第24話 人の敵を討つ者
――――――アイアオネの町、美容店。
町中で遭遇したミルス達と共に、リュッグとシャルーアはマレンドラの元を訪れていた。
「ハッハッハ、ギルド支部は単なる窓口だからね、そりゃ尋ねてみたところで
「それでなに聞いても教えてくれなかったのかー」
元気な少女は納得すると同時に、美容室の椅子に座ってグルグルと回転する。
それをマレンドラは、細い腕のどこにそんな力があるのか、少女の頭を片手で掴んで遊ぶんじゃないよと簡単に止めた。
「私達もまだまだ知らない事が多く未熟でした、申し訳ありませんミルス様」
フゥーラは命じられたことで成果をあげられなかった事を悔やむように頭を下げる。対照的な二人の少女たちに、ミルスは首を横に振った。
「物事、常に上手く進むはずもなし。もしそうであったならば不穏や危険は今頃この世に一切なく、人は安寧と平和を享受しておるだろう。お前達はよくやってくれた!」
ノリよく元気少女がミルスとヒシッと抱き合う。
やや演劇めいたそのお茶目に、フゥーラは二人の横でため息をついた。
「また風変りな連中を連れてきたもんだねリュッグ。…んで、アズドゥッハだって?」
ミルス達の目的。それは危険な魔物の情報を小耳に挟んだので、それについてより詳しい話を調べることだった。
なのでリュッグは、アイアオネの町の何でも屋であるマレンドラのところに彼らを案内した。彼女は傭兵ギルドにも通じていて一部業務を行っている。彼女のところに流れてくる情報は、傭兵ギルド支部よりも深く多い。
「ああ…少し前に、ザムのやつが目撃情報を元にした調査依頼を受けてたはずだ。何か情報は入っていないのか?」
「ちょっと待ちな。………ぁあ、これだね。はぁーん、あの
リュッグは真剣な面持ちで差し出された紙切れを受け取る。つらつらと書きつづられている文章を読み解くにつれ、額から冷や汗がにじんで流れた。
「本当にアズドゥッハだと。なんて事だ、あの
「調査に赴かれたザム様は大丈夫だったのでしょうか?」
「こうして報告が上がってるんだ、まあ大丈夫だろう。しかし書かれていることが本当だとすると状況は思ったより悪い………かなり危険だ」
アズドゥッハは1体ではなく
「出没地域は少し離れてるようだがね、いつこっちに来てもおかしかぁない…ったく、面倒なことになったもんだ。ちょいとリュッグ、どうにかならないモンかね?」
「ムチャ言うな。1体相手ですら、傭兵が連携組んでも勝ち目ない
シャルーアを連れている以上、このテの仕事は危険すぎる。リュッグの視線にシャルーアは不思議そうに首を傾げた。
その直後、彼女の後ろからドーンと全身で飛び掛かってきた少女が、リュッグの視界内に収まる。
「だいじょーぶ! ラージャたちがソイツをやっつけるから! ねー、ミルスさまっ」
元気な少女―――ラージャは、どれほど危険な相手かをまるで分っていないかのよう。リュッグはさすがに顔をしかめる。
「そんな簡単に倒せるような相手じゃない。あまりにも危険だとわかって――――」
「分かっておりますよリュッグ様。我々はそうした危険を排しながら各地を回っておりますので」
真面目だと思われたフゥーラですら、脅威のほどを甘く見ているかのように感じられ、長年の傭兵たる経験を持つリュッグとしては、そのあまりにも軽く危うい少女達の姿勢に怒りすら覚える。
だがそんな感情が表出する直前、彼の肩に優しく雄大な手が乗った。
「リュッグ殿、まぁ落ち着きなされ。フゥーラの言う通り、我らはそうした人類の脅威を除くべく、
「し、しかしっ」
ムニュッ
リュッグの片腕を柔らかい感触が包む。驚いてミルスと反対側の自分の腕を見ると、シャルーアが抱くように引っ張っていた。
「大丈夫ですか、リュッグ様?」
「あ、…あぁ、すまん。少し頭に血がのぼっていた、…らしくなかったな」
プロ意識が強いほど素人の、危険を理解していなさそうな浅はかな気構えや態度には憤りやすいもの。
おそらくはかなり怖い顔をしていたに違いないと、リュッグは平静に立ち戻る。
「はっ、でもねミルスさんとやら。リュッグが憤るのも無理ないんだよ。あんたらが何モンなんてこっちは知ったことじゃあない。だがね、
マレンドラがリュッグの気持ちを代弁するようにミルス達に叩きつける。いかに高尚な思想や意志でもって行動しようが、脅威を除く結果を得られないなら意味がない。
それどころか藪をつついて蛇を出すような話になれば最悪だ。弱き人々から不必要な犠牲が出る。
なので傭兵ギルドは傭兵が依頼を受ける時、実力に沿うかどうかを随時確認する。ザムの調査を受けて傭兵団を組ませて当たらせたのも、それほどでなければアズドゥッハを倒せないだろうと判断したからだ。
そしてそれは、現存する傭兵が個人単位で処理するのは不可能であるという裏返しでもあり、名うての実力ある者でさえ敵わないと言ってるに等しい。
その脅威に対して傭兵でもない、いわば浪人のような3人が安易に立ち向かうと口にするのは、ギルドの仕事を担うマレンドラにしても、到底看過できない話だ。
しかしミルスは、不敵に微笑んだ。
「うむ、もちろん存じている。だからこそ傭兵ギルドに話を通したかったのだ。仕事として………その魔物たちを退治するためにな」
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