まれたとあって、かなり頑張っているようだよ」
もっともムーとは違って、まだハルマヌークのお腹の中だ。
それでも待望も待望の我が子を得た老国王は、一気に活力を取り戻した。
その上、国を食い物にしていた悪徳大臣達を一気に取り潰せたのは大きく、国王の判断や決断がすぐに実行される政治スピードも得たとなれば、グラついている国をしっかりと立て直そうとする意欲も高まるというものだ。
「あーあ、いーなー。お姉ちゃんも赤ちゃん産んで、王様も子供ができてー。……ねーねーリュッグ~、赤ちゃん作らな~い? なんならメサイヤちんでもいーから~ん♪」
周囲のプチベビーブームを
冗談なのはミエミエだが、おそらくは作るといえば本気で作るだろう。
姉のムーと共に、アサマラ共和国の兵産院という地獄で、幾度も子を産んだ経験を持つナーは、見た目よりも遥かに経験者だ。
「……そういうのはしばらく勘弁してくれ」
「軽率に股を開くべきではない、自重しろ」
「ブー、二人ともノリ悪いよー?」
メサイヤの後ろについてきているアワバ以下、下っ端達がどっと笑う。
こうしてリュッグ達は和やかな雰囲気で、エル・ゲジャレーヴァから一路南へと移動していった。
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