第479話 セクハラ傭兵の加入
――――――ワル・ジューアの酒場。
「……」
「……」
「……」
「~~~♪」
ルイファーンら3人がジト目で睨む中、当の睨まれた本人はどこ吹く風でソファー座席の中、シャルーアの隣に座っていた。
「お久しぶりです、ザムさん。お元気そうで何よりです」
「いやー、ホントホント。久しぶりだねー、シャルーアちゃんこそ元気にしてたかい? 髪伸びたねー、いや前も良かったけど今のも可愛いよ、ウンウン」
そう言って肩に回した腕をそのまま伸ばし、シャルーアの服の隙間から当たり前のように手を滑り込ませてその乳房を鷲掴みにした。
いわゆる “ おっと、手が滑った~♪ ” というベッタベタなセクハラだが、そんなザムに当然、マンハタはカチンときた。
「! テメェ―――」
「マンハタ」
「ぐ……す、すみません」
しかし、シャルーアがダメですよと言外に言い含めるようにその名を呼ぶことで、マンハタを自制させた。
「へぇ~? なになに、彼がシャルーアちゃんの下僕ってのは本当なんだ? 何か知らない間に、色々あったっぽいねぇ?」
「はい、色々な事がございました」
乳房を掴んだまま、離すことなく揉み続けながら平然と会話を進めるザム。それを許し、まったく意に介していないシャルーア。
一見するといかがわしい事に慣れきったカップルのようにも見えなくもないが、シャルーアの事を知っている者からしたら、ザムがただただ滑稽なだけだ。
過度なセクハラにも反応してもらえず、完全にスルーされているのと同じなのだから。
「(何といいますか……傭兵の方ってこういう者ばかりじゃありませんわよね? もしかしてリュッグ様が、相当に大当たりな御方でしたのかしら?)」
ルイファーンのザムに対する評価は最悪だった。
ファーストインプレッションがいきなりお尻を撫でまわされたのだから当然といえば当然だが、その後もシャルーアに対するセクハラといい軽薄な態度といい、鼻につき、目にあまりすぎる。
「(ううむ、何というか……よくも人前でそのような破廉恥な真似ができる―――いやいや、見てはならん。目線を向けぬようにせねばそれこそアレと同類と思われるは恥というもの……)」
ハヌラトムは、ザムのシャルーアの乳房を揉みまくってる仕草に呆れかえり、同時にそこに注目してしまってはいけないと、理性で真面目をつらぬく。
ある意味、ザムとは真反対な男なだけに、ハヌラトムが感じたザムという男は、あまり親交を深めたくはない類の人間だった。
「(……コイツ、絶対にぶっ殺す)」
シャルーアに制されているので我慢こそしているものの、マンハタのザムに対する憤怒は強烈に燃え盛っている。
それ以上踏み込んでみろ、シャルーア様がいかにおっしゃられようがそのそっ首、切り落としてやると言わんばかりの視線で、ザムを射抜いていた。
「そーいえばリュッグの旦那はどーしたんだい? シャルーアちゃんを置いて離れるような人じゃないと思うんだが」
そういってあざとく周囲をキョロキョロと見回す。
ザムは大方、この町で別行動中で、後で合流するとかそんなところだろうかと思っているのだろう。
「いえ、今回は
「へ? そーなのかい?? そいつぁ驚きだ……何々、ケンカでもしたってのか、お兄さんに話してみなよ」
ザムの中のリュッグ像は、絶対にシャルーアのような女の子を放り出さないものだ。それだけ人間として信頼できる人物―――自分のようないい加減な男とは違って。
相当なことがなければ、リュッグがシャルーアとこれほど遠く離れていることは考えにくい事態だ。
ザムは、彼のポリシーには反するものの、その理由次第では今度は本気でシャルーアを今宵、ベッドの中で慰めてやろうとすら考える。
「リュッグ様は、シャルーア様の今後のことを見据え、あえて遠くアイアオネの町へのお使いをお任せになられたのですわ」
「いつまでも過保護にあれこれ面倒みていては成長できない、という事ですな。可愛い子には旅をさせよ、と」
ルイファーンとハヌラトムの話を聞いても、へぇー? とザムのあげた感嘆の声には疑問符がついていた。
あのリュッグが、そんな厳しく成長を促すような判断をしたというのが信じられない。
常々一緒にいる相手ではないものの、同業者として年単位で面識はある。まだまだシャルーア達に比べれば、ザムの方がまだリュッグの事をよく知っている方だろう。
だからこそにわかに信じがたかった。
「あのリュッグの旦那がねー……。それにしても、アイアオネまでたぁ、また遠いお使いだな。しかもこのご時世にさ―――」
そこまで言って、ザムはおや?と思う。
そう、今のご時世は傭兵ですら町と町の間を行き来するのを
少なくとも、シャルーア達4人はそんな中をこのワル・ジューアまで来たことになる。
「(……道中は護衛を雇ったか? いや……あっちの鎧のオッサン―――たぶん今までの言動やらからして、そっちの嬢ちゃんの私兵か何かだろう。それかこっちの黒いのか……どっちか、あるいは両方ともが相当に腕がたちやがるのか?)」
それならばこの治安厳しい時代にはるばる遠出して来れたのも納得できる。が、ザムとて傭兵の端くれだ。彼の経験と人の目利きから言って、どうしてもハヌラトムとマンハタは、それなりにはやれるだろうがたった2人でこの女の子たちを守りながら旅して来れるほど強者であるとは思い難かった。
「(おいおい、なんかヘンな事情があるんじゃあないだろうな? 本当はリュッグの旦那の目を盗んで、シャルーアちゃんやらそっちの嬢ちゃんをコイツらが連れ出したーとかよ?)」
ルイファーンもお嬢様育ちなのは明らかだが、それに輪をかけて危ういのがシャルーアだ。この娘が求められれば誰にでもホイホイ応じてしまう、受け入れてしまう女の子であるのはザムも知っている。
言葉巧みに攫われてきて、本人たちはその自覚がないとか、ついそういう事も疑いはじめてしまう。
「……よっし、ならこっからはオレも一緒にアイアオネまで行ってやろう」
「な!?」
マンハタが完全にブチ切れる寸前の反応を見せる。だがそんなものは知ったことじゃないとばかりに、ザムはシャルーアに半身をのしかからせるように密着した。
「道中危ない世の中だ、人数は多い方が安心ってね。大丈夫、シャルーアちゃんはこのお兄さんが守ってやるから、な?」
「はぁ……ですが、護衛の報酬はお支払いできるかどうか……ハヌラトムさん、いかがでしょうか??」
基本的に4人の財布はハヌラトムが把握している。
シャルーアとお嬢様育ちのルイファーンは、まだお金の数え方や物の価値について危うく、マンハタは機動力のある戦闘をする分、荷物を軽くした方が良いということで、現状の路銀などを細かくチェックしてくれているのだが……
「うーん、帰りの路銀を考えますと、さすがに傭兵の方をお雇いするほどの余裕はないかと思いますね」
ザムという人間が気に入らないとかではなく、真面目に財布の中身的に難色を示すハヌラトム。
しかしザムは―――
「それなら大丈夫さ。オレはしばらく無賃でいいくらい、デカい山を一当てしたばかりなんでね。今回の護衛仕事は知り合いサービスってことでタダでいいから。んじゃ各々がた、よろしくーぅ♪」
こうしてシャルーア達にザムが加わる事となり、翌日5人でワル・ジューアの町を出発する事と相成ったのだった。
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