第20.5話 (家)

 ある平凡な夫婦に新たな家族が加わった。生まれてきた男の子の目は成人の目ほどの大きさだった。


 二人にとって初めての子供。少し人と違うところがあっても愛することができた。


 成長するにつれて男の子の目はどんどん肥大化していった。他の子が喋り、立って走り回るようになる年齢になっても男の子はハイハイがやっとで、喋る言葉もアーやウーだけ。徐々に両親は人目を気にして子供を外に見せなくなった。


 ある時、数日間で男の子の大きな目の中で黒目が白い部分を覆っていき真っ黒になった。


「外に出ていい?」




 同時に言葉をすらすら話せるようになった。


 何か邪悪なものに憑りつかれているみたいで気味が悪くなってきた両親は医者に連れていったが治せる者はいなかった。


 二人目の子供ができて、その少女が健常だったことも男の子への拒絶に拍車をかけた。


 流暢に話しかけてくる男の子を無視して女の子を可愛がり、気づけば男の子は二階の一室にいつも閉じ込めていた。その部屋には黒いカーテンを貼って外から見えないようにした。


 男の子の部屋には食事だけを運び、誰かが家に来たときは部屋の中の収納に入っているように言いつけた。男の子が勝手にものに触れることも禁止して、許可なく部屋から出てきたら両親が怒鳴りつけて部屋に戻した。


 ある日ぽっくり死んでくれればいいのに――両親はそう思っていた。三人家族だと思って日々生活を送り、出かける時も当然三人。三人家族で通せるところはすべて三人家族で通した。


「僕は家族じゃないの?」


「……そうよ。あなたは違うの」


 直接否定したこともあった。


 男の子が小学生に上がる年になった時、夫が家を出て行こうとした。たまに男の子に対して負い目を感じながら三人で暮らすのが嫌になったのだ。妻もこの暮らしが嫌なのは同じだった。


 二人は、事故死を装って男の子を殺すことに決めた。どうすれば警察に見破られないかを2人で相談した。


「僕を殺すの?なんで?…………なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」


 相談中、いつのまにか後ろにいた男の子。今度は頭が見る見るうちに肥大化していった。夫は真っ先に家から脱出して、妻は取り乱し、包丁を取り出して男の子を殺そうとした。


 男の子の首を裂き、腹に包丁を突き立てた。


「今度は僕が閉じ込めよう」


 死体が動いて、化け物へと姿を変えた男の子は入った人間を外に出さなくなった。


 私が悪かった。こうなって当然。あんな化け物もうどうしようもない。


 警察も、近所の人も家に入ってきたけど、驚いて逃げ回ったのがあの子の気に障ったのか気まぐれに殺された。いつからか怪しい家の様子を見に来るものはいなくなって、代わりに謎の人間が家に入ってくるようになった。


 その人間もほとんどは死んだけど、たまに外に出て行くものがいた。その中でこの家のルールは理解した。このまま死んでもよかったけど出られるならもう一度外の空気を吸いたい。


 この前二人入ってきたときは上手く一人脱出されたけど今度は私が出よう。他の誰も出れなくていい。私が出よう。今いるおじさんは慎重で動こうとしない。次入ってくる人は勇敢だったらいいな。

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