第13話 アサマラ共和国の野望
ファルマズィ=ヴァ=ハール王国の西南方に隣接するア=スワ=マラ共和国。
通称アサマラ共和国は、周辺諸国と比べても特に小国である。ゆえに版図拡大の野心は歴代の王達の嗜みとまで言われるほど昔から根強く、国をあげて軍事力の強化に力を入れていた―――――常軌を逸するほどに。
「よぉし、次ぃ!!」
「おりゃあぁぁぁぁ!!」
ドスッ!
長いヤシの木を削っただけの簡素な練習槍を構えた少年たちが、人形に向かって突進を繰り返す――――いつもの光景を階下に見ながら、まだ年若い国王は執務室へと入った。
王の宮殿は大理石などを使ってあり、歩く廊下こそ豪奢に見えはする。
なれどさほど広くはなく、その造りも実用性を重んじているために居住区以外は天然の岩石地をくりぬいた独特の壁や天井に、補修部分は砂岩で埋め尽くされているなど、王の居城というよりは小規模な砦の如し。
王と側近が利用する各部屋のみが黒檀によって内を覆われ、上品に仕上げられていた。
そんな部屋の1つである執務室。その扉が閉ざされても外の音は漏れ聞こえてくる。
「フン、いつまでこのような小うるさいところに住み続けねばならぬのか…うんざりだな」
乱暴に椅子へと腰かける王は、まだ20代前半のイケメン青年。燃えるような赤褐色の肌と瞳はその若さも手伝ってか、不敵にして
「そうおっしゃられますな我が王。今しばらくの辛抱…先日の件、詳報次第では」
「動く日は近い、か。フッフッフ、楽しみだな
好戦的な若輩の王。
なれど確かな資質を持つ若者に、老いたる臣はゆっくりと頷き返す。
先々代より仕えてきた老臣は、この国が渇望して止まず、しかし望み叶わぬ様を幾代と見続けてきた。
野望は王だけのものではない。老臣達の望みでもあった。
「その通りにございますれば我が国が力、今は尚のこと溜めに溜めるが良しですぞ」
「分かっている。…それで? その肝心要たる
座る姿勢を正す王――――執務の時間だ。老臣は書類を机の上へと並べてゆく。
「まず “ 兵産院 ” でございますが本日未明に10名が産まれ、今週中に予定がある者としましてはあと20名はカタいと踏んでおりまする」
「うむ。年単位で長期化する場合に備え、兵は決して切らさぬようにな。…更にペースを上げる事は?」
「可能でございます。昨日付けで新たに56名の若い女を “ 兵産院 ” にいれておきました。いずれも他国からの入国者を罪人に仕立て上げての徴用ゆえ、
普段の厳しい訓練で蓄積する兵の
事実、この国の兵数は国家規模に比べて、明らかに過大であった。
・
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・
「……以上が本日の報告の全てでございます。御認可を」
「よし、今日も
「かしこまりましてございます」
この国には兵産院の他にも、その役目おぞましき部署は多数存在する。もちろんこの若き王はその実態を承知している。だからといって、心を痛める事は微塵もない。
それこそがこの国の王に求められる素質に他ならない。
……先王は在位中、1000を超える子を成した。
その中で唯一、国家の悲願を達成するための “ 非道 ” の数々を知っても、悪しとも目を背けもせず、ただ自信をもって笑い見つめていた子供…それが今代が王である。
「(兄弟姉妹どもは今頃しかと我が国に貢献しているか…ククク、もう死んでいるやもしれんが)」
彼以外の王子は、女児であれば兵産院に…男児であれば労働奴隷にと容赦なく叩き落される。
異常にして非道――――全てが国家的野心のため、王には情など不要。
その意志、欲、行動、発言…全てが小国から大国へとのしあがるために
「そうそう、王よ。連れて参った者の内、より良き女3名を厳選させ、ご寝室にて待機させておりますれば」
「フッ、本当は5人なのだろう? 2人は
「カカカ…いや、これは失敬いたしました。では、ごゆっくりおくつろぎくださいませ、ご昼食は―――」
「いらん。この俺に楽しめと言っておいて飯時までなど短すぎるわ、夜も不要と伝えておけ。ハッハッハ!!!」
あてがわれた女達は王に
しかし、彼女らに王のお相手という
なぜなら王の寝室に連れてこられる前に兵産院を見学させられている。もし王に捨てられた場合、そこにぶち込まれると理解させるために。
なので彼女達は必死に媚びへつらう。
王は彼女らに何もしない。だが自分を満足させられない女は捨てる。
歴代の王に妃などいない。必要ないからだ。
今代の王にも既に60人の子がいる。その母親が誰であったかなど覚えていない。
愛など不要。
全ては国のため…女など子を産ませるだけの存在としか認識していない。
子らは王の子として特別待遇を受けはする。だがいずれ王位が譲られる時、子らもまた
「早く大望果たさねばな。まったく我が業たるや罪深きものよ、クックック…ハーッハッハッハァ!!」
笑うだけで周囲で奉仕している女達が怯える。
冷酷非道なる軍強の小国王は、涙と屍の山の上に平然と座する非情を貫きながら、
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