神様はりもーとがお得意

第311話 所望するは愛の実




 さらに数日後、大臣のテムジンが王に呪いをかけていた罪でお縄となり、アワバ達が突き止めた、呪術師がかこわれている建物の捜索が行われ、無理矢理に呪術を行使させられ続けていたデノの村の呪術師が保護された。


「そ、それでっ、バクラおじさんはっ??」

 呪術師の名はバクラ。デノから見て父親の兄弟の孫にあたり、幼少期から村の祭事のため村に伝わる呪術を修得した人物だ。


「無事だそうだ、事情を聴いておるゆえ、悪いようにはせぬ、安心しなさい」

 ファルメジア王の言葉に、軽く取り乱していたデノは落ち着いていく。





 テムジンはこのバクラを始め、彼の呪術の補佐として自分の息のかかった家来にまで呪術を教えさせ、王へ呪いをかけるだけでなく、様々なたくらみに呪術を利用せんとしていた。

 しかしバクラの呪術はそもそも、村のために豊穣と雨乞いを行うだけのもので、他人を特定の効果でもって呪うには知識も力も不足していた。


 ところが……


「……ローブを着た男・・・・・・・?」

「ええ……テムジン元大臣が自供したの。客として訪れたその男に、呪う方法を聞いたのだそうですわ」

 ヴァリアスフローラは甲斐甲斐しくリュッグに報告する。すっかりリュッグの家来同然の従順っぷりだ。


「(まさかバラギ殿が? ……いや、魔術と呪術は異なると、アムトゥラミュクム様も言っていた。しかし……)」

 これまでの旅を振り返った時、たびたびローブを着用した男が出て来るなと、リュッグは少し奇異に感じる。


「……リュッグ様、何かお心当たりが?」

「いや、ローブを着ていたというだけでは身元は手繰れそうにないな、と思っただけだ。探せばそんな輩はいくらでもいるだろうし、そのローブにしても特定しうる決め手にはなりそうにない……他には?」

「アワバさん達の突き止めた呪術に関係していたと思われる場所は、陛下の命で今調査中だそうですから、何か出て来るにしろまだ少し先の事になりそうです」

「そうか、まぁ呪いに関してはとりあえずと言うところだが……やれやれ、どこの国のトップ周辺は似たような奴が多い……」

 どうしてそこまで地位や権力を欲するのか、リュッグには理解できない。

 ヤバいことに手を出してまで求めるようなことなのか……深いため息をつくとともに、彼は自分の頭を片手でガリガリとかきむしり、軽く左右に振って思考を一度リセットした。


「それよりもヴァリアスフローラ、お前はそろそろ帰らないといけないんじゃないのか? マサウラームまではかなりあるだろう」

 この王都、ア・ルシャラヴェーラから直線距離でも300km程は離れている。お腹が大きくなってからの旅路には当然長すぎる道のりだ。


 しかしヴァリアスフローラは、クスッと微笑むと女の顔を浮かべながらリュッグに寄り添い引っ付く。


「少し前に帰省した際、こちらで産むとジマルディーには言ってありますから心配無用ですわ。ウフフ……」

「お、おいおい」

「それに、ますます道中が危険なっていますから、むしろ帰省する方が危険ではなくて?」

 確かにその通りだ。むしろ昨今の情勢から考えて、先の短い帰省にしても憚るべきだったとも言えるだろう。


「あ、そうそう。その夫よりリュッグ様宛のお手紙を預かっていたのを忘れておりました」

 そう言って胸元から一通の手紙を出してリュッグに渡すと、ヴァリアスフローラは再びくっついては、辺りにハートを飛ばす勢いで甘えだした。


「やれやれ……―――えーと、何々……」

 マサウラーム町長にしてヴァリアスフローラの夫、ジマルディーからの手紙には、北西のエッシナの戦況が芳しくないこと、近々娘のルイファーンも念のため避難の意味を込めて安全な南方へと送り出す気でいる事などが書かれていた。


 要約すると “ まだまだヤバそうだから妻子のことよろしく ” だ。


「―――だ、そうだ。心配してくれる旦那さんがいるんだ、少しは遠慮してくれ」

「ジマルディーはジマルディー、リュッグ様はリュッグ様ですわ」

 まるで後ろめたさを感じていないヴァリアスフローラに呆れながら、向こうは大丈夫なんだろうかと、リュッグは彼の妻よりもジマルディーが心配になった。




  ・


  ・


  ・



 呪いが解消されたといっても、ファルメジア王は元より子宝に恵まれにくい生まれだとアムトゥラミュクムも言っていた。

 しかしながら、これまで妨害していたものがなくなったというのであれば、意欲的に励まんと、気持ちがのるもの。



『―――そうか、良かったではないか。性は生物の根本が営み……よくよく励むに、何ら恥入るモノではない、これからも良しなに頑張るがよい』

「は、はいっ、ありがとうございますアムトゥラミュクムさまっ」

 連日、ファルメジア王の “ お通い ” があった側妃達が、アムトゥラミュクムの元を訪れては丁寧に礼を述べる。

 その全員が、以前よりも陛下がお元気・・・だという、半分惚気のろけ話で構成されている。



「すっかり子宝祈願の請負い場みたいな感じになっちゃったねー」

 ハルマヌークの言う通り、いつものお茶の席はアムトゥラミュクム様による相談所かと言えるような状態になっていた。

 昨晩 “ お通い ” があった側妃がお礼に来れば、今晩に “ お通い ” の予定が入った別の側妃が、お相手の仕方の相談にやってくる……それがここ数日続いていた。


『他人行儀な物言いだがハルマヌークよ、汝が最も通いが多いであろうに。我が顕現したことにより、あのボウヤのシャルーアへの通いの分、丸々汝に向かっておろう?』

「うっ……そ、それはそうなんですけども。いやー、まだその、自分が最適だーって言われてなんかピンと来てないといいますか、あは、あはは……」

 ハルマヌークには夜のアドバイスは必要ない。その道のスペシャリストとも言うべき出身だ。

 しかしながら、一国の王の世継ぎを産むに最適な女と言われたことが、背中がゾワゾワするようなむずがゆさを感じて、なんとも落ち着かない。


『まぁ、そう遠いことではなかろうが、覚悟などいらぬ。くるものはくる、こぬものはこぬ……それは当人の都合などお構いなしなモノであるからのう』

「そうだよねぇ、確かに……。まぁデキたらその時はその時でってことだね」

 幾分か和らいでも、それでもハルマヌークの心には何とも言えない緊張が残る。




 自分なんかが王の子を胎に宿して大丈夫なんだろうか?


 それは不安や恐怖よりも、相手に対する気遣いからくるもの―――ハルマヌークの、無自覚の優しさに、アムトゥラミュクムは軽く微笑みながら茶菓子を口に放り込んだ。



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