第172話 それでも保護者達は探し続ける



 1ヵ月以上。それはリュッグ達にとっても長い時間だった。




「この辺でもない……か。捜索範囲が広いと、やはり時間もかかるし難しいな」

砂大流の地獄グランフロニューナ自体……なかなか、ない」

「前例が少なすぎるもんね。なもんで対策も傾向もわかんないし、だいたい生還者って自力で帰ってきてるし」

 その長い時間で回れたそれっぽい場所はたった3か所だけ。

 何せ魔物の脅威が活発化してる世の中だ、二人の移動先と思われる候補地をある程度まで絞れはしても、その候補地を巡る移動も簡単ではない。




 それに候補地に到着しても現地は広大な砂漠。捜索には数日を要するので移動も含め、1箇所につきどうしても1週間はかかってしまう。


「ゴウーゴン、やきもきしてる、きっと」

「あははは、それ言えてるー! 帰らないといけないって時のあの悶え悩む様子、大爆笑ものだったよねー」

 さすがに長居し過ぎたと、ゴウは捜索の途中で郷里に帰らねばならなくなった。

 断腸の思いでリュッグ達と別れたが、シャルーアが発見できたら手紙をよこすようにと、発送先をわざわざ書いたメモをリュッグに手渡した(押し付けた)ほどだ。その心配の度合いは相当だが、リュッグは比較的ドライだった。



「まぁ大丈夫だと思うが、不測の事態は付きもの。俺達も万が一の覚悟はしておかないとな」

 砂大流の地獄グランフロニューナの移動先が安全な状態になるのは知っているが、それがいつまで続くかは学者や研究者によって意見が違っている。

 おっかない仮説も多々あるが、真相のほどは残念ながらリュッグも知らない。


 ただ、過去の例から2週間以内に脱する方法を考えないといけない―――と教えてはおいた。

 もしそれを忘れていないのであれば、1カ月を過ぎた今だとすでにどこかの町や村に身を寄せてるなんてこともあるかもしれない。


「(その場合だと、シャルーアは傭兵ギルドで連絡の出し方を知っているはずだから、時間はかかっても安否確認はいずれ取れる。だが、まだどこの町や村にも辿り着けていないのであれば、そろそろ危ないのも事実だな)」

 砂大流の地獄グランフロニューナの事だけではない。単純に砂漠は人間が生きていくには厳しい環境だ。


 食糧や水がもつ状態にあるかどうか。

 昼と夜の寒暖に耐える備えがあるかどうか。

 魔物や危険に遭遇せずとも、飢えや熱射・熱中、凍死などなど……野垂れ死ぬ危険など様々ある。


 もちろんリュッグは、一人でもこの砂漠で生き抜く知恵をこれまで事ある事に色々と教えてきた。シャルーアならそれをよく覚えていることだろう。


「(だが彼女も人間だからな、教えたこと全てを覚え、常に記憶の引き出しから必要な状況に必要なものを出せるとは限らんし、やはり少しは急いだほうがいいか)」

 幸い、ルイファーンはさすがに広域を移動して巡らなければならない捜索では、自分は邪魔になるのは弁えていたので、早々と自宅に帰ってくれたので、今のリュッグ達の足は軽い。長距離移動が必要でもそれなりのペースで動ける。


 リュッグは地図を広げた。


 候補地の場所として図上に入ってるチェックを流し見ながら、何かを思案する。




「? どーした、リュッグ?」

「仮に、だ。水も食糧も問題ないとしてどこかの町や村を目指すことにする。しかし周囲はどこまでも続く砂漠で、目印になるものは地平線の彼方までも見当たらない―――そんな状況にあったら、二人ならどの方角を目指す?」

 リュッグの質問に、ムーとナーの双子はお互いに顔を見合わせ、そして考え始めた。


「うーん、目印になるのがなーんにもないっていうのがネックだよねぇ……」

「ん。最悪、衣食住そろってる、なら彷徨える……しばらく。でも、あてずっぽう……ダメ」

 リュッグは、シャルーア達が既に移動している可能性を考えていた。何もないただっぴろい砂漠のど真ん中でせいを繋ぎ続けるには、もう時間が経ちすぎている。

 なら、すでに移動を開始していてどこかの町や村または、そこに至るまでの導線上のどこかにいる―――そのセンで居場所を推測しようとしていた。


「(途中で確実な飲料・食料の補給は見込めない。道中、魔物に遭遇する危険性も出てくる。自然、選ぶルートは可能な限り最短。しかし地図があっても、シャルーア達自身、今どこらへんにいるかが分からないはずだ。その上で目指すべき方角を定めるとしたら……)」


「昔……私達、とにかく北、向かった」

「でもお姉ちゃん、あれは1歩でも遠くまで離れたかったからだよ? 少しでも安全で安心できそうなところ・・・・・・・・・・に、ってひたすら歩いたけど、あの時の私達とまた状況が違うでしょ、シャルーアちゃん達の場合」

「(……安心、できそうなところ?)―――そうかっ!」

 リュッグは改めて地図を覗き込んだ。



「えーなになに? 何か分かったのー??」

「ああ、考えてみればなるほどだ。シャルーア達は地図を持っていたとしても、現在地は把握できない。だから普通に考えれば方角を決めるどころか目標にすべき場所も分らない状態だ。当然、町や村ある方角なんてわかりっこない」

「ん、その通り……じゃ、移動……してない?」

 だがリュッグは首を横に振った。


「いや、現在地が分からなくとも、どの方角にいけば町や村にたどり着けるかもわからないにしても行先として選べる場所があるんだ。それが……この2か所だ」

 そう言って指し示した場所をムーとナーは覗き込み、小さな驚きと共に理解の表情を浮かべた。


「東西の、……大街道」

「そっか。この2本の道って、国境に比較的近いとこを南北に走ってるし、そのことだけ知ってれば……じゃあ、シャルーアちゃん達は連れ去られたトコから、西か東に向かって移動してる、ってことー?」

 この国の地図が大まかにでも頭にあれば、目標とするものが遥か遠くにあったとしても、その東西に向かい続ければ、いずれは大街道にたどり着ける。


「ああ、たぶんな。だがそれだけで行先を決めるのはやや現実味に欠ける。だからもう少しよく考えたはずだ。周りに何もないこと、どこまでも広がる砂漠―――この国でそういった条件に合いそうな場所はどこか? それを自分達である程度絞り込んだ上で、なるべく短い距離で街道に達するには? そこまで考えたのだとしたら二人の居場所は……この辺かこの辺か、あるいはこの辺だろうな」

 リュッグは新たに、候補となる地域を円で囲むように地図へと書き足した。


「だいぶ、絞れた……でも、まだ3箇所……」

「それでどこからあたるー?」

 何せこれまでも1ヵ月近くかけて3か所にか探せいないのだ。今絞った3か所全てをまわることになれば、さらに時間がかかる。


 できれば1発でアタリを引き当てるべきだ。その上でリュッグは3か所の位置とこれまでの情報、そしてシャルーアの性格などを勘案し、最もいる確率の高い場所はどこかを導き出した。




「そうだな、諸々から考えて一番可能性がありそうなのは――――――」




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