第340話 お仕事…? ― 子供達と一緒.その2 ―



 そして、ルッタハーズィも……


 バサッ


「……、俺……、……生きてきて、良かった……」

 家から出て来るなり、空を仰いで感涙の涙を流しながら拳を握った。


「それでは、ようやく私の番です、行ってまいります皆さん」

 丁寧にお辞儀をしながらエルアトゥフが家の中へと入っていく。それと入れ替わるようにして、ルッタハーズィは一同の前まで移動してきた。




―― やはり他の兄弟たち同様に灰色をベースとした肌の色で、彼の場合は日に焼けたガテン系の日焼け肌の、陽光が当たってしらずんでいる部分が、全身の肌の色になっているかのよう。

 薄焦げと灰色を混ぜた色が、輝きをまとっているとでも形容すべきか。


―― 髪の色はシックな黄土色。金髪に焼き灰を混ぜて余計な艶や強すぎる色味を抑えたような感じだ。明るい髪色は、肌の色とのコントラストもあって互いによくえさせている。


―― 兄弟随一の体躯は、さらに少し大きくなり、一番の巨躯の座をキープ。ただ大きくなっただけでなく、やはり兄達同様、筋骨隆々なその肉体美のクォリティも上がっている。

 だがルッタハーズィの場合、どちらかといえば鍛え上げたマッチョな雰囲気よりも、現場で働くガテン系大男の、健康美といった雰囲気が漂っていた。





「なんというか、凄いな。色々と……」

 これまでの傾向を見るに4人とも元に比べて生物として進化、あるいは強化されたという印象を受ける。


 だが、一番の差はその雰囲気だ。


 以前までは確かにあった “ ああ、元はやはりヨゥイなんだな…… ” と思える部分が全て消え去り、本当にそういう肌や髪色の人間になったかのよう。


「もしかして…… ″ 種の壁を越える ” ってつまり、人間にするっていう事なのかな」

 ミュクルルは、ことを始める前にシャルーアが言っていた言葉の意味をそう解釈した。

 だがリュッグはそれには少し懐疑的だ。なぜなら見た目に変化は生じ、確かに人間らしくはなった。

 だがむしろ、彼らが元から持っていた生まれ持った能力はそのまま強化されているように思える―――つまり、タッカ・ミミクルィゾン真似をする怪人の桁外れな強さは更に磨きこそかかってこそあれど、人間とは似ても似つかぬ力を持ったままなのだ。




「なぁ、結局は中で何をしたんだ? 正直ちょっと、この短時間でかなりの変化を起こしてるように思うんだが……4人とも、体調とかは平気なのか?」

 急激な変貌による健康状態が気になり、リュッグは一番近くにいたアンシージャムンに問いかけた。


「うん、ぜんっぜんヘーキ。むしろメッチャクチャ調子いいくらい!」

 そう言って彼女は、両腕で何もないところを殴る素振りをする。が―――


   ……ビュビュフォッ!!


 ―――パンチが見えない。そしてかなり時間差で空を割いたような強い音がこだました。


「(おいおい……今のは……)」

 衝撃が空気をかきわける音よりも、両腕のスピードの方が速かったということ。

 彼らの本気の実力を見た事はないが、戯れに行った素振りでさえコレという事は、確実に以前よりもその強さも増していると判断できる。


 いかに人に近しい生命になったとしても、元は妖異。リュッグは乾いた笑みを浮かべると同時に、どうしても不安に思ってしまう。




 ……と、その時


『ぁあああああああ~~~ッ、かか、さまぁ~~ッ!! すきっ、すきぃい~~♪♪』


 中で何をしているのか知っている4人を除いた他全員が、思わずギョッとする。

 今までで一番の奇声……というか、色っぽい声がオアシスにこだました。



「……。……で、中で何をしてるんだ? いい加減、気になってきたんだが」

 茫然としてしまった自分を奮い立たせ、果敢に問うリュッグに、説明しようとばかりにムシャラフュンが軽く咳払いを1ついた。


「とても簡単。……抱擁ほうよう。ただ、それだけだ」

「抱擁? それにしちゃ、皆随分と凄い声をあげてたな」

 その質問に、今度はザーイムンが答える。


「ママが全身で抱いてくれるんです。頭の先から足の爪先までこれでもかってくらいに、俺達の身体と絡ませて」

 さらにルッタハーズィがその続けた。


「母、とても熱い。その熱が、俺達の身体に浸透、そして―――」

「キ・ス! これがもー、すごくって……キャーッ♪♪」

 最後にアンシージャムンがそう説明を締めくくる。


 具体性に欠け、兵士達やアワバらは若干引き気味に、分かったような分からないような顔をしていたが、リュッグだけは何となく分かったような気がした。




「(最後のキスは分からないが、抱擁、そして熱い……―――それはたぶん、シャルーアに宿る力なんだろうな)」

 抱擁と熱いというワードのおかげで、鮮明に思い出されるは、アズドゥッハとの戦いの時のことだ。

 (※「第27話 死に様は三竜三様 ― アズドゥッハ.その3 ―」

   「第28話 灼熱」など参照)


 あの時は単純に、危機に瀕してシャルーアの特異な能力が敵を焼いたのかと考えた。だが、熱くこそあったものの彼女の身体はアズドゥッハのように、触れたリュッグ達の手を焼き尽くしはしなかった。


 そしてそれからの事を踏まえても、おそらくその熱の正体はあのアムトゥラミュクムの持つ力と同じで、おそらく善悪を区別し、悪は焼き滅ぼされ、善には一種の活力エネルギーのようなものとして作用するのではないか?

 しかしそれはあまりに強すぎるもので、常人の人間如きではおそらく耐えられず、焼かれるような熱さしか感じないのだろう。


「(……だが、この5人は違う。人間よりも強靭な生命力と身体能力を持っていたヨゥイだ。そして、成長と進化を重ね、その性質は善に傾いている―――そんな今なら、” シャルーアの熱 ” に焼き滅ぼされる事なく、耐えられ、そしてそのエネルギーを受け……進化した。生まれ持った生命の種の限界を越えた、と)」

 リュッグは、己の推測でしかないとはいえ、この考えはかなり正解に近しいのではと自信を持つ。




 パサ……


 と、まるでリュッグの思考を待っていたかのようなタイミングで、家の入口から二つの影が出てきた。



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