5. 共に居る為に
十月も終わりに近づき、街にはすっかり秋の行事と化したハロウィンの飾りがあふれている。
関山市の商店街主催のハロウィンパレード。数年前から植物の神様として有名になった土童神社を出発して、街中を仮装して練り歩くと商店街の無料券や割引券が貰える。集合場所の神社の境内は参加者の学生や親子連れが大勢集まっていた。
「……でね、博くんがフランケンのマスク被って……」
その中で魔女の格好をした礼子が、ゾンビメイクの美菜に博人との思い出を語ってベソベソと泣いている。休みの度に博人との思い出の場所を巡っては涙するようになった妹を美菜が優しく慰めていた。
「良かった。ちゃんと人前でも悲しむことが出来るようになったんだ」
頭に赤い四本の短い触角と長い二本の触角を生やしたシオンが人混みの中から伺いながら笑む。
「そうだな」
同じく頭に焦げ茶の耳、尻にふかふかの尻尾を生やした法稔は、自分にきゃっきゃっと声を上げて集まる子供達に戸惑いながら頷いた。
ちなみにこの触角と耳と尻尾は本性は巨大ザリガニのシオンと狸型獣人である法稔の『自前』だ。
「サッカー部のマネージャーもやめたんだって。篤志くんもあの晩から礼子ちゃんを避けているらしくて、美菜さんが『根性ナシ!!』って怒ってた」
アレを見た後では仕方がないと思うが、相変わらず美菜は妹の過激派であるらしい。
「でも、塾は通い続けているんだ。博くんが応援してくれた大事な夢は頑張って叶えるからって」
そのうち彼女はその夢を手がかりに悲しみから立ち直れるだろう。
「……しかし……どうして、私までパレードに……」
今朝、いきなり連絡を寄越しスケジュールを聞いた後、空き時間に現れて強引に連れて来られたことをぼやくと
「息抜き! お玉さんに聞いたよ。最近、また一つ修行を増やしたって!」
シオンが睨んでくる。
破防班と違い、常に多忙な死神の仕事をこなしつつ、法稔は空いた時間があると修行したり、玄庵やエルゼを訪ねて教えを請うている。それに加えて今回の事件でシオンの力を借りざるえなかったことから『解呪』の勉強も始めた。
「……本当、ポン太は礼子ちゃんタイプなんだから……」
「法稔だ。大丈夫だ。ちゃんと仕事との調整はしている」
長にも許可を取っているし、先輩達も彼が勉強に集中する時間が取れるように、手助けしてくれている。
後は余暇の時間をもっと勉強時間に当てれば……。
「その『大丈夫』は信用出来ない!!」
「……そうか……?」
なのにお玉と同じことを言うシオンに真顔で首を捻る。
『オレ達も君達のようになりたかったな……』
最後の博人の言葉。ふとそれを思い出す。
未熟な自分の術を補ってくれたシオン。いずれ、彼はしっかりと制御力を身につけ、公園で見事に『真水』を操ったように力を自在に使えるようになるだろう。そのとき、大きな水の力を持ち、戦闘センスも良いシオンに自分はきっと足下にも及ばなくなる。
……だからこそ……。
自分は自分の得意な力を伸ばす。獣人ならでは鋭い察知力と観察力、そして個人的な強みの解析力と浄化力。それらを合わせ冥界が得意とする『解呪』を極める。そうすれば、これからもシオンが助けを必要とするときに力になってやれる。
礼子と博人の一方的に片方が助ける関係でなく、両方で助け合う関係であり続ける為に。
「そう言えば博くんは……」
「いろいろあったから、今は静かに眠らせてあげた方が良いだろうと『贖罪の森』の湖の底で眠っている。彼の善良で強い魂に近いうちに冥界人として生まれ変わらせるように天界に打診中らしい」
「そっか。それなら、いつかまた礼子ちゃんと会えるね」
「ああ」
邪気に侵されなかった博人は、魂の浄化を司る浄化地を守る戦士に相応しい。いつか……礼子がこの世で生を全うしたときに、どこかの浄化地で二人は再会出来るだろう。
パレードの始まりの声に自分で涙を拭いて礼子は顔を上げた。
「……ところで、これはどうにかならんか?」
法稔が後ろを指す。ゆらゆら揺れる、ふかふかの尻尾に小さな子が抱き着いている。その後ろには順番待ちの列が出来つつあった。
「やっぱ、もふもふは強いなぁ~。ボクも尾っぽ出そうかな?」
シオンの尾は扇のような鰭の着いた赤いアレだ。
「いや、ここで出すとパニックになるからやめとけ」
「じゃあ、ハサミ」
「それは更にマズイだろう!」
ノリノリで触角を振るシオンを、頭の耳をピクつかせてながら法稔が制す。それを見た子供達から歓声が上がる。
パレードの音楽が鳴り始める。青い空から秋の淡い日差しが降り注ぎ、街は美しく色着いている。その中を事件から立ち直りつつある少女と彼女を救った本物の『お化け』コンビを加えた奇妙な列が歩き出した。
虚像は泣けない END
下っ端魔族と死神の心霊トラブル相談録 いぐあな @sou_igu
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