第239話 魔物だらけの復路
セダル村に到着した2日後、リュッグとシャルーアはエル・ゲジャレーヴァへの復路の途上にあった。
「いやあ、すみません。同行していただけて本当に助かりますよ。大事な積み荷が多く、どうしても行かねばならないもので……」
元よりエル・ゲジャレーヴァへ戻る予定だったリュッグ達。そこに、南からセダル村に到着し、エル・ゲジャレーヴァを目指す小さな隊商が加わっていた。
「いえ、こちらこそありがたいです。エル・ゲジャレーヴァまでは10キロほどとはいえ、このご時世ですからね。手が多いほど道中の安全が増しますので」
隊商は護衛の傭兵を雇っていたが、セダル村に至るまでの道中で幾人か犠牲になったらしく残り僅か3人……それもかなりの疲労状態にあった。
なのでリュッグ達がエル・ゲジャレーヴァまで同行してくれるのは、隊商側にとってはとてもありがたく、またリュッグ達も高頻度に妖異と遭遇する道を戻るのが少しばかり楽になり、ありがたいことであった。
とはいえ―――――
『ガガヤガギガゲガガーーッ!!!』
「シャルーアっ、ヤツの足元にその棒を投げろ!」
「はいっ」
ザスッ
「よし、いい位置っ! おりゃああ、こんちくしょうめっ!!」
ザンッ!!
その道中は――――――
「あっ」
ガバッ!!
『ギヒーッ♪』
「このっ、可愛い子ちゃんを狙うたぁ、面食いなヨーイめっ」
「シャルーア、その場で回転するんだ、ヨゥイの身体をぶん回すつもりでな!!」
「は、はいっ」
とても楽にとは――――――
ギンッ、ガンァンッ!!
「当たりましたが……刺さりません」
「いや、ナイスだよっ。リュッグさん、そっちお願い!!」
「ああ、分かっている!!」
ドシュドシュッ!!
『グゴガァァァァーーー!!!?』
いかなかった―――――――――――
・
・
・
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……やっぱ、この辺も……かぁ……はぁ、はぁ……」
「分かってたつもりだけど……ひぃ、ふぅ……ひぃ、あー、シャワーあびたーい!」
「もう見えてる……あと、ちょっとだ……はぁ、はー……ふー……」
傭兵3人は、ヘトヘトながらもまだ体力が残っているようで、息を落ち着けたかと思うと、スックと立ち上がる。
まだ若手そうながら、リュッグほどではないにしろ、確かな地力を感じさせた。
「やはり、セダルから南の方も似たような感じでしたか」
リュッグの問いに、3人は顔を見合わせてウンザリした様子を滲ませた。
「ええ、それはもう。距離が長い分、遭遇する回数も多くてヤバかったですよ」
「何とかやれないほどじゃないんですが、とにかくデタラメに遭遇するんです。なのでちょっとでも油断してるところに来られると……」
「我々は10人で組んで護衛仕事を引き受けたんですが、結局残ったのはこの3人だけですからね………、気を緩める暇もないって感じでした」
彼らの語る様子から、相当に壮絶な道のりだったのは容易に想像がつく。リュッグは、やはり王都までの街道は厳しい状態にあると、認識を深めた。
「エル・ゲジャレーヴァまであと少しです、気を緩めずに行くとしましょう」
リュッグの言わんとしていることを、痛いほど分かる3人は力強く頷き返す。
あと1キロもない、遠目に見える目的地。だが、それで緩んでやられた仲間が何人かいたのはまだ記憶に新しい。
「―――……リュッグ様、何か音がします。あちらの方からです」
シャルーアの一言で、そらお出ましだと言わんばかりに全員が臨戦態勢に入る。
「やはり簡単にはいかせてくれないか……シャルーア、馬車を降りたら剣を抜いて構えろ。足元にも注意だ」
「はいっ」
指示を飛ばすと同時に、走る馬車からリュッグとシャルーアが飛び降りる。
3人の傭兵のうち、男一人がリュッグの隣に降り立ち、もう一人の男性と女性の傭兵が馬車上に残る。
隊商の馬車はゆっくりと減速し、やがて止まる。だがいつでも走り出せるよう、商人たちは手綱を握ったまま緊張の面持ちを浮かべていた。
「来る、やはり地中からだ!」
ズバボッ!!
ギュルルルルルッ……
「!!」
シャルーアの足元から、螺旋を描く動きで細い何かが飛び出した。しかしシャルーアは、すぐにその場で高く跳びあがり、背面飛びの要領で伸び上がる螺旋の中から脱した。
「……このヨゥイはあの時の」
覚えがある。かつて中空へと高く吊り上げられてしまったことはさほど古い記憶ではない。
「
傭兵の一人がそう叫んだことで、そういえばそういう名前でしたかと、呑気に思い出すシャルーア。
(※「第16話 お仕事.その2 ― サボテンのち節足 ―」参照)
「……あの時の個体と比べて、長さも太さも2倍はあるな。シャルーア、距離を取れ!」
リュッグはシミターを鞘におさめ、代わりに先が放射状の三股に分れた槍を2本取り出した。
それを見たシャルーアは理解する。リュッグはこの妖異の相手を自分に勤めさせる気だと。
ゆえにシャルーアは、構えていた刀をよりしかと定め、足を半歩より大きく広げて腰を少し落とし、戦闘態勢を取った。
「俺達はバックアップする。……やってみろ」
「はいっ!」
本来なら、まだ任せるには不安が残る。だが、ここでまだムリだと言っているわけにはいかない。
シャルーアには “ 御守りの一族 ” という札がついていて、それがいつ王やその周辺に知られるとも限らない状況が迫りつつある。
スパルタ、背伸び上等でやらせていかなければ……
少しでもたくましく生き抜いていけるようにと、リュッグは今までの自分の甘さをぐっと抑えるつもりで、シャルーアを前に立たせた。
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