第24話 容れぬ

 落下のスピードはどんどん上がっていく。頭から下に落ちていて風で目も開けられない。


 このままでは――


 このスピードのまま地面にぶつかれば物理的な力で死ぬ。ナオキがそのことが頭によぎった時に生温い空気がナオキを包んだ。


 水蒸気の中にいるような……いや、もっと濃い。でも、水の中にいるときほどではない。


 ナオキの体はその中で速度を落とした。今度はゆっくり。ゆっくり沈んでいく。実際に行ったことはないが宇宙空間にでもいるみたいだった。


 どうなっているんだ――もう訳が分からない――


 ナオキは首を曲げ、腹筋に力を入れて、頭を上に持っていこうとした――が、上手く体勢を変えられない。周りの状況を確認しようともがき続ける。ナオキが肩に力を入れた拍子にくるりと体が回り、落ちてきた方向に向けて仰向けの体勢になった。

 するとその目線の先に見たくないものがあった。


 白い何かが一匹――自分と同じように落ちてきている。


 しかも、それはすごいスピードでナオキに迫っていた。


 大きさは大したことは無く、ナオキよりも一回り小さいぐらいだった。どんどん近くなる白い何かはナオキに向かって手を伸ばしていた。それが意味することは分からないがどうにかこの場から逃れたい。


 足をバタつかせ、手を回し、水中を泳ぐように移動を試みるが思ったようには移動できずに地面もまだやってきてくれない――。


 ――すぐに白い何かに追いつかれたナオキに再び稲妻が走った。体がこわばり、固まる。


 身動きとれないナオキに対して、白い何かは抱きつくような体勢になりナオキの顔に自らの顔を近づけた。


 他の個体と同じように生物間のない真っ白な目だが他の奴よりもさらに不安定な顔のパーツ、他の個体がピカソの絵なら降ってきた者は子供のらくがきみたいな見た目をしていた。


 こいつは俺をどうするつもりだ。さっきはどうして助かった?どうすれば……体に力が入らない……また気が遠くなっていく……


 どうしようもなかった。見ているだけで頭がおかしくなってきそうな顔に見つめられ、恐怖すらナオキの頭から抜け落ちていった……


 気を失いそうになる中、自分の中に何かが入り込み、血管の中で何かがもぞもぞしてる感覚が微かにナオキの手にあった。消えかかる視界では白い何かがナオキにより顔を近づけて密接に絡んできていた。


 俺は……こいつに……乗っ取られるのか……


 完全に目を閉じそうになった次の瞬間、ナオキと白い何かの相容れぬ二つの体が磁石の同じ極同士が反発するように勢いよく離れた。


 その勢いのままどんどん遠ざかっていき、一瞬のうちに小さな白い何かは黒色の中に消えた。


 もう上下左右も分からない。その光景を見終えるとナオキの意識は二度目の眠りについた……………………





……………………白いドア。ゆっくり目を開けて周りを見ると自分が黒い空間に入る前の始まりの廊下にいることが分かった。

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