第33話 増せる殺意
なぜ自分に幽霊が見えているのか――そしてなぜその幽霊と会話できているのか――。
ナオキは「私の名前はルナ。死人よ」そう言った金色の髪の幽霊と部屋にあったイスに座り、同じようにイスに座ったルナと向かい合っていた。
霊感にでも目覚めたのか、ハッキリと人と同じように見えている本物の幽霊と反してみることにしたのだ。自分が抱える疑問の答えも見つけられるかもしれない。
「あなたの名前は?」
「……ナオキ」
まだ全く味方だと信用はしていなかった。けれど、話を聞いてみることにしたのは助けられる人間はなるべく助けると決めていたからだった。
「あなたも幽霊なの?」
「は……?」
「どうしてあなたには私が見えるの?」
「分からない。分からないけど人間だ。死んだ覚えは……ない」
正直……ないことはなかった。シロビトに触れられた時のことが頭をよぎる。
「私もそう思うわ。あなたは生きている人間。最初は私のこと見えていなかったもの。心臓は動いてる?……私のは止まってる……」
ナオキは血が冷えていく感覚を抱きながら自分の胸に手を置いた……確かに心臓は動いている。俺は生きている。
「そんなことより、私と一緒にここから脱出してほしいの」
「……最初のエレベーターの中で俺を脅かしたのはお前じゃないのか?」
まずはこれを聞いておきたい。ナオキはルナの話の流れを折って確認した。
流れる沈黙……。この問いに対してどう答えるのか。同一人物であれば本性を現すかもしれないのでナオキはより鋭く白い肌が目立つルナを見ていた。
「……あれは私じゃない。ここには……この場所にはもう一人霊がいるの。それも含めてこの場所と私の境遇を話すわ。いつまた鐘の音が鳴って奴らが動き出すか分からないしあまりゆっくり話している時間はないから簡潔に」
ナオキはその言葉に対して頷くだけで返した。
「ここは昔、殺人鬼を作る施設だったの。どこかの山の近くにビルが建ってて、私たちは今その中に居る。色んな方法でここに人を連れてきて実験台にしてた……私は孤児でいわゆる児童養護施設で育てられていたんだけど、色々あって同じ孤児たちとここに連れてこられた。ここで具体的にどんな実験をされていたのかよく分からない……でも、私も殺人鬼にどんどん近づいていってたみたいで……」
「……よく分からないって?」
ルナは言葉に詰まって深刻な顔になり、ナオキは何て言っていいのか分からずにただ問い詰めた。
「何をされていたのかよく分からないの。ある日は頭に超音波みたいなものを当てられて、ある日は一匹のねずみが入った飼育ケースとナイフが置かれた部屋に入れられた。体にメスを入れられたことは一度もなかった…………けど、自分の殺意が増してると感じる瞬間があった」
「え」
最後の言葉を言うと同時にルナが目を合わせてきたものだからナオキはぞくっとして身構えた。
「あ、ごめんなさい。死んでからはそんなものは無くなったの。本当に」
ルナは両手をあげて座ったまま後ろに身を反らして見せた。
焦ったしぐさや上目遣いで目を大きくしたのが今のところ一番人間らしく見えたので、とりあえずナオキは言葉を信じた。
「……実験の途中……君は何かで死んで、実験に成功したのがあの黒い奴らってこと?」
「まあそんなところだけど、私たちは隙をついて逃げようとしたの。でも脱出には至らず、施設内はめちゃくちゃになってあの黒い奴ら……クロビトって名付けられてたんだけど、あいつらだけが残った。私たちを管理してた奴らも死んだわ。私にはこの世にどうしてもやり残して忘れられないことがあった。その強い気持ちがあったからこうしてこの世に留まったんだと思う。けど、壁をすり抜けられるこの体でも何故かここから出られない。もうどれだけ時間が経ったか……」
気の毒だと思った。心から。
この話が本当であるなら、ルナはとても不幸で、この施設はとても恐ろしい。殺人鬼を作る施設――クロビトは人為的に生み出されたもので改造人間のようなものなのだろうか。そしてクロビトという呼び方が始まりの廊下の老人と同じ。
「それで……何で俺が手伝えばここから出られるの?」
「変なドアが8階にいつの間にかあったの。どこからか現れてそのドアから出て行く人間も見たわ」
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