第405話 愚鈍なる渦中にて手柄を示すべからず




 カッジーラ一味のコヒヨウ達7人を捕えたことは、かなりの手柄となる。何せ王国の正規軍たる治安維持隊でさえいまだ1人として捕縛できずにいるのだから。


「さらに情報もある程度引き出せた。これは大きいな」

 7人もの捕縛において、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人らの貢献はデカい。

 特にアンシージャムンとエルアトゥフはシャルーアと協力し、それぞれ宿の部屋と馬車の荷台にてやってきたコヒヨウ達を誘引。

 そしてリュッグとハヌラトムの指導を受けたザーイムン、ムシュラフュン、ルッタハーズィらが、教え通りに連中の身を傷つけることなくキレーに拘束。


 彼らのことをファルメジア王に紹介するに辺り、ポジティブな手土産が出来たと言える。



「人間は、何かと面倒……」

「そう言ってくれるな、ルッタ。その面倒と引き換えに発展してこれたとも言えるからな。物事は常に利点と欠点を含んでいるもの……欠点を受け入れられないと、利益も得られないもんなんだよ」

 タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の5人は、当初から人懐っこい方で、コミュニケーションには困らなかった。

 が、エル・ゲジャレーヴァでの戦いやこれまでの旅などを経てリュッグは気付く。


「(本当に、人間でいえば精神の方はまだまだ子供な部分があるんだよな、5人とも……)」

 実際、アンシージャムンやエルアトゥフは、10代前半の少女が母親に甘えるような感じでシャルーアに接しているし、ザーイムンも長男としてしっかりしないといけないと気を張ってはいるが、ふとした拍子に可愛らしい子供な一面が垣間見える時がある。

 ルッタハーズィは時々、むずがるというか自分が納得いかない事に駄々をこねる、“なんでなんで!?” な子供感を滲ませる時があるし、ムシュラフュンに至っては、本当は甘えたいしおねだりしたいのを我慢してる子供が、無言のまま袖を引っ張ってアピールする、みたいなことをしてきた事があった。



「(知識も体格も立派だが、まだまだ甘えたい盛りみたいな感じだからな……)」

 もしも自分達がいなかった場合、彼らは一体どうなっていたことか。それこそ未知の危険な妖異として国に討伐対象にされていたかもしれない。


 数多の妖異を討伐してきた傭兵のリュッグからすると、この5人はちょっとだけ不思議な気分にさせられる存在だった。




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「ただいま戻り―――」

「今、戻りましたわー、リュッグさまぁっ」

 ハヌラトムが丁寧に言おうとしたのを遮って、ルイファーンがリュッグに飛びつく。

 もう慣れてはいるものの、仕える身としては勘弁してほしいと、ハヌラトムがため息をいた。


「お嬢様……はしたないですよ。申し訳ありません、リュッグ殿。毎回毎回……」

「はは、まぁ慣れましたので……それで、先方はなんと?」

 ルイファーンはハヌラトムら私兵達と共に、王宮にいる母、ヴァリアスフローラを訪ねた。

 もちろんエスナ家の家督引継ぎの件が本命だが、同時にリュッグらの事をファルメジア王に取り次ぐこともお願いしてもらった。


 アムトゥラミュクムことシャルーアがいる以上、直で王宮に向かっても大丈夫だとは思うものの、カッジーラ一味の問題でピリピリしているところにいきなり行っても、問題が起こりそうな気がしたので、1クッション挟んだ形だ。


「問題ありませんわ。お母様もリュッグ様達が帰ってこられるのを心待ちにしていたとおっしゃってましたし、陛下も、すぐにも王宮に来て頂きたいとおっしゃってましたわ」

 そう言ってルイファーンは胸元から手紙を取り出し、リュッグへと差し出した。


「(毎度思うが……そこにしまっておく意味、あるのか??)」



 おそらくはワザとだろう。リュッグの気を引きたいルイファーンだ、セクシャルアピール攻撃など今に始まったことではない。

 リュッグはそこには特に意識を割く事もなく、手紙を開く。


「……なるほど、な……」

 ルイファーンが聞いてきた話とは違う事が、手紙には書かれてあった。


 どうやら王宮は今、カッジーラ一味による被害を巡って大臣の一部、愚かな連中が責任の押し付け合いをしている状態らしい。


 ファルメジア王がリュッグとシャルーアの帰還を心待ちにしていたのは本当だが、迂遠な言い回しで、今は慎重に参内のタイミングを考える必要があると、王宮へ安易に来ないようにとの含意が、文面から読み取れた。


「直接王宮に乗り込まなくて正解だった。もし、こんな状態の中に捕縛した奴らを連れて行った日には、あまりにも刺激が強すぎてどーなったことやらだな」

 ただでさえシャルーアは、アムトゥラミュクムという神と同一として、王宮では強い存在感ある者となっている。

 そこに王都の治安維持部隊でも手こずっているカッジーラ一味の何人かを手土産に持ち込んだ日には、火に油を注ぐことになりかねなかった。




「これは慎重に考えないといけないか。さて、どうしたものかな……」

「あ、リュッグ様。お母様から言伝がありますわ。確か “ 二人の思い出の場所 ” にいらして欲しい、って言ってましたけれど、もしかして秘密の暗号ですか?」

 うん、ルイファーンもまだまだお子様かもしれないな、とリュッグは微笑ましいものを見る目で、純粋に瞳を輝かせる彼女を見返す。


 二人の思い出の場所―――それはつまり、今、ヴァリアスフローラのお腹にいる子供を作った建物の事だろう。

 王宮から比較的近い位置にあるので、まずはそこに入って様子見、というところなのだろう。

 だが、リュッグはそれなりに大所帯+賊の捕虜付きのこの状態で、王都内の移動をどうしたものかと、少しばかり困った。



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