第185話 追走はじめる大人達
一通り話を聞いたオキューヌは、少し考えながら頭をかいた。
「あー、もしかしないでも関係してる可能性、高まったわコレ」
「何か事件でもあったのか?」
「いや、事件ってほどのこともないんだけど、ザブン・ケイパーに向かう街道の途中からちょっと外れたところで、大量の炭と灰が見つかったのよ。それの調査をしてたんだけど……どう考えても砂漠の真ん中にそんなものが突然あるのは不自然だしさ、その炭と灰もなんてこともなくフツーのものでねー」
なんてことのないものが、あるのが不自然な場所に大量にある。気味が悪い話だ。
「商人とかが運んで、迷って落としたーとかじゃなくー?」
「それならその痕跡があるよ。まっさらな灰と炭、それも馬車で運ぶには多すぎる量があるだけで、他にはなーんにもなしさ。まっさらな砂の中に黒と灰色の粉がどっさり……ってね」
奇妙というだけで何の変哲もないものに過敏になるのは、魔物が活性化している昨今の情勢ゆえだ。
奇妙の正体が魔物由来であったら、今後なにかしらの大きな問題につながる可能性があるので、辺り一帯を守護する役目にあるオキューヌには放置できない問題となる。
「……灰、……炭……。……ナー、昔、そういうの……いなかった?」
「んー? 昔……? ……、……ぁっ、そういえばいたかも。アレだよねお姉ちゃん? あのほら、えーとなんかヘンなヨゥイ」
「なんだい、何か心当たりがあるのかい??」
藁をもつかみたいとオキューヌがその身を双子に向かって乗り出す。
「名は、わからない……小さな亜人のヨゥイ、倒した時、炭と灰……なった」
「そーそー。今でもアレは謎なんだよねー、死体が1ミリも残らないでさ。崩れたかと思ったらぜーんぶ炭と灰だけになっちゃってて。結局あれっきりで、おんなじようなのにずっと出くわさなかったから、もうすっかり忘れちゃってたよー」
双子の話を聞いたオキューヌは、なるほどと頷く。
「つまり、魔物の死骸がただの炭と灰になったモノ……っていう可能性、か。ちなみにその時どれくらいの量だったかは覚えてる?」
「うーんとねー、このテーブルの上にのっけて、平にならしたら厚さ1~2cmくらいはあるかなって程度?」
「うん、……それぐらい。小さかった」
するとオキューヌの顔が一転して険しくなった。
「その話が今回にも当てはまるとしたら、正直勘弁してほしいね。あの量からしたら、元はかなり巨大な魔物ってことになっちまうよ……」
「炭と灰は、そんなに量があったのか?」
「ああ、もしアレが何かの魔物の成れの果てっていうんなら、生きてた時には5m以上はある大物確実だろーね。そんなモノが他にもゴロゴロいたりしてくれた日にゃ、こっちはますます忙しくなっちまうよ」
オキューヌは少しオーバーと思えるくらいに深く大きなため息を、あからさまに吐いてみせた。
「もしそんなヨゥイがいるとしたらさすがにシャルーアが危ないな……早いところ見つけたいところだが……」
「砂漠を横断するかい? リュッグの考え通りならこの印の辺りに留まっているか、東に抜けている可能性が高いんだろう?」
「ああ、出来るならそうしたいが……そんな大物がいる可能性があるのならば、しっかり準備していかないと、逆にこっちが遭難しかねん」
だがそれでも横断が一番現実的な気がする。
リュッグは確認を取るようにムーとナーを見る。二人は視線に対して、それで構わないと頷き返した。
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「なるほど。確かにこれがヨゥイの死骸だとしたら相当デカいな」
実際に現場にやってきたリュッグ達は、軽く視線をあげるくらいには積もっている、目の前の炭と灰の山に感嘆する。
「砂漠の砂の色と対比してて、なんかキレーだねー」
「うん……あの時も、こんな、だった。でも量……ケタ違い」
周囲には兵士たちが何をどう調査したものかと困惑している。そこにオキューヌが指示を飛ばしていたが、やがてこっちに戻って来た。
「よし、これでいい。じゃあ行こうか」
「本当にいいのか? ワッディ・クィルスから大きく離れすぎる事になるぞ??」
リュッグ達は、シャルーアが流された先と思われる砂漠地帯を東から西へと横断することにしたのだが、そこにオキューヌもついてくるといい出したのだ。
もちろん他に、彼女の護衛にと数人の兵士もついてくることになったが、何せルートは何もない砂漠を横切るというもの。
距離と、魔物に襲われる危険を考えれば軽率に国の守護をあずかる将の1人が同行すべき道のりではない。
だがオキューヌにとっては、むしろリュッグ達に同行することは渡りに船だった。
「なに、ここんところ魔物どものせいで各地の連絡が上手くいかなくってね。特に西側の “ 護将 ” たちとの連絡はかなり途切れ途切れなんだよ。一度出向いて直で話し込まなきゃなって思ってたとこなのさ。ジウの動きから目が離せない今、ウチの兵はあまり動かせないし、時間かけて使いっぱしりに出したとしても、伝言や手紙だけじゃあ伝わらないこともある。いい機会なんだよ」
この奔放な上司の部下の苦労がしのばれると、リュッグ達が苦笑すると、同行する後ろの兵士も、ウチの上司がご迷惑おかけしますと言わんばかりに乾いた笑いをあげる。
そんなこんなでリュッグ達は砂漠地帯へと出発した。
定めた道のりは砂漠地帯を抜けて西の大街道へ―――奇しくもそのルートは、シャルーアがエル・ゲジャレーヴァへと到達するまでのものに酷似していた。
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