第26話 恋する乙女

 ナオキは写真に付いているホコリを払って写真をよく見た。


 特に不思議なところはない女の子が一人で写っている写真だった。白い壁の前で白いシャツを着た長い金髪の女の子がご機嫌そうに目をパッチリと開けて微笑んでいる。


 高校生ぐらいだろうか。ユミコほどではないがルックスはかなり良い。こんな場所で見るから不気味だが端々まで見ても変なところはない。


 写っているこの女の子が「ルナ」という名前なんだろうか――。


 ナオキは写真を自分のポケットの中に入れた。写真に意味があるかないかは分からないが一応持っておくことにした。


 ふう……


 雑念を吐き出すように息を吐いて。エレベーターのほうへ向かう。


 ここからまた始まる……


 ナオキがエレベーターの前に立ち、上に向いている矢印のボタンを押そうとすると指が届く前に扉が開いた。


 エレベーターが舞台の怪談話はよくある。主人公が密室でどうしようもないままに霊に殺されたり、エレベーターが勝手に落下して終わるというのがほとんどの結末だ。


 そんなどうしようもないのだけはやめてくれよ。


 ナオキはほかに進める場所もないのでエレベーターに乗った。


 八番目の部屋で感じた嫌な気配はない。エレベーター内部を見ても変わった様子はなかった。


 床は薄汚れているし、飾り気がなく手すりもないことから客を乗せるためのもではなくデパートなどにある従業員用のように見えた。働いているときによく訪れたホテルの内部に会ったものとよく似ている。


 数字のボタンは8まで。下はB2までか。今はどこにいるんだ――


「上へまいります」


 ナオキは反射的に肩がすくみ、声がしたほうへ素早く振り向く。確かに自分の真後ろから声がした。女の声だった。しかしその先には誰もいない――


 エレベーターのドアが閉まり、動き出す。聞こえた通り上へ動いている。


 この狭い空間に見えない何かがいる――。ナオキは壁に背を付けて死角を無くした。息が当たるほどの距離に感じた声を受けた首の後ろ辺りから鳥肌が立っている。


 行き先を示すボタンのほうを見ると、5のボタンがオレンジ色に光っていた。


 気配はなかった。それなのに――いや、ある。斜め上だ。いっぱいいる。


 エレベーターが上へ登っていく。窓から見える各フロアは暗くてよく見えなかった。


 ナオキは懐中電灯を取り出して。動く準備をした。この感じだと一番嫌な気配がするのはもう一つか二つ上の階。どうせそこで扉を開けられるのだろう。


 ふう……ふう……。


 ナオキは数秒だけ目を閉じた。


 ピンポーン


 到着の音が鳴り、開いた扉の先を懐中電灯で照らすと、真っ黒な人間がたくさんいた。

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