第67話 またね。




「そろそろ僕も戻らないと。セシリア、龍の離宮で待ってるから、またね」


「……おそとにでるときは、こんどはちゃんと、ぜんのすがたで、ね」


「うん、頑張るから。絶対に来て」


「またあそんでね」



 私の初めてのお友達。……人間じゃなくて霊獣らしいけど。


 みんなでかなり広い食堂みたいな部屋へ行き、食事を摂った後に龍の離宮へと帰っていった。


 あ、ちなみに朝ご飯は、子供だけかと思ったら、王様と王妃様、父様と母様、ハンスイェルクルークと一緒に摂りました。

 シュトレイユ王子によると、普段、ハンスイェルクルークは呼んでも滅多に姿を現さないので、食事を同席した事はなかったし、姿も…昨日初めて見たのだそうだ。



「がくえんにゅうがくまでの、ぼくたちのまほうのせんせいなんだけどね、とうさまから…とてもきびしいってきいてたんだ」


「姿も見たことがなかったが、魔力操作ではアルフレド宰相よりも秀でているそうだ」



 子供達のテーブルに視線をやり、にこりと笑みを浮かべているハンスイェルクルークを見て、2人の王子はほっとしたように話し出す。


 ……多分、スパルタだと思いますっ!

 ハンスイェルクルークの研究に対する姿勢がそもそも、ストイックなまでに追求するという表現がそのまま当てはまる。

 そういう人が先生となるなら……すごく厳しいと思うのですよ。


 それに、一般的には3歳で魔力測定にて判定を受けてから、貴族なんかだと、先生を招いて魔法の勉強を始めたりする。

 王子達の場合は、4歳で判定を受けてからの、勉強開始だから、すでに一年遅れている。

 まぁ、遅れていると言っても、3歳から4歳になる間を無駄に過ごしてるわけではなくてね、王族として勉強しなくてはいけないものがたくさんあるから、魔法まで手が回らないっぽいという話だったけど。


 それでも、ハンスイェルクルークに教わって、入学後の学園では群を抜いてトップクラスの腕を披露したという歴代の王族達の話を聞くと……やっぱり、ねぇ。

 すごく厳しいんだと思うのです。

 がんばれ……レオンハルト王子!



(私は母様に教わるのかな?それとも父様になるのかな?)



 楽しみだなぁ。頑張っちゃうよ!

 そんなこんなを考えながら、食事は進み、私たちが食べ終える頃には、大人達の席にはお茶とお菓子が並んで、何やら色々とお話が……盛り上がってるというよりは何かを決めていってるような。会議中!と言った感じで話が進んでいた。



「セシリア、おはなしがきになる?」


「うん…」



 聞き耳を立てても、少し距離が空いていて内容は聞き取れなくて。

 そもそも子供に聞かれて困るような内容をここで話したりはしないと思うのだけどね。



「えっと…いまね、こんやく…セシリアのこんやくの…」


「あぁ、父様が言ってたやつだな」



 シュトレイユ王子が内容を話し出した瞬間、シュトレイユ王子の髪が風に煽られてふわりと広がった。



「……あれ?きこえなくなっちゃった」


「珍しいな。今、風吹いてたのに」


「……あれはぼくじゃないよ。あれ?あれ?」



 耳に手を添えて不思議そうに頭を傾げている。

 あぁ、うん、上には上がいるからね。

 普段はできて「今はできない」のなら、普段いない人が何かしたんだろうねぇ。


 ていうか、話の内容からして……嫌な予感しか、しない。



「レイは、風に乗せて、遠くの音を聴くのが得意なんだ」


「すごいな!王家は風の魔法が得意って聞いてるんだけど、そんな事もできるんだね。僕も魔力があるって言われてるから、楽しみだな!」



 エルネストが目をきらきらさせてレオンハルト王子と話してる。


 うん、風の魔法って便利だもんね。

 魔力の使い方がすごく上手なら、いろんな魔法の代用ができちゃったりする。

 それこそ、ハンスイェルクルークのあの空飛ぶ食事とか、光の魔法の得意とする身体強化系とか。

 まぁ実際に強化できるわけじゃないんだけど、例えば、高いところから着地する時に風でフォローしちゃえば、身体強化しなくてもふわりと、軽く着地できるでしょう?


 ……そうか、エルネストは孤児院から王都ここに来たんだものね、そもそも周囲に魔法を使える人が少なかっただろうから、今まで魔法の事になると興味津々になってたのかな?

 前前世むかしから獣人の魔力持ちはすごく少なかったから…と思ったんだけど、そもそもエルネストは孤児なのだったら、獣人だからっていう理由から物珍しそうにしているのとは違うんだろうなぁ。


 前前世むかし、魔力持ちの獣人に会ったことが……というか、教師の中にいたんだよなぁ。

 むちゃくちゃ厳しい先生で、学生時代のハンスイェルクルークとものすごく相性が悪かった先生。

 あぁ、相性が悪いってだけで対立してたわけではないんだよ?

 何かにつけて根性論が入る感じの先生でね。そういう「熱血!」的な言葉や指導がどうしても苦手だったみたい。

 ハンスイェルクルークはいつも眉間にシワを寄せて対応してたっけ。

 実際は面倒見の良い先生で、私は実技や実地試験でかなりお世話になった。

 ……懐かしいなぁ。



「……セシリアがなんかにやにやしてる。そのクッキーおいしい?」


「ん~多分違うことでにやにやしてると思う。こっち見てない気がするよ?」



 ……私の顔の前で手をひらひらと振って、シュトレイユ王子とユージアが何やら話し込んでるけど、気にしない事にした。

 テーブルの反対側ではレオンハルト王子とセグシュ兄様、エルネストが魔法の話でやたらと盛り上がってるし、私は私で自分の世界に浸らせてもらおう。


 前前世むかしのことを思い出すのは楽しい。

 ……はたから見たら、単なる妄想癖なのかもしれないけど、眼前に昔の景色が一気に広がるように記憶が蘇っていくのが好きなんだ。

 今世いまはなぜか、というかハンスイェルクルークがいるから余計になんだろうけど、一番最初の記憶がすぐ浮かんでくる。


 ハンスイェルクルークは転生を始めるきっかけを作った、記憶に残る一番最古の生で、共に過ごすことの多かった友人「だった」



(今世いまはどうなんだろう?どうしたいんだろう?)



 本当なら、そんな懐かしい友人とのまさかの再会なんて、ものすごく喜ばしいところなんだけど、なにか私への接し方がおかしい気がして、素直に明かせない。

 ……まぁ、ハンスイェルクルークはすでに、私の正体を確信してしまっているみたいだけど。



(本当、どうしたものかなぁ……)



 昔のままのハンスイェルクルークであれば、なにも考えずに素直に正体を明かしたし、今のこの国や世界についての情報交換や、色々とフォローをお願いしたりなんかできちゃったら、凄くありがたいんだけどね。

 そういう意味では頼りにしたいところではあるんだけどね……。


 むむむ……とさらに思考の海へ、というか沼…泥沼(?!)に沈みかけていたところで、手をぐいっと引っ張られて、バランスを崩しているからずり落ちそうになる。



「セシリア、あっちいこう?おもしろいのがあるから」



 シュトレイユ王子とユージアが席を立って、移動しようとしてたので「いってらっしゃい」しようと思ったら……って私も一緒なのね。

 なぜかユージアはにやにやと意地の悪そうな笑みを浮かべているんだけど。

 ……これからなにか始まるんだろうか?


 シュトレイユ王子に手をぐいぐいと引かれて移動を始める。




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