第23話 <八の部屋>
白い手に体に触れられた瞬間、触れた場所から稲妻が体中を巡るような感覚がナオキを襲った。頭にもその感覚は轟き、意識が飛びそうになる。
くそっ――なんだこれ――
鋭い目…パッチリした目……白い体に黒い線で形作られている。白い何かはちょうどナオキの体が収まるほどの大きさの手でナオキを掴み持ち上げ、首だけが外に出ているナオキを観察した。手を動かし、様々な方向からナオキを見る。
ちくしょう……何も考えられなくなる……
ナオキは謎の強い刺激から解放されたはいいものの、全身の感覚が消えていた。首だけになってしまったようで、力を入れようにも全くどうしようもなかった。そして、視界は端から黒くなっていき、意識が遠のいていく……
やがてナオキを掴む手が開かれて、左右不揃いの形をした目に見つめられたまま、今度は白い何かが持つもう一つの手、大きさはそれほどでもない細長い手につままれたところでナオキの意識はなくなった……………………
…………目覚めは突然で、不思議なものだった。気絶していたような感覚、寝ていたような頭や体が重い感覚はなくて、頭から何もなくなったと感じるくらいにスッキリしていた。
自分が今どこにいるのかも理解できている。どのくらい気を失っていたのかは分からないが、頭の状態からして気を失った後ですぐに目覚めたような感じだ――
けど、ここは黒い空間だ。俺はあの後どうなった?白い奴はいない――あのピカソの絵のような訳の分からない形をした奴らは――
白い何かがやってきた方向を見ても何もいなかった。
そして、次に別方向を見たナオキは口を大きく開けて腰を抜かした。
ものすごくでかく白い何かがいる。ナオキを掴んだ個体と同種だと思われるが大きさが尋常ではない。めいいっぱい顔を上に上げても白色の終わりが見えない。
……なんだこいつは。あれは手なのか、あれは足なのか。動くのかこいつは。
かなり距離は離れているように見えるが、あれが動くなら落ち着ける距離ではない。
なぜか助かり感覚も戻っていた体を起こして走り出す。
心臓の鼓動が耳まで響き、しっかり聞こえる。手を開き、握る、血が通っているのが分かり、暖かい。走りながら足の指までグッと力を入れれば靴下の感触まで指先から伝わる。
よし、体の調子は良好だ。息苦しさや嫌な気配もしない。今のうちに急いで出口を探さなければ。
ナオキは走った。果てしなくでかく白い何かがいる方向とは逆に、首を振りながら。時折、後ろを見ても白い何かとの距離が開いている気がしない。
これまでの部屋と同じならどこかにドアがあるはず。あってくれ。
ナオキはネガティブな考えはせずに必ずこの空間のどこかにドアがあると信じた。絶望的な空間にいるはずなのにナオキ自身も不思議なほど勇気を持っていた。気を失った後目覚めてからなぜか力が湧いてくる――
向かう先に白い何かがまたうじゃうじゃといた。大小様々、ナオキを掴んだのと同じ5m以上のも入れば、ナオキより小さい奴もいる。
どうするか一瞬迷い、後ろを振り返ると巨大な白い何かが先ほどより近く感じた。ナオキは止まらずに右に曲がって進んだ。どちらとも離れようとした――しかし、その先にも数えきれないほどの数の白い何かがいた。
しかも、それらは自分に気づいたのか気づいてないのか分からないがこちらに向かってきている。
ナオキが後ろに引き返そうとしたときには先頭にいた白い何かが目の前まで接近された。
また捕まると思ったが、白い何かたちはナオキを無視して通り過ぎていった。すごいスピードで自分の横を駆け抜けていくそれらは、走っているように足を動かしている者もいれば浮かんでいてスーッと抜けていく奴もいる。
ナオキはその中で冷や汗を垂らしながら立ち尽くしていた。
明らかにこっちを見て行っているような奴もいるが俺が見えていないのか。あいつは足が無くてこいつは目が無い――こいつらがこの空間を支配する霊か――理解できないが助かったみたいだ。
白い何かが向かっていく、自分が走ってきた方向を見ると視界の大半が白くなっていた。
やはり近づいてきている――
急いで走り出すとすぐに、地面に足がつかなくなり、髪が逆立って下から突風が吹いてきた。
落ちているのか――
ナオキの体は黒い空間の奥深くに吸い込まれていった。
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