中年ドロップキック

龍心

引退宣言

カーン カーン カーン カーン

小さな会場に ゆっくりと鳴り響いたテンカウントゴング

中央のリングに立った俺は

ゴングを一つ一つ確かめるように心に刻むように聞いていた

疎らな声援の中

プロレスラー龍心は 涙ながらに引退宣言した

「気持ちはあっても 体力が続きません!!」

なんとも締まらないセリフだった

バラバラの拍手 野次の飛び交う中 俺は引退した

その昔は そこそこの人気もあった

プロレスラー龍心と言えば 連戦連勝

リングに立てば 必ず勝つ

子供には大人気

アニメにもなってたが 寄る年波には勝てずに

人気も勝率も 右肩下がりの急降下だった

天才プロレスラーの異名も 旬を過ぎた 太った中年プロレスラーだった

もう一度スポットライトを浴びたかったが

俺は 奮起し 猛練習を続けるが その練習中にアキレス腱断裂と 医師の太鼓判付きの引退を突きつけられた

俺の人生なんてこんなもんかと嘆き

鳴り響くテンカウントゴングを聞いて 涙を浮かべていた 正直悔しかった 中年とはいえ まだ44才

20年前には 大人気で知らない人の方が少なかったのに…

今や 鋼の肉体も 中年太りの醜いだらしない体が晒されていた

俺は この四角い戦場から降りた もう戻る事は無いだろう 引退後は 会社に若手選手の育成を頼まれたが しばらく故郷でのんびり過ごすよと 連絡先だけ残し会社を後にした


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