第218話 リスクに覆われた一族の秘密
「……リュッグ様、それは……
ルイファーンは珍しく、真面目な顔でリュッグを見返した。
今後について話すリュッグが、シャルーアを王都へ連れて行くことを考えていると言ったからだ。
「リーファさんの懸念はよくわかります。ただ、このままでもマズい……特にシャルーア自身が、自分の力を理解し、
ルイファーンの話とこれまでの事を合わせて、シャルーアが “ 御守りの一族 ” であるというのは、非常に可能性が高い。
だが肝心なことは本人も、そしてその可能性があると言ったルイファーンもよく知らない。
シャルーアが “ 御守りの一族 ” だから特別な 何か を有している―――だが、その特別な何かを自分の意志で理解し、制御し、用いることができないのは危うい。
「シャルーアが今後、どのような人生を歩むにしろ、自身が持っている “ 何か ” を明らかにし、理解させておかなければ、いつかどこかで大きな過ちを犯しかねない……。自分の持つ力を正しく用いるためにも正体をハッキリさせ、学ばせる必要があるのです」
ルイファーンが、政治的なことに巻き込まれる可能性を危惧するのは非常に良く分かる。
もしシャルーアが、北の ” 御守り ” に深く関係ある者だとすれば、下手すると王の名のもとに保護―――という名目の軟禁・監視状態に置かれる可能性もある。
しかし物事というのはままならないもので、危険を遠ざけ安全を優先すると、なかなか手に入れるべきモノや情報というのは手に入らないもの。
実際、ルイファーンがいくら調べても、“ 御守りの一族 ” について分かったことはとても少なく、シャルーアの不可思議な力については何も分からなかった。
こうなると、あと詳しくその辺りのことを知っている人間は、この国では一人しか思い当たらない。
「……難しいかもしれないが、国王陛下に聞くしか方法がない。その後がどうなるかは、色々と可能性はありますが……まぁ最悪、お尋ね者になったとしても、シャルーアの非人道的な扱いをされぬよう、計らう覚悟はしておくつもりです」
リュッグにはシャルーアを保護し、教え、導いてきた責任がある。
少女が1人で立って生きていけるようになるまで、世の中の様々な理不尽から守ることも、保護者としての当然の責務。
加えてリュッグは相応の年齢だ。これでも海千山千の、人生のベテランでもある。その彼が
逆にいえば、仮にシャルーアが王都へと出向くにあたり、その同伴保護者にリュッグ以上の人材は他にいないだろう。
「……はぁ、わかりましたわ。さすが
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とはいえ、方針を決めたといってもすぐに出立するだとか、そういう事ではない。あくまでも王都の王に会いに行くのは一つの目的だが、急ぐ必要はないし、何よりムーが結婚直後で、ドタバタした状態にある。
おそらく現状で出発すれば、普通にムーはついてくる。ムーとナーはそういう姉妹だ。
「な、なるほど……確かにそれは、容易に想像つく展開だ……」
まだ時間は短いとはいえ、夫婦になったグラヴァースだ。
「元々の生まれと壮絶な経験があるだけに、たとえ臨月でもあの二人は平然と魔物と対峙するだろうからな……妊婦として考えるならばナイーブにならず、周りの者の楽に接することが出来るだろうが、違う意味で目が離せないと思う」
リュッグの言葉を聞いて、ボテ腹で窓からトウッと飛び出し、銃を構えては魔物を穿つ―――そんな、あの赤褐色肌のお嫁さまならやりかねない想像がグラヴァースの中で止まらない。
捉えどころのない性格と、何を考えているのか分かりづらい表情。人をからかったり、神出鬼没だったり、それでいて他人の心の機微には敏感で、表には出さない悩みを抱えた兵を見抜いては、その相談に乗ったりもしているという報告を聞いた時は、正直驚いたものだ。
「大人しく安静に―――といってしてくれるタイプではないのは分かっていたつもりだが……あらためて聞くと、想像以上だ」
苦笑するしかない。おそらく自分のお嫁様は誰にも、そしていかなる状況にも縛られないタイプだ。
しかも、それを貫き通せるだけの人生経験と技量があるときている。
元一国の姫とはいえ、蝶よ花よと育てられた深窓の御令嬢など比較対象にもならない。
その中学生にしか見えない若々しい容姿には、想像を超えた生きる事へのパワーが詰まっているのだろう。
「それでなんですが、とりあえずしばらく我々は、このエル・ゲジャレーヴァ近辺で活動しようかと思っています。ムーのお腹が大きくなってきた頃合に、王都へと向かおうかと思っているのですが……」
リュッグの方針は非常に納得いくものだった。
ムーは、何を言っても好き勝手するだろう。だがさすがにお産を控えるレベルにお腹が大きくなってきたなら、出産・子育てで1年前後は活動を慎まなければならない。
リュッグ達がエル・ゲジャレーヴァをつつがなく離れる頃合としてはベスト。
だがグラヴァースは、リュッグの今後の活動を聞くたびにうんうん頷き返しはするものの、おそらく自分にも何か助力を求めたいのだろうと察し、リュッグの話を静かに聞き続ける姿勢を崩さなかった。
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