第14話 場も少ない

 カズオに化け物を殺すという発想があったなら自分が来る前に既にやっているだろう。殺せばいいと言ってしまえばどうなるか分からない、同意はされず少なからず否定されると推測していた。しかし、まだ説明を終えていないカズオの話の合間に言葉が口から出てしまった。


「殺すって…………あいつをか……」


 カズオ信じられないと言った様子だった。ナオキの顔を伺って目を丸くした。


「はい。今は待ったく動かないんですか?だとしたら殺せるでしょう」


「…………殺すって言ったってどうやって?お前霊能力者か何かなのか?」


「いえ、霊能力者じゃありませんが、目を刺して首を切れば死ぬんじゃないですか。動かないなら難しくない」


 無茶苦茶なことを言っているという自覚はない。一つ目の部屋では無我夢中だったができたことだ。殺すのが一番確実。2人ならよりやりやすい。


 そして、カズオの反応から分かったことがある――。


「物騒なことを言うなお前。あの部屋に入った時あいつは侵入者の動きをしっかり見ている。お前もさっき見ただろ。俺が入った時に動いたところを見たことはないがずっと監視したこともない。武器なんて持って入ったらすぐに襲ってくるかもしれない」


「一つ聞いていいですか?一つ目の部屋からはどう脱出したんですか?」


「どうって……霊から逃げて見つけた扉を開けたら出口だった……お前まさか……」


「殺しました。殺さなくても出れたんですね……」


「殺しても出れるのか……いやしかし……」


 やっぱりそうだったか。霊を殺すことが部屋から出る条件ではない。


 カズオは言葉を失い、ぶつぶつと生えた自身のあご髭を触りながら考え込みだした。その表情に怯えは見えず、殺せるのならといった視点で策を考えているように見えた。幽霊屋敷に挑戦しようというような人間で、化け物の近くにいる時はさすがに怖がっているように見えたが、この状況でパニックに陥らず耐えれているんだ勇気がないことはないはず。


 全ての部屋で霊を殺すことも条件になっている保証もないが、この部屋はやったほうがいい。近くにいると加齢臭が臭うおじさんらしいおじさんで体力があるようには見えないがのってこい――。


「やめてください。殺すなんてとんでもない」


 足音がして言葉と共に夜の間隣に座っていた女が現れた。その後ろには少女も引っ付いている。


「それに無理ですよ。殺すなんて。やめてください」


 女はカズオではなくナオキだけを見て言った。肌は白く、細長い輪郭に一重の目。その目を見開いて訴えかけてきた。


 言葉の真意が分からなくて何て返していいのか分からない。赤い血管が走る目から病的なものを感じられる。


「お願いします――やめてください」


「わ、分かりました。落ち着いてください」


 女が近づいてきたのでとりあえず了承した。


「見てください」


 女が後ろを向いて長い髪を上によけると青黒い中に赤味がある痛々しいあざがうなじにあった。


「前に昼間化け物に立ち向かおうとしたときにできたものです。ちょっと包丁を持って部屋に入っただけでこうなりました。だから、やめてください。危険です」


「その女に同意するわけではないが、俺もやっぱり殺すのには反対だ。あの化け物が黙って殺されるとは思えん。危険だ」


 納得はいかなかった――。ナオキはとりあえず、2人で協力して殺すことだけをあきらめた。


「お前の勇敢さは分かった。脱出するときは必ずお前と脱出すると誓うから、俺の策に従ってほしい。殺すのは最終手段にしよう。どうしようもならなくなった時の殺しの策も後で考えなくちゃな」


「分かりました」


 ナオキの了承の言葉を聞くと女は部屋に入らずに不思議そうにやり取りを見ていた少女を連れて二階に上がっていった。ナオキもカズオもそれを黙って見送る。少女と女は同じ髪型をしているし、顔のパーツもどことなく似ている気がするけど親子ということでいいんだろうか。


 仕切り直して話始める前にカズオがダンボールから水と食料をナオキに渡した。ブロックタイプでパサパサの栄養補給バランス食品、カズオもそれを頬張りながら機械的にエネルギーを摂取しながら計画を話してもらった。


「こればっかりだ」


 うまくもまずくもない食べ物を口にしながら話の途中でカズオはそう言っていた。


「家の構造と使えそうなもの、化け物が取りそうな行動はだいたい分かりました。じゃあ、逃げ場も少ないこの家で上手いこと化け物の注目を引き付けて逃げ回るのが僕の役目ですね」


「ああ。難しいと思うが俺もなるべく素早く作業を進めて、脱出できるような状況になったらすぐに知らせる」

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