第167話 真っ新な世界の彼方を探して
―――砂漠遭難18日目、昼15:00頃。
「ふう、だいぶ遠くまで来たな。今まで差した旗がなけりゃ、オアシスに帰れる自身がないぞこりゃ」
ジャッカルは真面目にほぼ毎日、オアシスの周囲に出ては線を引き、旗を指すことを続けていた。
シャルーアとの生活に不満はないがやはり食糧の事を考えると、いつまでもこの状況に甘んじているのは問題だ。
最低でもどこかの方角に村か町があることを確認しておかないと、安心できない。いよいよ食糧がヤバイとなってから急に慌てても遅い。
一生このまま小さなオアシスで暮らしていくには、周囲がほとんど砂ばかりの砂漠というのは、食糧を賄い続けるのが厳しいので、まず不可能だ。
「(1日にだいたい300mから500mの間隔でより遠くへと来たわけだが……)」
改めて今いる位置から周囲を見渡す。
自分がやってきた西方向を見る。オアシスのある砂丘は見えないほど遠くだ。
北方向、地平線まで砂ばかり。山などの影も見えない。
南方向、北に同じ。
東方向、南に同じ。
「(オアシスから4~5kmは離れたはずなのに、まだどこにも何も見えない……これは本格的にヤバいか、もしかして?)」
こんなにも周囲に何も見えないとなると、相当にただっぴろい砂漠のど真ん中ということになる。普通の旅支度であったら、オアシスがあっても野垂れ死に確定コース。
シャルーアというパートナーと、馬車と積み荷という物資があるからこそ、ジャッカルたちはまだこうして生きていられるが、何か手を打ち始めなければやはり野垂れ死にの運命にたどり着いてしまう。
ジャッカルは今後の事を思案しながら、今日の仕事はおしまいとばかりにオアシスへと戻っていった。
―――砂漠遭難19日目、夜19:00頃。
「移動してみる……ですか?」
夕食直後に早々とひと励みした後の荷台の毛布の中、シャルーアはジャッカルの提案に首をかしげた。
「ああ、そろそろ徒歩じゃ距離が限界だ。それに馬車を走らせて、大きく移動してみて、どこかに町か村の影でも見つけないと、食糧面とかもそろそろ不安になってくるだろ?」
確かにと、シャルーアは思う。
荷馬車に積んでいた食糧も、節約してはいるが日に日に目減りしていく。時々オアシス周辺に出る蛇なんかを捕獲したり、砂漠固有の食べられる植物を見つけては足しにしているが、それでも馬車に積んでる食糧をすべて消費し尽くしてしまったらその後、十分に賄えるとは言い難い。
一度、大きく行動して何か今後のためになるものを見つける必要はあるだろう。
それに、シャルーアは何か引っかかっていた。それはリュッグの教えによるところなのだが……。
「(そういえば、
しかしシャルーアとて常に全てを理解できているわけがない。完璧に教えを覚えきっているという事はさすがにない。
そして思い出そうとしている彼女に、ジャッカルが再始動して二人の時間へと突入してしまったために、ついぞその教えを思い出すことができなかった。
―――砂漠遭難20日目、朝6:00頃。
「よーし、準備はいいよな? オアシスから水も十分汲んだ、荷物も問題なし。念のため、オアシスの砂丘の一番上に旗もしっかり差しておいた。これで迷わずにここに帰って来れる」
「はい、お馬さんも体調は良さそうです」
『ブルルッ、ヒヒーン』
出発の準備は万端。ジャッカルとお互いに頷き合うと、シャルーアは手綱を取って馬車を走らせ始めた。
「それで……いかがいたしましょう? どの方角へと向かいますか??」
何せ全方位すべてが、地平線までずっと砂漠だ。目印になりそうなモノは、毎日のようにジャッカルがあちこちに描いた地面の線と旗のみ。
「問題はそこだなー。俺達があの宮殿の裏口からのルート途上から、どの方角にさらわれてきたかだけでも分かってれば、まだいいんだけど……」
これまで線をかき、旗を差してきたジャッカルの感覚では、おそらくオアシスから半径10km以内はすべて砂漠であると見る。なので町や村、あるいは街道なりがあるとしたら最短でも距離は10km以上先だ。
つまり今、自分達がいる場所は最小でも20km四方砂漠しかない空白地帯。
このファルマズィ=ヴァ=ハール王国にそういう場所があるかどうかを、記憶の中の地図を頼りにジャッカルは考える。
「……一番可能性があるとしたら、ワッディ・クィルスから南南西に100から150kmあたりだと思うが、その場合だと北にいきゃムカウーファが近いし、南にいきゃ街道の密集してる王都圏に入って、どっかの街道に出る可能性も……」
「では、北か南でしょうか?」
しかしジャッカルは即決しない。
なにせこの場所が今あげた位置だとは限らない。もしかしたら王都よりもずっと南にいるかもしれないし、北にいるかもしれない。
「サーナスヴァルからあまり大きく南に動いてなけりゃ、メサラマ近くの可能性もありやがるんだがなぁ。もし北だったら、マサウラームとレックスーラの合間あたりってセンもあるし……」
もっと言ってしまえば、ここがファルマズィ=ヴァ=ハールですらない可能性だってあるのだ。とはいえ、そこまで言ってしまうとキリがないのだが。
「あの、ジャッカルさん。西か東に向かってみるのはどうでしょう?」
「東西? そりゃまたなんで?」
「ええと、確かこの国は東西に大きな街道が南北に走っていましたよね?」
ジャッカルは言われてあっと感嘆の声をあげる。むしろ今までそのことに気付かなかったのが恥ずかしいくらいだ。
「そうか、町や村に俺は固執しすぎてた。街道なら点じゃなく、線で走ってるから捉えやすい。しかも東西の大街道は縦に走ってほぼこの国の東西の内側を包んでる。ここがファルマズィ=ヴァ=ハール国内なら、東か西に向かい続ければ大街道に確実にぶち当たる! さすが
こうして二人はまず、ファルマズィ=ヴァ=ハール国内にいること前提で、国の東西脇を通る街道に当たることに期待し、ひとまずは馬車を西に走らせることにした。
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