第347話 孕む陽刃の切れ味
例えば、直刀の剣があるとする。ショートソードやブロードソード、バスタードソードなどを思い浮かべれば分かりやすい。
こうしたタイプの剣は、斬るというよりは叩き切るという攻撃を得意としており、キレイに切断するという事は、実はあまり得意な剣ではない。
だが……
ザンッ!
『グッ、ガッ……な、何ィ?? バカな、オレさまのカラダは剣なんゾ通らナイはず……ッ?!』
「ヒュゥッ、コイツはスゲェ。まるで固いバターでも切り取るみてぇに斬れらぁっ」
アワバはその切れ味に驚きつつも、相対する敵に隙を見せない。
グラヴァース軍の兵士から聞いていた話からすれば、並みの武器では体表に傷をつけるのでさえ一苦労なほど、敵の身体は頑丈らしい。
だがアワバが両手持ちで振るったロングソードは、やや力を強めに入れた一撃で、相手の肉を切りわけ、左肩があと少しで千切れそうなほどのダメージを与えた。
「調子に乗らねぇでくだせぇよ? シャルーアさんから注意された事を忘れちゃ、ダメですぜ、アワバさん」
ハルガンに言われ、分かってると返すアワバ。
残念ながらこの力にはリスクがあった。
―――
――――――
―――――――――
『自分が消耗する?』
返された剣を受け取りながら、アワバはしげしげとその刀身を眺めた。
『はい、意志を込めて振るうことで、剣に宿した力は大きく広がり、刃の部分全体に満ちます。ですがそれには、使い手の気力や体力といったものが必要になるんです』
シャルーア曰く、武器に特殊な力の核となるモノを宿したのだという。
しかし有効に用いるには、武器の使い手の気力でもってソレを広げさせ、体力を燃料にして刀身全体に満ちさせる必要があるのだという。
上手くいけば、武器は瞬間的ながら尋常ならざる陽熱を発し、
『ですから、決して使い過ぎないようにしてください。考えなしに振るい過ぎますと、突然ガクンと力が抜けて集中が出来なくなるなどの症状が出てしまいますので』
―――――――――
――――――
―――
「(……つまりコイツぁ、いつかアムトゥラミュクム様がくれた槍やシミターの、廉価版ってぇトコだな)」
(※「第316話 路地裏での残業手当は太陽の刃」参照)
あの時は、人間に化けていたバケモノを滅するのに必要な力を武器に宿したって感じだった。
だが今回シャルーアが用意してくれたモノは、敵に対して有効ではあるものの、そこまでの完成度を感じない。
「(さしずめ炉で熱されたが、形状も耐久も保ったままの武器、ってぇトコか)」
もし武器に高熱を持たせたまま振るう事ができたなら、あるいは叩き切る用途の剣にも “ 焼き切る ” という威力を持たせ、敵を切り裂く力が増すだろう。
しかしそんな事は不可能―――それを可能にしたのがコレだと、アワバは認識する。
『グウウッ! オレは、オレは最強の生物にナッたンダァアアッ!!!』
「うるせーぜっ、バケモノめ!」
「醜い……とっととこの世から失せるんだな」
ドシュッ! ドズガッ!!!
デッボアとイリージンが、激昂してメチャクチャに襲い掛からんとする敵にトドメを刺す。
彼らの武器は普通だが、アワバが切り開いた傷口から内部を狙うことで、容易に倒すことができた。
「グラヴァース軍の掴んだ前情報通りだな、下っ端は
「「アワバさん!?」」
言葉がつまり、フラつくアワバ。ロングソードを砂漠に突き立てて杖代わりにすることで、ようやく倒れるのを防ぐ。
「あ、ああ……大丈夫だ。なるほどな、確かにコイツは、生半可なモンじゃあ使えそうにねぇな」
敵に対して効果的―――だが、シャルーアは限られた者の武器にしか、この力を与えなかった。
その理由は、並みの人間の気力体力では一振りとて持たない可能性があるからだ。
アワバにしてもシャルーアは当初、彼の武器に力を付与することを迷っていたくらいだ。おそらくはリュッグ級の気力体力の持ち主が最低ラインなのだろう。
だがアワバは耐えた。意識を喪失することなく、ヒザを地面につけることなく。
それは一種の自信が付く瞬間だった。さすがにメサイヤ級とは言えなくとも少なくとも自分は、そこらの人間よりかは気力体力があるのだと……この武器を何とか扱える領域にいるのだ、と。
「とはいえだ、コイツが敵に対して有効だって事はコレで確認できた……今日はまだ小競り合いだ。お前ら、ほどほどにいなすぜ」
「「「へいっ」」」
メサイヤが連れて来た一家約500名。それを今、メサイヤの指示でアワバが預かっている。
今日は本格戦闘の前の前哨戦だ。まだ
いま出撃しているのはアワバ率いるメサイヤ一家とグラヴァース軍2000ほどと、明らかに
敵も様子見の仕掛けとしか思わないだろう。事実、敵側もエル・ゲジャレーヴァから迎撃に出てきたのは200~300程度だ。
とはいえ、後日のメサイヤ達の本格的な戦闘を前に、1匹でも敵を減らしておくことも重要。
アワバは程よく指揮をとりつつ、シャルーアから授かった力の用いる感触を確かめるように、自身も敵と対峙していった。
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