第104話 省戦次程の談
リビングアーマーを形作っていた
鎧のパーツがバラバラになって砂の大地に散らばり、ピクリとも動かなくなる。
「……シャルーア、どうだ? 完全に倒せたと思うか?」
リュッグ達には黒い煙のようなモノとやらは見えない。この場で唯一、彼女だけがソレを確認することができる。
「……おそらく大丈夫だと思います。ナーダさんが剣を突き刺した時、あの頭の隙間から黒い煙があちこちに噴き出して、霧のようになって消えました」
その言葉に、リュッグだけでなく傭兵達も安堵して緊張を解いた。
実際、地面に落ちてるリビングアーマーだったものに動き出しそうな様子は微塵もなく、せいぜい吹く風に軽い部品が揺らされてる程度だった。
「とりあえずは良し、だな。撤収の準備にかかろう……そうだ、パン支部長。あのリビングアーマーだったモノを回収し、厳重に封をして様子を見るようにする事は可能だろうか?」
「念のための措置ですね。もちろん可能です。パーツごとに別々の箱に入れ、仮に再び動き出したとしても大丈夫なよう、重しを付けた上で傭兵ギルドで保管しておきます」
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そして数日間、他の個体がいる可能性を考慮して、町の周囲の警戒が続けられることになり、リュッグ達は今しばらくジューバの町に滞在することになった。
「しかし問題だね、もし似たようなのが出てきたらどうすんだい? その “ 黒い煙 ” とやらはシャルーアにしか見えないのだろう?」
打ち上げを兼ねての食事の席で、ナーダが今回の敵について今後への懸念をあらわにする。
だがリュッグは、いいやと首を横に振った。
「以前に遭遇した時と今回のことで、シャルーアに見えるという “ 黒い煙 ” とやらは
「なるほどね、急所が見えないのは普通の生き物も同じ……そう考えればヤツにも急所があり、ソレが見えずとも普通の得物が通じるかは確かに大きいね」
例えば狩りで獣を仕留める時、その急所は肉や皮によって覆い隠されている。また知識がなければどこに急所があるのかも分からない。
それは見えていないのと同じだ。逆に言えば、見えていなくとも急所があることだけでも分かっていればそれを探り、狙って戦うことができ、倒す事が可能だ。
「次があったとしても、対処は今回より容易になるだろう。シャルーアのように目で見えなくとも、倒せる事が分かっていれば傭兵にはそれで十分だ。未知の敵に遭遇して苦戦を強いられるなんてのは織り込み済みの職業だしな」
何せシャルーアは一人しかいない。
探せばあるいは、同じように黒い煙とやらが見える人間はどこかにいるかもしれないが、現実的にはそういう者を誰もが伴うことは難しい。
リュッグ達にしても、たまたまシャルーアという仲間がいたからこその幸運だ。本来、傭兵の現実はそんな曖昧な運にすがることもできないほど厳しい。
長年、傭兵として生きてきたリュッグは、正しく現状を把握していた。
「そうかい。ま、今は無事に済んで何より―――と、言いたいところなんだけどね」
ナーダは自分のシミターを鞘から抜き出してしげしげと見る。
通常のモノよりもやや刃渡りの長い
「コイツは無事とは言えないね……さて、どうしたもんだか」
気性的には素手でも戦ってやるというナーダだが、武器があるに越したことはない。さらに言えば、それが手に馴染んだモノであればなお良しだ。
つまりはこの刃こぼれや薄いヒビがあちこちにある、痛んだシミターを手放すのが惜しい。
かといってこの状態で次に強敵に出くわしたら、すぐさま折れてしまう可能性がある。
最低でも予備に何か別の武器なりを持っておきたかった。
「そういえばこちらの予定に合わせると言っていたが、どうだろう? 我々はアイアオネという町にいる鍛冶師を訪ねるつもりでいる。変わった相手だが、そこでならそのシミターを直して貰えるかもしれないが……」
ほんの少しばかり言いよどむリュッグ。
一国の女王様をそんなあちこちに連れ回すようなことをして良いものかと臆した。
しかし当のナーダはというと、表情を明るくしてすでに行く気満々だ。
「そいつはタイミングがいいね、もちろん同行させてもらうよ。もしかするとコイツも頼めるかもしれない」
そう言って取り出したのは、シミターとは別の剣だった。
装飾がなされた宝剣のような出で立ち―――だが刀身はハッキリとヒビが走り、一部が黒ずんでサビつきも見られる。痛んでからそこそこの年月が経過している一振りのようだった。
「一応、王家に代々伝わる宝剣だよ。私にとっちゃちょっとした理由から、母の形見みたいなもんでね、ワダンには直せる者がいなかった。まぁダメもとでその鍛冶師に見せてみようと思う」
こうしてリュッグ達の次の目的地は、アイアオネの町に決定した。
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