第306話 ゴロツキ達、神様にお使いを頼まれる
「まさか……神様にコキ使われる日がくるたぁな」
ハルガンはもはや何でもありだと、半ば投げやり気味に笑った。
「そういうな。むしろアッシは、お嬢が神様だったっていうのが嬉しいぜ。聞いたらメサイヤ親分も喜ぶだろう」
確かにと、アワバの言葉を肯定するように全員が頷く。
まったくの見ず知らずな者が、“ 神 ” だと言ってきたらうっとおしい事この上なかっただろう。
しかし変貌こそしているとはいえ、ちゃんと自分達の事も覚えており、かつ頼りにしてくれたシャルーア―――――アワバ達は、ゴロツキの自分達が神の使いになったと、やや気恥ずかしいながらも不思議な誇りと自信を覚えていた。
「けどさ、“ 呪術 ” って、調べるにしても……誰かアテとか、ある?」
ミュクルルがそう尋ねた瞬間、ゴロツキ達はビクリと小刻みに揺れ、そして制止した。
「問題はそこだよなぁ……。誰かに “ 呪い ” をかけるなんざ、聞いた事ねぇぞ、御伽噺の世界だぜ??」
アーリゾがどうしたらいいのか分からないとお手上げのジェスチャーを取る。
そう、一般的に “ 呪術 ” というものは存在しない。いや、仮に存在していたとしても、後ろ暗い世界を知っているような彼らですら、本当に存在するものとしてウワサすら聞いたことがないモノであった。
「魔術……とは違うのか?? そっちならまだ少しは何とかなるんじゃあねぇ?」
デッボアが他人事のようにのたまうが、皆そのセンであって欲しいと思ってしまう。だがそれならばアムトゥラミュクムは “ 魔術 ” と言ったはずだ。
本人はシャルーアと同一であり、その知識も経験も同じであるので、遥か古代からタイムスリップしてきた存在とかではないため、混同している事はない。
「そうだったらまだアテはあったんだがなぁ……。とはいえだ、似たような世界だと思うからアッシは一度、魔術の詳しいところから知ってる奴がいねぇか当たってみる。お前らは直で “ 呪術 ” について調べてくれや」
――― 夕食時、後宮。
「この後宮に、あのような者達を招くなど……前代未聞の出来事です」
ヴァリアスフローラは気疲れしたと言わんばかりに額を抑えた。
『所詮、人の定めたるしきたりに過ぎぬ。格式、伝統、慣習……何かと言葉を掲げ、そこに何かと価値を持たせたがるは、かつてと何も変わらぬな』
アムトゥラミュクムは楽し気に笑う。
彼女本人が生きていた時代とは、相当に昔のことなのだろう。今とその時の記憶を比べ、変わったところと同じところを見つけては、愉快そうによく声をあげて笑う。
アムトゥラミュクムの発案で、その日の後宮の食堂には側妃達だけでなく、ファルメジア王やヴァリアスフローラ、そして後宮で働く者達まで一同に会し、全員で夕食を共にしていた。
「それでアムトゥラミュクム様、この
『今もその効力は続いておる。ボウヤがいかに励んだとて、並みの娘では胎にその血を継がせられぬであろうな』
ファルメジア王に向けられた瞳が強く輝く。
周囲にいた側妃達はビクリとするが、直後に広がった温かなオーラに触れて、緊張がほぐされた。
「こ、これは……?」
『 ″ 邪気払い ” という異邦の技の
言いながら、アムトゥラミュクムは片腕をあげ、ファルメジア王を指さした。
すると熱さに景色が歪む蜃気楼のように、指先からファルメジア王の周囲の空間が揺らめき出す。
「まぁ……なんと神秘的な……?」
「あら、ですが……陛下の周りだけ少しヘンですね??」
「! 見て、陛下に何かが流れ込んでいるような??」
側妃達がざわめき始める。
ファルメジア王に隣席するハルマヌークも思わず間を離した。避けるというよりもその正体不明瞭なモノの全体を、ハッキリと確かめようと後ろにさがった感じだ。
「こ、これは……?? 何か薄ら青い霧のようなものが?」
蜃気楼に満たされた空間の中、明らかにファルメジア王に向かってどこからか流れ込んできては、その身にまとわりついている青い霧―――それも嫌に暗い雰囲気をまとっており、素人目にも良くないモノであると理解できた。
『見えよう? それが呪い……ボウヤの子宝を封じるべく、肉体が子種の精製をするをさまたげておる。先ほどの ″ 邪気払い ” にもまるで揺らがなんだ。医の治も悪しきエネルギーの払いも意味をなさぬ。おそらくこの
「なんと……ではすぐにも兵を動員し―――」
『人間は学ばぬな、まったく。騒がしく動けば闇は陰に逃げよるもの……ゆえに陰に動くにふさわしき者どもを此度、招いたのであろうに』
アムトゥラミュクムが呆れるようにしながらパチンと指をならす。
すると揺らめいていた空間も青い霧も見えなくなり、平常に戻った。
「! なるほど……それであのアワバと申す者達を」
『世の中とは複雑怪奇なるもの。矮小なる人如きがいくら背伸びをしたところで、通用せぬというモノはどうしようもなく存在し、そして手に余るモノよ。……異邦より伝わりては “ モチはモチ屋 ” という言葉がある。その道に明るい者以上に適任者はおらんとは思わぬか?』
そう言って微笑みを称えるアムトゥラミュクム。
しかし次の瞬間には、目の前の料理を口に放り込み、これは中々美味よなと言いながら平らげていく。
まるで何てこともないかのように、あるいは神がただの女の子に戻ったかのように、迫力はすっかり消え去り、小動物が食事をがっついているような愛玩性のかわいらしさを周囲に振りまきはじめた。
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