第十四章
戦場から戻る旅
第391話 焼き潰えし者を報告す
「―――それで結局、魔物化した囚人どもは王国軍に殲滅された、というわけだな?」
「はいっス。割とあっさり終わった感じっスねぇ。魔物化した囚人側からの話だと、もともと連携とか集団行動とか、あんま取れてない感じだったみたいですし、ボスのヒュクロとかいう奴も、人望ぜんぜんなかったみたいっスから」
エル・ゲジャレーヴァにおける戦いが終結した後、状況が落ち着いてから悠々と現地を離れたオーヴュルメスは、何もない砂漠のど真ん中で
「(ホント、神出鬼没っスねぇ。心臓に悪いから止めて欲しいっスよ……)」
別に会うのが嫌なわけではないが、いきなり声をかけられ、気配もなくすぐ
「それで、その後の王国軍の様子は?」
「ああ、はいっス。上手くそっちにも潜りこめたんでバッチリっスよ。えーと、王国側の軍勢は、グラヴァースっつー将軍がトップで、北、東、南から
オーヴュルメスは、その内の北軍に保護されていたので、他の詳細は分からないが、と前置きした上で続けた。
「兵士達の会話を聞くに、どーやらヒュクロとかゆー奴が、残ってた手下を3つに分けて南北東の王国軍にあてたみたいっス。そんで、なんでもボスのヒュクロ自身は少数精鋭で地面掘って包囲を通り抜けて、南の王国軍の後ろ狙いに行ったらしいっスが、そこで―――」
―――
――――――
―――――――――数日前、グラヴァース南軍の後陣。
ジュウウウ……シュー、シューゥウウ……
『グ、グ……ガ、……ク、ガグ……な、ンでスカ……こ、この……耐えがたイ、苦痛ワァ……アッ!?』
熱柱の直撃を受けたヒュクロは、全身を浅く焼かれたような火傷を負っていた。あまりの苦痛に発声が乱れる。
攻撃そのものは別に、強烈な勢いや衝撃があったわけではない。ただただ魔物化した強靭なヒュクロの身をも焼く高熱の
なので、まるで全身を常にハンマーか何かで思いっきり叩かれているかのような痛みと、この上ない不快感が身体の体表面から内に向かって
「……。やはり貴方はもう、完全なる
不意にピタリと舞う動きを止めたシャルーアは、全身から力を抜いて、哀れみ深い表情でヒュクロを眺めた。
『(おかしいでしょう。なぜ、これほどの苦痛を与えられるのですか、こんな小娘ごときがこの私へとっ?? ……くっ、不本意ですが、ここは一度退いて―――)』
シャルーアの不可思議な攻撃に
『! アレはッ……フ……フハハァッ!!』
ヒュクロは全力で跳んだ。
天幕をぶち破り、シャルーアと対峙しているのとはまったく違う方向へと。
その50m先、侍女に急かされるようにして移動中の人物―――他でもない、隠れていた身重のムー。つまりはこの奇襲にて狙っていたヒュクロのターゲットであった。
「っ、エルアトゥフ、
シャルーアの一言を聞いて、耳をピクリと揺らすエルアトゥフ。
「はいっ、かかさまっ!」
それまで対峙していたユーヴァとジムカファなど捨て置き、すぐさま彼女は砂を蹴った。その飛翔速度はヒュクロよりも早い。
出遅れた分を、間違いなく取り戻せる―――が、ユーヴァとジムカファにも意地があった。
『ソウはサセん!』『簡単に浮気デキると思ウなヨ!』
遠ざかりかけたエルアトゥフの下半身に飛びついたジムカファが、全力でしがみつき、その尻肉に
それにユーヴァが続き、相棒が砂の上に落とし、態勢が完全に崩れているエルアトゥフの首に向かって攻撃を繰り出した。
『もらっタ!』
瞬間、シャルーアが刀を投げる。ユーヴァに……ではなく、その刃はエルアトゥフに刺さった。
『ナッ!?』『…ニィ!?』
しかも、そこはそれでよしとばかりに、すぐさまシャルーアはヒュクロとムーの方向に向き直ると両手を合わせ、指を絡ませて握り、そして一気に肩から開いて、胸を張るような動きをとった。
すると、シャルーアの身体が眩しくない、淡い輝きに覆われた。褐色の肌の表面に不可思議な白肌色の紋様が走り、そして全身で夜に燃え盛るかがり火のような輝きを全周囲に押し出し、放出―――後陣全体に、その光の波が走った。
・
・
・
「! む、ムー様!!」
バケモノが迫っていた事に気付いた侍女が、声を上げる。
しかしムーは、慌てることなく振り向いた。
『クハハハア! 隠れてイればヨいものを、迂闊ですネェ!!!』
その喋り方からヒュクロと判断するも、なぜかムーは、不思議な自信があった。
――― 大丈夫 ―――
あと、コンマ数秒後にはそのバケモノの手に落ちるかもという刹那の時。
だがそのバケモノが伸ばした手がムーに触れる直前、さらにその後方から輝きが走り、ヒュクロを追い抜いてムーの全身を包んだ。
ジュッ
『!!?!?! グアァアッ!? な、ナァにィイイーーー!!?? こ、コチらも、コノ……熱サ、グァアアアアッ!!!?』
膨らんだ赤褐色のお腹。
ヒュクロが触れた瞬間、その手に炎が上がる。
それは明確な炎。
シャルーアは、あくまで炎が上がるほどの
「はふぅ、間に合いましたね。
ヒュクロの手に上がった炎はムーに向かうことなく腕をつたい、ヒュクロの全身に回る。
それがただの炎ではないことは明白。どんなにヒュクロが地面を転がろうが、そこらの
ヒュクロという名の堕ちた命が消えるまで、彼の身を燃やし続けた。
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